14-6 戦いの序章
ツバサはベティに叩き起され、翌日また体育の補講を受けに向かった。その日の補講にはレイナも参加していた。相変わらず上手くいかないツバサとカイザは本当に居残りをさせられることになった。
「本当にこんな下手くそな魔術士は見たことがないわ。ばっちりしつけてやるからついてきなさいよ」
ツバサとカイザの補講が始まる前、ベティとレイナはこっそり入口の窓から覗いていた。外からは内側の声は何も聞こえなかった。
「情けないわよ、貴方達。だって、貴方達の最期は剣術で締めくくられるんだから」
「最期……?何言ってやがるお前――」
いきなりカイザの口調が豹変した時だった。部屋の中が歪み始め、2人は意識が飛んだ。ユリアナの楽しそうな笑い声が聞こえた。意識が飛んだのは室内にいた2人だけではなかった。
ツバサは目を覚ました時、自分が学校には居ないことにすぐに気づいた。鼻につく独特な匂いに顔をしかめて周りを見渡すが、そこは知らない場所だった。
「まさか……アース?!」
「どうやら無事みたいだなツバサくん」
上からカイザの声がして、ツバサはため息をついた。耳をすますと知らない言語が少し離れた所で飛び交っていることがわかった。
「俺達はどうやらアースに似ている空間に飛ばされてしまったらしい……それからベティさんも、一緒にいたレイナさんもだ」
「ベティはどこだ?!」
「多分あの偽者教師と一緒にいるんじゃないのか」
「偽者教師ってユリアナ先生のこと?どうしてユリアナ先生が……アースに似ている空間って何だよ」
「戦いの幕開けに備えてウォーミングアップといったところよ!」
その時、今まで姿を見せていなかったベティとレイナがユリアナの隣に現れた。その手には尖った剣があった。2人の虚ろな瞳は、ツバサに胸騒ぎを与えた。
「ツバサ・サングスター!!カイザ・グレイ!!今日まで特訓してきた剣術を発揮する時よ!さぁ殺し合いなさい!これは戦いの序章!これから全てが始まるのだから!」
ツバサとカイザの手に剣が現れる。2人は互いの名字を知って顔を見合わせたが、ツバサはそこまで驚いてはいなかった。しかし我に返っていたのもツバサだけだった。
「っ!!」
頬が切れて血が肌を伝った。体勢を慌てて整え、すぐに顔を上げるが相手の方が少し速かった。びゅんと音を立てて、剣がツバサの顔ぎりぎりの位置で風を切った。思わず冷や汗をかいた。
「我々の使命!それはお前達を――」
「チッ何でグレイの奴らはいつもこうなっちまうんだ?!カイザ!一度休戦だ!というか俺はお前と戦う気は無い!」
「……は?君、今更何を言って……君はあの女と組んでる、そうなんだろう?」
「違う。頼むから落ち着いて聞いてくれ」
ツバサが手から剣を離して地面に置くと、カイザもおそるおそる地面に剣を投げた。それでも目だけは警戒心をあらわにしていた。ユリアナの視線が感じられたが、ツバサは気にもとめないような振りをして言った。
「ここで俺とカイザが戦ったらあの女の思うツボだ。このおかしな空間から抜け出る鍵を持っているのもあの女」
「まさか君、俺と協力して女を倒すっていうのかい?あの女は仮にもサングスターの名字を持ってるんだよ」
「ユリアナ先生がサングスター?!」
「そうだ。あいつはグループの中でも幹部の魔術士さ。しかも殺した人間を喰っちまう頭のイカれた奴だって言われてる。君、知らないのか?」
「知らないって言うか、そもそも俺はグループに属してないし」
「そうか……俺は元々あの女を殺るために補習に紛れ込んだんだ。しかし少し話が変わってきたな」
通りでさっきのカイザの剣さばきは見事だったわけだ。ここでまともにカイザと剣術で戦っても全く勝ち目は無いとツバサは思った。しかし、この空間に連れ去られることや、カイザの正体がユリアナにバレていたことも想定外のことだった。
「じゃあ一時休戦だな、ツバサ君」
「おう」
「でも、剣術はそれが本当に実力なんだろ?」
「……じ、自分からまだ攻撃を仕掛けられないだけだ」
「避け続けることはできるってか。体力には自信があると見ていいんだね。……なら俺のサポートに当たってくれ、2人でユリアナに向かう」
ツバサとカイザは先ほど地面に置いた剣を手に取ると、一斉にユリアナに向かって飛びかかった。しかし2人の作戦はあっけなく崩れた。なぜなら、ベティとレイナがそれぞれに向かってきたからだ。




