14-2 最弱コンビ
ツバサよりも少し長身で見下すような一重に、緑色の髪を結わえていた。片耳にはやはり緑色のピアスが光っていた。エルフは美形が多い。彼もまた、色気のある雰囲気をまとっていた。
「……望むところだ」
エルフ青年の持っている術式剣は、剣が固体化していなかった。細長くつむじ風が剣のような形を作っていただけだった。
ツバサと青年は向かい合うとそれぞれ武器を構えた。ユリアナが開始の合図をした時、同時に2人の剣がクロスしてぶつかった。踏ん張っていたエルフ青年の足が少しずつ後ろへずるずると押されていく。エルフ青年は咄嗟に剣を突き出してきた。慌ててツバサは自分の剣で防御する。
「な、なかなかやるじゃないかぁ、貴様」
「そ、そっちこそ……っ!」
1本すら決着がつかない。いつの間にか2人の周りには生徒達が集まってきていた。勝負を黙ってユリアナは見ていたが、しばらくして諦めたかのように肩をすくめた。
「……はぁ、キリがない勝負ね。この数分で1本も取れないってどういうこと?あんた達2人とも、ひどい、ひどすぎるわ。こんなにも剣術が苦手な魔術士は見たことが無い」
「え」
睨み合っていた2人は同時に声をこぼすと、ユリアナの衝撃の一言に剣を手から落としてしまった。ツバサはユリアナの元へ駆け寄った。
「なな何で?!何で?!ユリアナ先生どうして?!俺剣術だったら最弱ってこと?!」
「あら、自覚あるんじゃない。だったら話が早いわね、ツバサ君」
「先生俺の名前……」
「私は前から貴方のことを知ってるわよ。カイザ、貴方も他人事みたいな顔しないで。貴方もひどいもんだわ。良い勝負のように見えたのは2人とも同じくらい下手だから。1本も取ることが出来ない魔術士ってことよ、全く……ベティちゃん、貴方の剣さばきはとても素敵だったわ。皆の前でカイザの相手してみて」
不機嫌そうなツバサのローブのフードをユリアナは掴んでどかせると、代わりにベティへ手で示した。ベティは目をぱちくりさせながらカイザの前に立つと剣を構えた。カイザと呼ばれた緑髪エルフは自分の魔術が消えていることに気づき、急いで剣を作って構えた。それから1分もしないうちに勝負は決まった。
「はい1本、2本、3本!!素敵!!」
ユリアナが拍手をすると、他の生徒達も歓声を上げて拍手を送った。ベティは注目されたことに恥ずかしくなり、少し照れていた。相手をしたカイザも唖然としながらベティに言った。
「あっという間の勝負だったよ……確かに君の剣さばきは美しいね」
「そ、そんな、美しいだなんて、そんな」
「いやいや本当のことだよ。ゆっくり教えてもらいたいくらいだ、2人だけで」
ベティは笑いながら謙遜した。それを見てますますツバサは苛立ちを感じた。ユリアナはがしっと腕をツバサの首までかけると言った。その時甘い香水の香りがふんわりとした。
「ツバサ君とカイザは後日、特別補講を行います。良いわね?特別補講に来ないと武術の単位はあげないから」
「何でこうなるんだ」
「今後も剣術についてやるから。皆良いわね!」
自分の出来なささにツバサがイラついていると、ユリアナが小さく手招きしてきた。何ですか、とユリアナの近くに向かうと、ツバサの耳元でささやいた。
「貴方は、この時間に特別補講にいらっしゃい。皆の前ではあんな言い方をしたけど、ツバサ君……正直カイザよりも能力が足りないわ」
呆然としているツバサに、ユリアナは特別補講の日程が書かれた紙を差し出す。受け取ろうとしない生徒を前に、ユリアナはため息をつくと、ツバサのローブのポケットに無理やり押し込んだ。
授業が終わった途端、ツバサは少しイライラした足取りでバトルフロアを後にした。学校の廊下をずんずん歩いていると、レイナと鉢合わせた。
「え、たった今武術終わった感じ?……って何かあったの?超怖い、この男」
「武術は今終わったとこだよ、レイナ」
ベティが横から口を挟むと、レイナはうんうんとうなずいてその場から離れた。歩こうとした時、ベティは背後から肩を叩かれた。
「あ、さっきの」
「何か用か、ポニーテール野郎」
「何か用かって言われると別に用は無いんだけどさ。というか、俺にはカイザっていう素敵な名前がちゃんとあるんだけど。短い間だけどさ、俺の特別補講仲間になれて光栄だね、君」
「光栄どころか願い下げだ!」
「こうして俺達が出会えたのも何かの運命だよ。そう思わないかい?」
「何なんだよさっきから気持ち悪い」
「いや君に聞いてないよツバサ君、隣のベティに聞いてるんだ」
「ベティを勝手に呼び捨てにするな!」
「じゃあベティちゃん?」
「ちゃん付けするな!」
「ベティさん?ベティさん、彼は貴方の父親か何かなのかい?」
「お前俺のこと馬鹿にしてんのか?!」
ツバサとカイザがいがみ合っているせいでまた周りの生徒が注目し始めた。ベティは仲介する勇気も無かった為、2人が自分に注目していないうちにその場から離れた。
その時ちょうど、落ち込んだ顔をしたレイナが戻ってきてベティは助けを求めた。
「レイナ、ちょうど良いところに」
「何やってんのあの人達。男ってやっぱ馬鹿ね。止めなくていいの」
「良いんだよもう、放っておけば」
「何エルフの人初めて見るね、新入り?そういや私も武術足りてなくてさ、明日から補講受けることになっちゃった」
「……ある意味レイナがいてくれると心強いわ、私」
「また変な知り合いができたもんだね。武術の先生誰?」
「ユリアナっていう、ボンキュボンの猫獣人の先生。剣術をやるって」
「ユリアナ……新しい先生?」
「多分。初めて見た……あ。いけない、今日からツバサが家に来るんだった。超めんどくさい」
案の定ベティは先に家に帰り、部屋の掃除を簡単に終わらせた。部屋が少なく、ベティの部屋に布団を敷くことになってしまったのだ。
夕方ツバサは店にやってきた。すみません、という言葉を何回も祖母に向かって言っているだけで、特に変わりは無かった。しかし殆どベティとは会話を交わさなかった。




