13-1 ウサギと巨漢
大資料館の開館2時間前。まだ人通りの少ないレクタングルの街ではあったが、王宮付近の資料館の近くには2つのテントが立っていた。テントの中から男女2人ずつの魔術士がのそのそと出てくると、そのうちの男魔術士の一人が望遠鏡を片手に言った。
「流石にテント張って昨夜から張り込んでたのは俺達だけだぜ」
「そろそろカードを持った職員がやってくるわね。私達は裏口で待ってるから、あんたらでちゃんとカード貰ってきてよ」
「チッ、何で俺達が芝居を演出しなきゃいけねえんだよ。そういうガラじゃねえし……やっぱりレイナがいれば、火つけて軽くボヤ騒ぎ起こして職員全員退散させることが出来たのに」
男魔術士は舌打ちをしてレイナの名前を出すと、すぐに2人の女魔術士に睨まれた。すみません、と男はすぐに謝った。
「あんたらはそもそも術が何かダサいのよ。風に木……何かこう、地面タイプの魔術士ってダサいわよね」
「偏見だぞお前!」
「カードを貰うくらい、地面魔術士にもできるよね。今のところ私達しかここに居ないんだから。しっかりやりなさいよ」
女2人が行ってしまった数分後、資料館の職員が2人やってきた。2人とも中年男性で、疲れたような顔をして歩いてきていた。職員2人に地面魔術士の2人は近づいた。
「おはようございます、朝からご苦労様です……今日は我々が担当のはずですが」
「あれ、そうだったっけ……?でも、上からの命令ということなら。ええっと、カードはこれです」
「ありがとうございます」
機嫌良さそうに職員2人は帰っていってしまった。男魔術士2人は顔を見合わせるとにやにやと笑った。これで女達に馬鹿にされることも無い。1枚のカードを手にし、いざ資料館の中へ行こう、と振り向いた時だった。
怪しげな白いウサギの面をした魔術士が2人立っていた。地面魔術士はこそこそと会話を交わした。
「うわっ……さっきまでこんな奴居たか?」
「全然気配は無かったぞ……何かされたら結えてぶっ飛ばせば良いだろ」
「おう。しかしただならぬ気配がするけど」
「資料館の裏門番ってか?」
「君達!」
いきなりウサギ面の魔術士が叫び、2人はびくっとした。ウサギ面の1人は2人に向かって歩いていくと、片手を開いた。
「な、何だよ」
「悩んでいますね。あなた達の顔面は人生に対して不満げというか、うんざりというか、満足していらっしゃらない。それは気の毒なことだ。見上げてごらんなさい、この広く青い空を!」
「はあ?」
地面魔術士が何となく空を見上げるが特に何も無かった。その瞬間だった。ウサギの2人がさっと動いた。1人はそのことに気づいた。
魔術を発動させると長いツルでウサギ面の体をぐるぐる巻に捕らえた。ウサギ面は素っ頓狂な声を上げた。
「離してくださいまし」
「お前の声どっかで聞いたことがあんだよな……」
「……俺達をなめてんじゃねーぞ!……ツバサくんよお!!」
男のこぶしが木の幹のように硬くなり大きくなると、それは勢いよくウサギ面の腹に入った。ぐああ、と悲痛な叫びを上げるとウサギ面の体は放り投げられた。もう1人のウサギ面が叫んだ。
「大丈夫かツバサ!……じゃなくて、1号!大丈夫か!」
「これは……キヅイ……」
いつの間にか面が外れていたツバサは殴られた腹を押さえながら地面に向かってうつ伏せになっていた。馬鹿なんじゃないのか、と地面魔術士は笑った。その時、魔術士の2人に女達からの連絡が入った。
「……ベティが居る?……ああ、俺もツバサくんのお出迎えを受けたよ。でも今ちょうど彼、腹を抱えて痛さに呻いているところだ。へへっ」
「見損なったよ、お兄さん達。お兄さん達はウサギの救いを受けられないらしい。というわけで、ウサギのお仕置きタイムだ」
「もう1匹いやがった!てか何でこいつ銃を持ってるんだ?!」
ウサギ面をしたレンは銃口を2人に黙って向けていた。しかしこんな場所で撃つわけには行かない。勿論弾は入っていない。
「撃たれる前に打て!いけ!」
「急げば急ぐほど落とし穴はたくさん見つかるものですよ。とやっ」
男2人の攻撃を交わしながらレンは軽く掛け声をかけると、1人の股間を思いきり蹴り上げた。そしてカードを瞬時に奪った。だが、400万という数字はやはり大きく、相手も簡単に諦めようとはしなかった。
「やべ」
そう言うか言わないかの内に、大きいこぶしがレンの顔面を襲った。レンは鼻からも口からも血が出た。
「痛いなこのっ!!巨漢!!ツバサ、俺の歯折れてない?」
「……折れてないよ」
「いつの間にカードが無い?!」
「全くめんどくさい奴らだぜ。レイナもろくでもねえ奴とつるんでたんだな……チッ、いつまでも股間を押さえて良がりやがって気色悪い」
「めんどくさい奴なのはお前らだろうが!」
木術士の男が叫ぶと、ツバサは構える姿勢をとり相手を煽った。木術士が襲いかかると、ツバサはひょいと足を伸ばして転ばせた。そして男の上に馬乗りになると、首を腕で締め上げた。
「はい、いーち、にー、さーん……」
「ギブ!ギブギブギブ……」
ツバサの腕を叩き続けた男はやがて白目を向いてぐったりとなった。そしてカードを手に取ると、レンの前で得意げな顔をした。その顔よりもツバサの手によって巨漢が力尽きたことに驚いていた。
「凄い」
「元アサシンのレン・グレイから凄いいただきました!イェイ」
「他虐ネタやめろよ……その技どこで覚えたんだ?」
「テレビで見た。でも力加減に気をつけないと、死んじゃうらしい。レン、鼻血止まったね」
「……早く中へ入ろう。姫様方が退屈してるはずだ」




