11-8 このまま
ぐしぐしと腕で涙を拭うと、アスカはいきなりアレンの手を掴んで引っ張った。一軒の小さなラーメン屋に入ると、カウンター席に座った。店主は親しげにアスカに声をかけた。
「アスカちゃん久しぶりじゃん。今日は兄貴と一緒じゃないんだね」
「うん」
「……いつもお兄さんと来てたのか?」
「うん、お兄ちゃんが見つけたお店なの。凄く美味しいよ、別世界一好きなラーメン屋なんだ。いつか誰かに教えてあげたいと思ってたけど、今日までずっとお兄ちゃんとしか来たことがなかった」
アスカの言う通りラーメンは絶品で、無言で食べ続けた。横でアスカが鼻をすすりながら美味しい、と呟いた。2人の他に客は居なく、静かな時間が流れ続けた。そんな時、入口がガラガラと開いた。いらっしゃい、と挨拶をした後すぐに店主は声を上げた。
「あれ?ちょうど噂していたところだよ、お兄ちゃんじゃないか」
「え?アスカ1人で来てるの?」
その声にアスカははっとする。ツバサはにやにやと笑いながら入ってくると、必然的にアレンの隣に座った。アレンは初めてアスカの兄ツバサと対面した。この人もサングスターの魔術士だ。やはりグループの魔術士のような邪悪な魔力をあまり感じないが、何か"ワケあり"な魔術士だということは何となく分かった。それに悔しいことにやはりサングスターの魔術士は顔が整っているため、写真よりも遥かに美青年だった。
ツバサの後からもう1人少女が入ってきた。
「あ、リッチェル。珍しい組み合わせだね。違うよお兄ちゃん、1人じゃないよ。色々あって私の部屋に居候してるアレンです」
アスカが笑顔でアレンの肩を叩いて、そうだよね、と念を押しながら紹介した。へえ、とツバサは感心したような反応をするとすぐに店主に注文をした。
「てかお前勝手に塩持っていっただろ俺の部屋から」
「返すの忘れてた……ごめんね?」
「別に良いけど……居候ってことは一緒に寝てんの?彼氏?」
「何で彼氏が居候するのよ!彼氏だったら同棲って言うでしょ。アレンはそんなんじゃないわ、期間限定のチームメンバーよ」
「チームメンバーか!そりゃ失礼しました。ありがとね、こんな口うるさい女の世話焼いてくれて」
ツバサは笑いながらアレンに詫びの言葉を言った。アスカは少し不機嫌そうな顔をしていたが、アレンの言葉でぱっと顔が明るくなった。
「俺の方がアスカに助けてもらってばかりだったから、世話になったのはこっちの方だ」
「……そうやって言ってくれる人ほど世話焼いてんだよな……」
ツバサ達が食事に手をつけ始めた頃、アスカとアレンは食べ終わってしまった。アレンは何となくアスカの分まで支払ってしまった。
「じゃあお兄ちゃん、リッチェルばいばーい。帰ろー」
またアスカはアレンの手首を掴んだ。アレンはツバサとリッチェルに軽く会釈をして後について行った。
「やっぱりあれ彼氏じゃない?」
「それな。俺も思った。ちゃっかり奢っていったしな。イケメンだ」
アレンはアスカに手を引かれながら考えていた。一度アスカとは別れなければいけない。アスカの為にも、"旅"を続ける必要がある。ずっとアスカと行動を共にしているとはっきり言って危険だ。アスカのことを守りたいという気持ちはあるが、一緒に仕事に行くことは危ない。このまま明日も明後日もずっと居候してしまいそうだ。
明日の夜、アスカにバレないように旅立とう。そうアレンは決心した。




