11-7 君に託そう
連絡鳥を寄越したのはツバサだった。ちょうどツバサ達が悪魔界から帰還した日だった。そして、5年ぶりにアスカはカーティスと再会した。アスカは帰ってくると、父親に会えたがもう長くない命のようだと一言だけ言って眠ってしまった。
サークルの城にカーティスがいることを知ったアレンはアスカには秘密で会いに行くことにした。昼間、アスカが学校へ行っている間サークルの城へ向かいカーティスの部屋を外から探した。幸運なことにカーテンは開けられていて、窓からカーティスの姿を見つけることができた。初めはやはり躊躇ったが、アレンは窓をノックした。カーティスはすぐに気づき、こちらへと歩み寄ってきた。アスカの話によれば、もう安楽死の薬は打った後だ。閉まっていた窓が開けられた。
「君は……?」
「……アスカの、友人です。アレンと言います。……俺に見覚えなんて、無いですよね」
「昔にあったことがあるのかな。軽く記憶喪失になっていてね、忘れてしまっていたりするんだが。一度見たら忘れなさそうだけどね、君のことは。その青い眼帯、とても特徴的じゃないか」
「許されようとは思っていません。俺はただ貴方に真実を伝えに来ました。そして謝りに来ました。……5年前、俺と仲間は貴方の家族を、奥様の命を奪いました。ごめんなさい」
「まさか……君は、グレイの……顔を上げてくれ」
その言葉を聞いてアレンは下げていた頭を戻した。そこにいるのはアレンの知っているカーティスではなかった。カーティスは口を開いた。
「私はその時、オウバルCの地下牢に居たんだ。妻と子どもが殺されたことも知らず、残されたツバサとアスカがどのように生きていったのかも知らず……一番許されないのは私だ」
「アスカは貴方のことを……優しい家族思いの父親だと言っていた。俺は未だに貴方のことを見ると古傷が痛むんだ。本当のことを教えてくれないか。貴方を騙した"悪者"とは誰だ」
「君は真実を知ってどうするんだ。"悪者"を倒しに行くのか?それが君の本業なのかもしれないが。私の頼みを聞いてくれたら、教えてやろう」
「何だ?」
「アスカは昔と何も変わっていなかった……アスカのことを、守ってやってくれないか」
「何故俺に頼む?俺はグレイの人間だ、貴方の家族も殺した人間なんだぞ」
「そうか。私はてっきり君がアスカを嫁にくれとでも言いに来たのかと思ったよ。違うのか」
「ば、馬鹿にしてるのか貴様!」
「それにしては随分顔が赤いが?」
「アスカが俺のことをどう思っているのかなんて知ったこっちゃない……」
「じゃあ、アレン君はアスカのことが好きになったんだな」
アレンは口をつぐむしかなかった。悔しいことに否定する理由も見つからない。なぜこの男には何でも分かってしまうのだろう。そう考えていることも分かったのか、カーティスは笑って続けた。
「感情というものを取り戻したのが最近って感じがするよ、君。でも、良いんだよ。好きになっちゃいけない人なんて存在しないんだ。一族で敵であろうと、好きな人の母親を殺してしまった過去があろうと、好きになってしまったらどうしようもないことなんだ。それらは全て君の背景で、過去であるだけで、今の君には関係ない。今の君は今の君なんだよ」
「アスカにはいつか必ず俺の口から、過去の罪を話します。守りたい、守らせてください、俺に。だから……」
「その言葉、死界まで持ち帰ることにするよ。君に私の大事な娘を託すんだからな。……私の体を乗っ取った"悪者"は悪魔王アルトゥールだ。ある意味君達の宿敵と言ってもいいだろうね。今この瞬間、君の心は変わったんだろうが、残念なことに"背景"っていうのは変わらないもんだ。アスカと戦わなければいけない日が来るかもしれない……それが背負わなければいけないことだ」
「本当に呪われているようなもんですね、"一族"って」
今まで一度も思ったこともなかった言葉を口に出した。しばらく沈黙が流れた後、カーティスは力強い声で言った。
「アスカのこと、よろしく頼んだぞ」
「はい」
それが、カーティスと交わした最期の言葉となった。その日の夕方、カーティスは子ども達に囲まれて静かに息を引き取った。なかなか戻ってこないアスカが心配になり、アレンはサークル城の近くまで向かった。やがて城からアスカはとぼとぼと出てきた。こちらには全く気づかない様子で、思わず声をかけた。
「アスカ」
「……アレン。迎えに来てくれたんだ」
すると途端にアスカは俯いた。泣いていることにすぐに気づき、咄嗟にアレンは駆け寄った。
「アレン、お願い……私の涙を止めて」
アレンの胸に顔をうずめ、アスカは声をあげて泣きだした。その震える背中にそっと手をかけるとアスカの体を抱きしめた。何故かアレンまでこみ上げてくるものがあった。
「……メン」
「ん?」
「ラーメン」
「ラーメンがどうした」
「ラーメン食べに行こ、今から」




