11-6 離れられないんだ
「また見覚えが……」
「あっあった!借りてくよーお兄ちゃん……アレン、何か面白いものでも見つけた?」
「写真があった」
「……懐かしっ!みんな可愛いなぁ、私とお兄ちゃんのある意味初めての友達だよ。アルルって言うの」
「アルル……」
「もしかして知ってたり?アルル意外と有名人だからね。まあ、お母さんがあれだし無理もないか……こっちの写真の女の子はお兄ちゃんの彼女だよ」
アレンは必死でアルルという名前を脳内で検索していた。思い出せそうなのに思い出せない。この女と前に一度会ったことがある。何かアスカが話しているが、何も頭の中に入ってこなかった。
昼食中、アレンはおそるおそる父親について尋ねた。するとアスカはうなずいて口を開いた。
「そうだよね、アレンは昨夜ちょっと話してくれたもんね。……お父さんは、凄く優しくて家族想いで……"お母さんが死んだ日"までは幸せだったの。その日よりも前からお父さんが居なかったってことを知ったのは最近だけど……お父さんは優しい人だけど、危なっかしい面もあって。いつ居なくなってもおかしくないくらいだった。家族の中で魔術士なのは私とお兄ちゃんとお父さんだけ。お母さんはアース人で、子どもを2人連れていたの」
「アスカのお父さんはずっと優しかったのか?」
「ええ……お父さんは優しかったと思う。でもね、今生きているのか死んでいるのかさえわからないの。生きているなら、もう一度会いたい。お父さんは……お父さんはね、悪者に乗っ取られちゃったの。私達も、お父さんも、その悪い奴に騙されたの。……私がお伽話か何か話しているんだと思う?別に良いんだよ、笑ってくれても」
「悪者?」
「でもお伽話だったら良いのにって思うわ、私は。お兄ちゃんがその悪者のことを殴りそうに行きそうで私はちょっと心配なの。だってお兄ちゃんが居なくなったら、一人ぼっちになっちゃうもん。レイナさんだって、アルルだって、ベティさんだって、お兄ちゃんが居なかったら出会うことができなかった。私はいつまでもお兄ちゃんから離れられないんだ。お兄ちゃんはお兄ちゃんでチームを作って、好きな人ができて、頑張ってるのに私は成長できていない気がして」
「……そんなことないと思うぞ。それに、今は1人じゃないだろ。後で次の仕事を決めよう」
アスカは目をぱちくりさせてアレンのことを見つめた。食事を再開させたアレンは見つめられていることに気づいて顔を上げた。
「……何だ。間の抜けたような顔して」
「何でもないです!」
その時、軽くアレンは鼻で笑い口元が緩んだ。それをアスカは見逃さなかった。何故か顔が熱くなり、アスカは慌てて下を向いて食事を続けた。
翌日の依頼は星の砂浜で行われるビーチバレー大会のスタッフ兼、王のボディーガードだった。もちろんこのイベントはレクタングル国王が企画をしていた。
「何故こんな人が多い依頼ばかりなんだ……」
「仕方ないじゃない……公認団体の魔術士何人いると思ってるのよ……私はスタッフたくさんいるし隙あれば海で遊ぼうと思ったのに」
「海で遊ぶ?!ちゃんと働きなさい」
「貴方には言われたくないわ。働くべきなのは貴方でしょう……良いね、その眼帯!目立つしすぐ見つけられる!スタッフ皆同じ色のローブ着てるじゃない?」
王のボディーガードの魔術士は皆、橙色のローブを着ているのだった。そのポケットの中には護身用にと武器がいくつか入っていたが、アレンも見た事がないようなえげつないものばかりだった。
ビーチバレー大会が開始され、観客の歓声が上がった。たくさんの人々。歓声。ノイズが走るかのように真っ赤な大地のオウバルEの風景が頭の中に浮かぶ。途端に頭痛が襲ってきた。今までは頭痛がすることなんてなかった。それにこれは夢でも何でもない。ただオウバルEの風景が映されるだけで、誰もそこには居なかった。
「うわあ……あの人デカいなぁ……よくあんな重たいもの胸にぶら下げてスパイクなんか打てるな……」
つぶやいたアスカの声が耳に入り、アレンは我に返った。目の前に景色が少しずつ戻ってくる。
「……どうしたの、アレン?顔が真っ青だよ?」
「……」
「大丈夫だよ」
アレンの腕にアスカが腕を通した時、青い眼帯が微かに光った。段々と頭痛が引いていき、気持ちが落ち着いてきた。アスカは腕を組んだままビーチバレー観戦に戻った。
さっきの魔術は何なのかよくわからないが、とても気持ちが落ち着いた。俺はこれからどうすればいいんだろう。昼間のアスカの話を聞いて更によく分からなくなった。成長していないのは俺も同じなのかもしれない。グレイの血を誇りとして、黒の女王を尊敬して生きてきたが、よく分からなくなった。グレイの敵はサングスターだ。そして自分は暗殺者だ。俺は何のために生きている?人を殺すため?
しかし、このままでは俺はレンと同じただの裏切り者になってしまう。アスカは過去に俺達が殺すことができなかった魔術士の1人だ。アスカは既に俺のことを見破っているのか?わからない。
逆に5年前のあの日、アスカのことを殺してしまえば良かったのかもしれない。そうすれば俺は今頃何に悩まされることもなかった。もしかしたらグループの襲撃に遭った後、そのまま死んでいたかもしれない。
何を思い返してももう遅い。今まで使っていた眼帯はとっくに捨ててしまった。
「……お?チリフだ」
アスカは顔つきを変えて、アレンから腕を離した。連絡相手と真面目な顔で二言三言交わすと、アレンの両腕を掴んで言った。
「ごめん、アレン急用!アレンが居ないと報酬パーになっちゃうから一応居てくれる?体調悪くなったら無理しないで休んでよ!じゃあまた後でね!」




