11-4 お守り
「あの炎はアレンがやったの?」
「ああ、まあな」
「じゃあアレンに対する怒りが爆発してあのモグラはファイヤーモグラモンスターになっちゃったわけね」
「こんなデカブツを一体どうやって倒すんだ……」
「ええっアレンって20年くらい魔術士やってきてこういうモンスターと戦った事ないの?!今まで何してたの?!」
「俺の戦うべき相手は物心ついた時から常に人間……の心だ!!」
「最悪じゃない!でも任せなさい、アレン。私があっという間にやっつけてあげる」
モグラは炎をまとっている。そしてアスカは水術士。そのことに気づいてはっとすると、アレンはアスカに向かって手を伸ばして魔術を発動させた。
「だったら少し手を貸そう……希望乃風」
風術によってアスカの体がふわりと浮かび、モグラを俯瞰できる位置まで浮かび上がった。満足げに笑みを浮かべるとアスカは両手に力を込めた。
「報酬は私達が総取りよ!清成滝!!」
両手から大量の水術が溢れ出し、頭からモグラは滝のような水を浴びた。莫大な水量でアレンにまで滝の水は押し寄せた。アレンは捕獲ケースを浮き輪代わりにして何とか呼吸をした。それを見てアスカは慌てて空中で魔術を解除した。巨大モグラはみるみる小さくなっていくが、同時にアスカにかけられていた風術までも解除された。
「きゃー!!下が川じゃないー!!」
水術によりびしょ濡れになっていたアレンは慌ててアスカの落下点の下へ走り込んだ。受け止めるというよりも、アレンの体に突撃し2人はそのまま川に落ちた。アレンが咳き込んだ時、自分の体がアスカによって支えられていることに気づいた。川はアレンが思っていたよりもずっと流れが速かった。おまけに深く、完璧に溺れていただろう。
「すまない……また助けられてしまったようだ」
「……こういうのって普通男女逆よね……?まあ、モグラのボスを見つけてくれたのはアレンだし、お互い様ってことで。私に掴まっていて……あ、眼帯もびしょ濡れだね」
「すぐに乾くだろう」
「せっかくだから新しいのに替えなよ」
モグラ対決は1匹差でアレンが勝利をし、2人は報酬を貰った後宿舎へと戻った。結局アレンは居候という形でアスカの部屋でしばらく生活することになった。
夜、アスカは新しく買ってきた眼帯に自分の魔術を少しかけた。すると眼帯はアスカの髪と同じ青色に変色した。アレンはまだ湿った眼帯をつけたままだった。
「見て見て!ほら新しい眼帯!」
「何で青?」
「私が魔術をかけたからでーす。ほらほら早く替えて替えて」
「じゃああっち向いててくれ」
「何その鶴の恩返し的な台詞……眼帯の下を見られたくないの?まさか目玉無いとか?」
「見せたくないからだ」
「えー」
「電気を消してくれ」
真っ暗な中、アレンは眼帯を外して新しい眼帯をつけようとした。しかしすぐ近くで声がした。
「憎しみ。眼帯を外した時、憎しみを感じた」
「……え?」
「アレンのことを凄く憎んでいる魔術士にやられたんだね。魔術で負った怪我は大体治癒魔術で治るけれど、魔術にはその人の感情が入り込みやすい。特に憎しみ、憎悪は治癒魔術では消せない」
「……」
「憎しみが少し混じっているけど……十分綺麗よ、貴方の瞳は。だって右目がこんなに澄んでいるんだもの」
目が慣れてきた頃、目の前にアスカがいることに気づきアレンは後ずさった。アスカはじっと左目を見つめていた。
アレンの左目は藍色に染まり、覗き込むアスカのことを映さなかった。憎しみのせいで少し濁っていたが、そんなことは大して気にならなかった。
「私はこういう色好き。青い色は何でも好き」
「俺は嫌いだ」
「……そう」
アレンの片手から新しい眼帯を取ると、アスカはそれをつけてあげた。青色の眼帯が耳にかかる。
「何でよりによって嫌いな青色なんだって言いたいんでしょ?この眼帯には私の魔術がかけられているから。アレンが雨じゃない日に川とかに落ちた時、溺死しないようにするためのお守り」
「……余計なお世話だ」
「ああそう。だったら溺死しなさい、一生後悔するわよ」
アスカは電気をつけ、言い捨てるように言った。それに対してアレンは特に動じず落ち着いた声で答えた。
「後悔なんてない。俺はいつでも死ぬ覚悟で生きているからだ。死なんて怖くない」
「……昔のお兄ちゃんみたいなこと言って」
「随分兄のことが好きなんだな」
「うん……ずっとお兄ちゃんと2人で頑張ってきたからね。大事な家族だし」
「俺も親は元から居ないが、前も言った通り姉と2人で生きていた。でも、5年前にあるたった1人の魔術士によって一瞬で俺の仲間は居なくなったんだ」
「仲間……ってことは、旅人をする前はアレンもチームメンバーの1人だったってことね。良いなぁ、私はチームに入ったことすら無いのに。たった1人の魔術士?」
「……まあ、そう、チームだ。そうだ、1人の魔術士。姉の他にも5人ほど仲間が居た。全員が殺られた。俺の左目も、その魔術士によってやられたものだ。奴の光線が目の中に入ったんだ。助かったのは俺だけだった」
「その1人の魔術士っていうのがアレンのことを憎んでたってこと?……どうして」
「憎まれて当たり前なんだ。なぜなら……」
俺と仲間達はその魔術士の妻と子ども達を殺したから。正確に言うと殺してしまった。妻と子どもの一部は全員アース人で、肝心の殺すべき子どもは生かしてしまった。
という真実を自分の口から語ることなどできなかった。自分が暗殺者であることをアスカにバレたくない。このまま旅人であると嘘を貫いて、早くお金を貯めて、去っていきたい。何も自分の心に変化が起こる前に。
そんな思いに気づいたのか、アスカは微笑みながら話題を変えた。
「アレンのそのネックレス、綺麗だね。白い石?」
「姉がくれたんだ」
「お守り?」
「まあ、そんなとこだ」
「そっか、お守り持ってたんだ」




