11-3 土竜を叩きに
「い、生きてますよ!勝手に殺さないでください……そう、しばらく一緒に仕事に行くことになったアレンです」
アレンは成り行きでレイナに軽くおじぎをした。レイナはへえ、と軽い返事をした。テーブルに着くと、アレンは小声でアスカに尋ねた。
「普通に友達居るじゃないか」
「……いやレイナさんは友達っていうかなんて言うか……お兄ちゃんの友達……なのかな?知り合い?」
「ツバサっていうのは兄の名前?」
「うん。いつも何かどっかに行って、ボロボロになって帰ってくるの。困るよねーそういうの」
「まあ家族は大事だからな……」
「だよね。アレンもやっぱりそう思うよね」
"本日のランチ"が運ばれてくると、アスカは美味しそうと声を上げて食事に手をつけ始めた。まともな食事を長い間ちゃんとしていなかったせいかもしれない。朝食といい、このランチといいアレンは食べ物が美味しく感じてならなかった。
「……美味いな」
「でしょう!ここ本当に穴場なんだよ!学校からも近いし……」
「そうか、アスカは学校へも行っているのか。大変だな」
「アレンは魔術高校へ行かなかったの?……そもそも年齢不詳なのか」
「高校じゃなくて別のところで魔術について教わったんだ」
「ほうほう。ところでアレンはどんな魔術を使うの?これから依頼行くし、そのくらいはお互い知っておかないと」
「……ああ。俺はちょっと変わった術なんだ。一応名前は月光術」
「本当に居たんだ、月光術士……学校で教えてもらったくらいだよ。天候によって使える魔術が変わるってやつだよね」
「そう。晴れの日は炎、風の日は風や地、雨の日は水……みたいな感じだ。月がでている夜は特に魔力が満ちて動きやすくなる。月夜にだけ本来の月光術という魔術が使えるんだ」
簡単に口では説明ができるが、なかなか使いにくい魔術であった。特に"月光術"は最も扱いにくく、いとも簡単に他人の命を奪うことが出来る危険性があった。それと同時に膨大な体力も使い、自分の体さえも危険にさらしてしまう。
「へえ……雨の日は私と同じなんだね!じゃあ雪の日はどうなるの?」
「……氷?」
「上手くできてる仕組みだね」
「人の魔術を仕組み呼ばわりするな……」
おかしそうにアスカは笑った。それ以上アレンについて聞いてくることは無く、あっという間にランチタイムは終わった。
アレンはハネハネに乗せてもらい、アスカの言うレクタングルの山へと向かった。既に他の魔術士は続々と集まっていた。つい癖できょろきょろと辺りを見回してしまった。逆にアスカの付き人か何かと思われ、特に怪しまれることは無かった。眼帯をしている魔術士はアレンの他に誰1人としていなかった。だからと言って外してしまってはまたそれはそれで返って印象深くなってしまう。
「さぁ、モグラを探すよーアレン!」
「何でそんなに楽しそうなんだ……?モグラが好きなのか?」
「なわけ!ほら、私ずっと一人で仕事してきたからさ。期間限定のチームメンバーでもすっごい嬉しくて」
「……そうか」
先をずんずんと歩いていってしまうアスカの後を急いで追いかけた。追いかけながら周りの魔術士の様子を見た。地術を使って掘り起こしている者もいれば、実際にスコップで掘っている者もいた。他にはよく分からない餌を仕掛けて罠を作っている者がいた。
「随分めちゃくちゃなんだな……」
「アレン!早くー!協力プレイにする?それとも対決にする?」
「……アスカがやりたい方で良い」
「おお……それなら、対決だね!」
「えっ前者の方かと思った……」
「じゃあここからは単独行動になるけど、ズルは嫌だからなるべく近い場所でやろ!……なるべく川とか滝がある近くで」
「ハンデ?」
「違うわっ!さて、この辺の水はどこかなー」
アスカは目を閉じ意識を集中させた。川がある、と叫ぶとアレンの手を引いて山の奥へと入っていった。本当に川が流れており、幸いなことに周りに他の魔術士達は居なかった。
「今からスタートよ!どっちが多くのモグラを捕まえられるか勝負ね」
アスカはアレンが返事をする間もなく川の方へと走っていった。アレンは空を見上げた。晴れだ。炎術でどうやってモグラを探すか。
「モグラ焼きは美味いんだろうか……」
その頃アスカは川の近くに顔を近づけ、意識を集中させようとしていた。しかしふとアレンのことが頭に浮かんだ。あの人はレンに雰囲気が似ている。でもレンよりも感情が無くロボットのようだ。朝からずっとアレンが笑っている顔を見ていない。嫌われている?ウザがられている?いや、"そういう人"なんだろう。
考えることをやめる為にアスカは首を振ると、川の流れに目を凝らした。
「いたっ!!」
モグラは泳ぐことができる。水術で水の勢いを早め、水に流されるモグラを手で捕まえる。あらかじめ用意されていた専用の捕獲ケースにほいほいとモグラを入れていく。
「どんなもんだ!アレンはどんな感じかな……?え?!ボスの気配?!」
数分前アレンは基本魔術である"動くものを感知する"魔術を地面にかけた。そして自分の足で地面を踏みつけて振動させ、一定の範囲内にモグラを集めた(勿論モグラは地面の中にいる)。
「噴火」
範囲内の地面に両手をつけ、魔術を発動させるとアレンの藍色の光線は炎と化した。地下から炎術が吹き出しモグラがぽんぽんと溢れ出した。その時少し辺りに風が吹いた。
「……今日は風も吹くのか、もしかしたら」
今度は空に向かって手を伸ばした。上からモグラが降ってくる前に風術が発動される。
「大地乃竜巻」
竜巻にモグラは巻き込まれ、そのまま捕獲ケースに向かって綺麗に落下していく。
その時だった。地面が激しく揺れ始めた。別世界も海があるため地震は発生するが、地震のような揺れ方ではなかった。足元の土がボコボコと盛り上がって、アレンはジャンプして盛り上がりから避けた。異変に気づいたアスカが捕獲ケースを担いでやってきた。
「何事?」
「来るなアスカ!危険だ!」
「え」
その瞬間アスカの足元の地面が吹っ飛んだ。突然のことにアスカは仰天したが慌てて捕獲ケースを胸に抱いた。そのまま近くの川へケースと共にアスカは落下した。
アレンの目の前には巨大モグラが居た。こんなものが地面に埋まっていたと思うとある意味震えてくる。モグラは体中からアレンが仕掛けた炎術の炎がめらめらと燃えていた。いつの間にかアスカが岸へ戻ってきていた。体は全く濡れていなかった。アレンが訝しげな顔をした。
「川にダイブしたくせに何で濡れてないんだって言いたいんでしょ?私は水術士、水は友達!」
「なるほどな……そう言われれば俺の体も操れる魔術すべてに対応しているからな」
「でもアレンは天候に左右されるから今日は水で濡れるんだね。でも火をつけても燃えないんだ。なかなか死なないね」
「お前!さらっと今とんでもないことを口走っ―」
2人の立っていた場所に向かってモグラが飛び上がり、慌てて2人は避けた(避けたというよりも振動で体が飛ばされた)。アレンはアスカの手から離れた捕獲ケースを必死で掴みケースを守った。
「いや守るならそこは私を守ってよ!」
「これはある分俺達の金になる……依頼を達成できなければ俺は一生ここで……」
アスカはまた川に落ちたが、すぐに岸に這い上がってきた。捕獲ケースを安全な場所に置きつつ、アレンはどう巨大モグラを捕獲しようか迷った。どう考えてもケースにはモグラは入りきらない。ローブのポケットの中に入れるという手もあるが、ポケットの中に土まみれになり獣臭くなってしまうだろう。
「さてどうしたものか……」




