9-6 裏切りの光
「グレイはグレイらしく地獄に落ちろ!!」
アルルが叫び、また魔術を手に貯めた。レンが耳を塞いだ。たまらなくなったベティはアルルに向かって雷術を発動した。
「アルル!お願い目を覚まして!放電火!!」
その時、隣に居たカーターがアルルの背中を軽く押して片手で魔術を発動させベティの雷術を跳ね返した。この前と同じドロドロとした毒が飛んできて、ベティはレンを守りつつ避けた。
「アルルに攻撃すら行かないなんて!」
「……やめてくれ……怖い……俺……もうやめ……」
"グレイは死ねばいい!"
"口答えするな!穢らわしい悪魔め!"
そう怒鳴られて蹴りつけられていた日々がレンの頭の中を駆け巡る。両耳を塞いで体を丸めて。怖い。どうしてこんな目に遭わなくちゃいけないんだ。どうして俺達は幸せになれないんだ。
"……レン、貴方は私と同じ、魔術士なんだね"
アルル。初めてレンの味方になってくれた人。初めてレンが好きになった人。これからも守っていこうって、決めた人。再会を約束してくれた人。アサシンにまでなってしまった自分を、それでも愛してくれた人。
「アルル……」
「……まじかよ!アルルの力に怯えて抵抗すらできないってか?この前俺とやり合った時とは全然違うなぁ?」
「何でだよ……どうして……痛いよ……アルル」
「ねえ、カーター。彼は何て言ってるの?」
アルルは横にいるカーターに尋ねた。カーターは肩をすくめるだけだった。レンはふらふらと立ち上がった。
「何で……俺のこと……皆のこと、裏切ったのかよ」
「裏切った、って?……泣いてるの?」
アルルはレンの右目から涙が流れているのを目にした。レンは少し笑いながら言った。
「良いよ。アルルになら殺されたっていい。俺のことを殺して気が済むんならさ、殺してよ」
「レン、駄目!!しっかりして!」
ベティの声は既にレンには届いていなかった。レンはもうずっとずっと、遠いところにいたのだ。レンのその言葉にアルルとカーターは少し戸惑った。
「じゃあお言葉に甘えて……散々苦しめてから殺してあげる!閃光一撃」
レンの体を光り輝く光線が貫く。レンは倒れるだけで何も抵抗しない。アルルはなおも叫び、光線を発射し続けた。
「閃光一撃、閃光一撃、閃光一撃、閃光一撃!閃光一撃!!」
レンはもう声すら上げなかった。力なく宙に投げられ、地面に投げつけられを繰り返す。ただ横から見ることしかできないベティの唇が震え始めた。
「やめて……お願い……もう、やめて……死んじゃう!レン!」
「大丈夫よ、ベティ。私が今助けるから」
アルルはつかつかとこちらへ向かって歩いてくる。両手には、とてつもなく眩しい光が煌々と集まっており、ベティも両手で光を遮った。倒れているレンの胸ぐらをアルルは掴む。レンの頭はがくんと力なく前に倒れる。カーターが警戒を続けたまま、静かにアルルの後ろへと近づく。
「……あんたのせいで、ツバサとベティが苦しむくらいなら、私は―」
その時だった。ぐったりとしていたレンの目がいきなり見開いた。次の瞬間、アルルの体が飛んだ。ぐあっ、と声にならない声を挙げて、アルルの口から血がこぼれた。
「アルル!!」
カーターは大声で叫ぶと、アルルを受け止めて必死に自分の背後へと回させた。カーターがバリアを発動しようとする寸前、レンが思いきりその腕を蹴りつけた。カーターの手首はありえない方向へ曲がり、カーターは痛みで悲鳴を上げた。
レンは魔術を発動させ、辺りを暗闇にした。アルルは突然の暗闇に慌て、貯めていたパワーが小さくなり始めた。どこからともなく体に思いきり衝撃を受けて、アルルの体はまた吹っ飛んだ。
「うっ!!」
「……俺の弱点は確かにフェアリーさんの眩しすぎる天術だ。しかし、お前の弱点は俺の闇術。そうだろう?」
「くっ……!!」
「勝つのは俺達グレイだ……俺達の時代の為に、俺はお前を倒す……アルル、アルル・フェアリー!死ぬべきなのはお前だ!」
レンの様子がおかしい。口調もおかしい。まるで何か目覚めてはいけないものが目覚めてしまったかのようだ。ベティは必死に叫ぶしかなかった。しかしもう誰にも届かない。
アルルは攻撃をするも暗闇のせいでレンの姿を見つけることが出来なかった。
「アルル、しっかり。大丈夫、俺が誘導するから」
「カーター……」
すぐさまカーターは魔術を発動させ、レンの匂いを感知した。レンはカーターの攻撃を受け悲鳴を上げた。そこをアルルが攻撃をして、暗闇の中に眩しい光が照らされる。
「邪魔だサングスター!これは俺とフェアリーの戦い!どけ!アルル・フェアリー、俺達が今までどれだけ苦しんできたか、どれだけ仲間が殺されてきたのか、お前は何も知らないでのうのうとサングスターの奴らに守られてきたんだろう?だから身をもって償え!絶望乃闇!!」
大きな真っ黒い矢のような形の闇術がアルルに向かって飛んでいく。ベティは絶叫した。
「やめてーー!!!もう誰にも死んで欲しくないの!!!」
その瞬間、暗闇が消えて明るくなった。それによりアルルとカーターは攻撃を何とか避けきった。ベティはすぐにレンの姿を探した。
そこにはツバサが居た。既に、ツバサが思いきりレンの左頬を殴った後だった。レンは口元から血が飛んだ。ツバサの握るこぶしにもレンの血が付着していた。レンはすぐにツバサのことを目で捉えると、そのローブの胸ぐらを掴んだ。
「何で止めたんだよ……あと少しだったのに!!」
「レン!!しっかりしろよ!!俺の顔をちゃんと見ろ!!」
「……ツバサ……俺……」
そこでレンは力尽きた。ベティははっとして駆け寄り、レンの体を引きずりながら隅に運んだ。ツバサはアルルとカーターに向き合うと、言った。
「レンをボロボロにして狂わせた犯人は誰だ?」
「ごめんね、ツバサ。彼は君が殺す予定だったんだよね」
「は?言っている意味がよく分からないんだけど。アルル、お前か。お前洗脳されてるのか、その男に」
「……これが本来の形なんだよ、ツバサ。フェアリーとサングスターが力を合わせて、グレイの人間を殺す。私達は何も間違ったことなんかしてない」
そう話すアルルを見て、ツバサはカーターを睨みつけた。
「お前アルルに何をした」
「別に?ていうかさー、ツバサってもしかしてレンの味方なの?レンを殺すって言ったの、嘘だったの?それって、おかしくない?お前、俺達の裏切り者じゃん。やっぱりカーティスの息子なんだね、ツバサ」
「俺は裏切り者じゃない。裏切り者はアルルだ」
「ツバサ、何を言ってるの?」
困ったように首をかしげ続けるアルルの元へツバサは行くと、落ち着いた声で言った。
「目を覚ませよアルル。何こいつに操られてるんだ?昔お前がずっと、毎日のように探していた奴は誰だ?忘れたのか、全部忘れたとは言わせないぞ」
「目が覚めていないのは貴方じゃないの、ツバサ。どうして貴方はグレイの味方をしているの?いつまで偽善者ぶっているの?」
「そう、じゃあお前はチームから追放だ。お前はそうやって本当に大切なものが何か分からないまま、騙されたまま生きるんだ。死ぬまで、ずっとな。俺達の前に現れるな。じゃあな、アルル」
アルルは何も言わず黙っているだけだった。そのうちカーターに声をかけられてどこかへ去ってしまった。ツバサは死んだような顔でベティとレンの元へ行くと、その場に座り込んだ。ようやくそこでベティが涙を流して泣き始め、ツバサはその肩を優しく抱いた。そのツバサの手も少し震えていた。
「何があった」
「アルル、良いの?あれ……」
「どっちみち今の俺達じゃあいつを倒せない。それにあのアルル、変身魔法か何かかなって勘ぐったけど、完璧にあれはアルルの魔術だ。天術を使える魔術士は天使の子孫のフェアリーくらいしか居ないんだ。レンは大丈夫?」
「さっき治癒魔術で応急手当をしたから……何とか。今は意識が無いだけ。ねえ、レン何かね……二重人格って言ったらおかしいけど、その……グレイっていう血のせいなのか、いきなり狂ったっていうか……ずっと魔術も使わないでアルルの攻撃受けっぱなしだったのに」
その時ツバサはレンの頬に涙の跡があることに気づいた。きっととても辛く、苦しかっただろう。
「レンを運ぼう。よく耐えたよ」
「……私、何にもできなかった……助けることも、何も……」
「そんな気にするなよベティ。レンは大丈夫だよ、俺とベティが居れば十分だ」
「この前、皆で自分たちのことをそれぞれ話して、私それで仲は深まったと勝手に思い込んでた。あれは無意味だったの?」
「無意味なんかじゃない。アルルは、あんなことする奴じゃない」
ツバサはレンをおぶって歩いた。そういえばレンのことを殴ったことも、そしておぶったことのも初めてだった。そう思った。




