8-6 囚人
今回で8章が終わります。
悪魔界には太陽の光など無かった。1日中赤い月が地面を照らし、世界を赤黒いものに染めていた。大きく5つのレギオンに分かれているうちの1つ、レギオン1には悪魔界の中で最も大きな城がそびえ立っていた。その尖った建物の先端は、パリのゴシック様式を思わせる。
足元を邪魔する長いマントの裾を蹴るようにして元の位置へと戻させる。
「やはり自分の体とはいいものだ」
付き従える手下に向かってそう言うと、悪魔王アルトゥールは地下牢へと歩いていった。地下牢は広く大きく、1つのレギオンを占めていた。それはちょうどレギオン3に位置している。悪魔の牢獄は普段格子ではなく、石の壁によって1つの牢屋が完成していた。外部の人間が解除ボタンを押すことにより、石の壁は動いて格子が現れ、中には囚人がいるという仕組みだ。囚人の中には人間も勿論いた。
この地下牢を悪魔王が歩くことは珍しいことだった。そして彼は決まって、いつも同じ牢屋の前へ立ち止まった。
手下が解除ボタンを押し、囚人の姿が見えるようになった。囚人は両手に鎖をつけられたまま床にぐったりと倒れていた。その胸はまだ上下に動き、少し苦しそうに肩で呼吸を続けていた。
「まだ生きていたのか。しぶとい奴だな。どうだい、息子のフュージョンを体で受けた気分は。親切に攻撃が来た時だけ、お前に体を返してやっていたんだが」
「……あ……か……」
「言葉を喋ることすらもう苦しいのか、カーティス。そういや、この間やったあんたの娘の悪魔化は失敗に終わってしまったよ。アスカに水中で迷宮を作らせ、あの魔術士らを引き込んだ後、そのまま共に消えさせようとしたんだが。なかなかやるな、お前の息子も」
カーティスは横たわったまま、悪魔王アルトゥールのことを睨みつけていた。アルトゥールは小さく笑った。
「お前はずっとここに居ろ。お前は自分の一族からも見放されたんだ。何の役にも立たないアース人なんかと恋に落ちたからな。お前のガキのツバサとアスカ、あの子達はお前に似て優秀な魔術士かもしれない。だが、ツバサの方は似て欲しくないところまで似てしまった。残念なことにあいつはフェアリーを愛していない」
「……」
「おまけにツバサはチームメンバーにグレイの魔術士を入れているらしい。始めから殺す目的だとは言っていたらしいが……まあ、全ては時間の問題だ。カーティス、お前はこの地下牢で衰えて死ぬ運命だ。誰もお前のことを助けには来ない」
カーティスの牢屋は閉じられ、石の壁が元の位置に戻った。アルトゥールが城へ戻り、玉座に着くと手下が言った。
「カーターがお見えになりました」
「通せ」
カーターは得意の笑顔を見せ、アルトゥールの前でおじぎをした。"仕事用"の笑顔でカーターは話し始める。
「お久しぶりです、アルトゥール様」
「久しぶりとは……要塞であんなにも共に居たじゃないか」
「いやいや。貴方の元の姿を拝見したのは久しぶりですから」
「怪我はもう良くなったのかい」
「はい、おかげさまで。あんなにボロ雑巾みたいになったのも久々の事でしたよ……討つことが出来ず、申し訳ございません」
「……まぁいいんだ。レン・グレイの名前は私でも知っている。我々の仲間を殺し続けたアサシン……おまけに組織にすら入っていないときた。レン・グレイは今まで感性で殺人をしてきたんだ。ある意味恐ろしい男だ……流石グレイの血を引く魔術士だ」
「そう言ってもらえて光栄です。確かに彼はなかなか戦いがいのある魔術士でした。でも私、とんでもないことに気づいたんですよ」
カーターの言葉にアルトゥールは顔つきを変えた。その様子を見て、尚更嬉しそうにニコニコとカーターは言った。
「レン・グレイの弱点を見つけたんです。ツバサのチーム内に、アルル・フェアリーというすんばらしく可愛い魔術士が居ますが、その彼女の魔術こそまさにレンの弱点なんです」
「グレイとフェアリーが一緒に居てどうして何も起こらないんだか……」
「アルトゥール様、ツバサがフェアリーと恋に落ちなかったというのは真の話でしょうか。私がツバサと会話した時、アルルが一緒に居たのですが」
「残念ながら本当の話だ。あいつはカーティスに変な所が似てしまったという訳だ」
「……そうですか。なら、問題無いですね。困ったことに私はあのアルル・フェアリーを我がものにしたくて堪らないのです。アルルを私のものにした後、レン・グレイを殺ります。これこそまさに本来あるべき形……」
「そこら辺のことに関しては好きなようにやってくれ。最近、ルークから連絡が来ないのだが、カーターは何か知っているか?」
「いいえ、別れた日からルーク先輩とはお会いしていません。私も作戦実行の為にレクタングルへ参ります。その際に訪ねてみますね。またその都度ご連絡いたします」
次回は明日22時過ぎに投稿予定です。
9章「天術士」が始まります。




