7-6 ワタシハ、アクマ
23時の投稿になってしまい申し訳ございません。
「ワタシハカイブツジャナイ……ワタシハ」
「ああっ!!」
棘の形となった水の連射攻撃を受け、ベティは氷の壁に背中から打った。
「ワタシハ、アクマ」
別の壁が崩れ始め、さっきまでの一本道があらわになった。敵わない。そう直感したベティはアスカの動きだけを止めることにした。
「雷にとってある意味では水は相性が良いの!!かかってきなさい、アスカ!とびきりの攻撃を私にちょうだい!」
「濁流一撃!!」
アスカの右手に込められた大量の水が濁流となってベティに向かっていった。
「そうそう……濁流を待ってたの!!衝撃電流!!」
ベティの衝撃電流がアスカの濁流の不純物に反応して、アスカの体へと伝わった。アスカは絶叫した。しかしベティも無傷ではなかった。アスカの濁流攻撃を利用したため自分も攻撃を思いきり受けたのだ。アスカは気を失っていたが、姿はまだ悪魔のままだった。ベティは氷の塊に何とか捕まったが、水が上昇して氷は流され始めた。ベティは倒れているアスカの元へ行くことはできず、一本道の方へ流れ着いた。さっきまでの広場の入口はまた閉じられ、入ることは不可能となった。
ベティは氷の床にゆっくりと横たわった。
「体が……もう……動かな……」
背中に水がかかり、やはり水が上昇してきていることに気づく。さっきの戦いで氷が崩れたせいだろう。このまま横たわっていては本当に死んでしまう。せめて、川が無いところへ。
「はぁ……はぁ……うぐっ」
ベティは目を腕で拭い、ちゃんと前を向いて壁伝いに歩いた。もしかしたらもう死ぬのかもしれない。このまま誰にも会えずに、最期は独りで。重たい足を引きずるようにベティは川のない場所を探した。初めて死というものを感じ、自然と涙が目に滲んだ。
「しっかりしなきゃ……めそめそ泣いてなんかいられないのに……」
自分の目からこぼれる涙がひどく熱く感じた。そう、まだこんなにも涙は熱い。私はまだ死んでいない。ツバサとレンがもしも一人で居たら、泣いているだろうか。いや、泣いてなんかいない。必死に出口を探すだろう。ベティは涙を振り払った。
「皆だって頑張ってるんだから!」
水が流れていない場所まで来るとベティは横たわらずに壁に背をつけて座った。体を丸くし、顔をうずめた。
「もう冷たいのか何なのか分からなくなってきちゃった」
真っ赤になっている手のひらを開いては閉じを繰り返し、ベティはつぶやいた。
ベティがアスカと戦っていた時、洞窟は地震でも起きたかのように大きく揺れていた。ツバサとレンはしゃがんで揺れが落ち着くまで待機した。
「雷の音がした!」
「雷?!まさかベティか?!」
ツバサとレンは音のする方へと走り出した。すると、2人は開けた場所に出た。氷の塊が水の上にたくさん浮かんでいた。
「あそこに誰かいる」
氷の上に横たわる体があった。ぐったりとしている様子で、ツバサとレンはゆっくりとそれに近づいた。ベティではなかった。近づいた瞬間だった。
「っ!!」
それは目を見開き、鋭い鉤爪を振り回した。レンの頬が切れ、血が少し飛び散った。素早い動きで姿を捉えるまでに時間がかかった。今度はレンのシャツが破ける。レンはすんでのところで避け、鉤爪に肉を抉られずに済んだ。
ツバサがレンの前に立って黒のバリアを発動させた。
「……ツバサ……っ!!」
「こいつ、お前のことを狙ってる!魔術士か?!それとも怪物?!」
「オニイチャ……」
「えっ……?アスカ?!アスカなのか?!」
「ジャマダ!!」
ツバサのバリアが壊され、2人はすぐさま近くにあった氷に飛び移った。しっかりその魔術士を見ると、確かにアスカだとツバサもレンも感じた。姿は怪物そのものだが、顔はアスカだった。
ツバサとレンは同時に言った。
「悪魔か」
「……カーティスの仕業かもしれねえ」
ツバサは舌打ちをした。アスカの悪魔化。アスカを助けるためにもこの悪魔を倒さなければならない。
「アスカは多分無理やり悪魔化させられたんだ。こいつは今まで1回も化けたことなんて無かったからな」
「悪魔化って……」
「そのままだよ。悪魔の意識を体内に取り込んで、一体化することだ。アスカは中の奴に全てを乗っ取られているようなもんだ」
「ツバサ!!」
レンは攻撃を避けながらツバサに叫んだ。
「お前よりも俺が相手をした方が良いかもしれない!確かに俺に対しての殺意はとんでもないけど、その分俺の魔術だって入るはず!!」
「考えることが流石過ぎるぜ闇術士!俺も援護する!やってみよう!!」
「ああ!」
「……レン・グレイ、オマエヲコロス、カナラズ!!」
レンは闇のミストで姿を消して、小さな攻撃を何度も何度も高速でアスカの体に当て続けた。アスカの動きは多少鈍くなったが、すぐに水術を発動させレンを追いかけるように発射された。闇のミストは悪魔には効果が無いらしく、レンの動きはすぐにバレた。
「 アスカお前、怪物なんかに体乗っ取られてんじゃねーよ!!しっかり意識を持て!!」
そう叫んだツバサの声に反応し、悪魔はツバサに向かって突進してきた。
「ワタシハカイブツジャナイ!!」
ツバサに意識を注目していた間にレンが背後から闇術のエネルギー源を発射した。が、すぐにアスカは水術で跳ね返し攻撃を突き飛ばした。それと共にレンの体も吹っ飛んだ。
その瞬間ツバサは魔術を発動させ、黒い雲のようなものに乗ると天井近くまで飛び上がった。
「レン!!」
「えっ?!嘘だろ?!」
ツバサは両手に黒術のパワーを溜め、吹っ飛んできたレンの足を掴んでその足の裏にパワーを当てた。そして力一杯アスカのいる方へ向かって突き落とした。
「行けーーっ!!」
レンは高速でアスカの元へ落下していく。落下中にレンは片手に闇術を溜めた。
「ちょっとキツいの行くよ!安楽死!!」
闇術はアスカの体を網のように包んだ。声ではないような声の悲鳴が微かに聞こえたと思うと、闇術が消えアスカはばたりと氷の上に倒れた。ツバサがかけより、元の姿になったアスカの体を揺さぶった。
「ああう……」
「……何とか大丈夫そうだな。レン、アスカを俺の背中に乗せてくれ」
「了解」
レンはアスカの脇に両腕を入れて持ち上げると、そのままツバサの背中に腕を回させて体を乗せた。
「……よし。さぁ、出口を探そう」
「お兄ちゃ……ごめん……あたし、お父さんに……」
「気にするな。お前、帰り方分かるか?」
「水と氷が輝く道を進んでいけば、地上に出られると思う……本当にごめんなさい……私……」
アスカは泣きそうな声でツバサの肩にかける腕にぎゅっと力を込めた。ツバサはもう何も言わなかった。その後ろをレンは黙ってついて歩いた。ずっと明るかった洞窟が、暗くなっていった。ツバサは青く輝く道だけを選んで進んだ。歩いた後の氷の床はヒビが入り割れた。徐々に洞窟が壊れていく。
前方に洞窟の終わりが見えた。そこには渦潮があった。ぐるぐると泡を立てて水が渦を作っていた。
「そこの渦潮に入れば、星の砂浜に出られるんだな……」
ツバサがそう呟いた時だった。横を流れる小さな川に、ビリビリと音を立てて電気が走った。その後も電気は流れ続け、音を立てた。
「……ベティが、ベティはまだ中に……」
気を失ってしまっているアスカを背中から下ろすと、ツバサはレンにアスカを頼む、と託した。もうかなりの郡が壊れ、水が増えてきている。レンは引き返そうとするツバサの腕を咄嗟に掴んだ。
「レン!!」
そう叫んでツバサはハッとした。自分の腕を握るレンの手から魔術が発動され、体内が少しずつ暖かくなった。レンは自分の魔力を少し分けてくれたのだ。
「……死ぬなよ」
「当たり前だろ。まだ死ぬわけにはいかないからな!アスカのこと、よろしく頼むぞ!」
ツバサは走ってまた洞窟の奥へと行ってしまった。レンはアスカを抱き上げ、横抱きにして渦潮の入口まで向かった。そしてアスカの足を床につけるようにして、その体をぎゅっと抱きしめて支えた。後ろは振り向かずに渦潮の中に体を預けた。
次回は明日22時過ぎに投稿予定です。




