1-2 ダークブロンドの少女
少女はベティ・アケロイドと言った。茶髪と金髪が混じったようなダークブロンドのセミロングの少女だった。学校の近くで祖母がレストランを営んでおり、そこに住んでいると言う。毎日店の手伝いに追われているらしい。アルルとツバサはレストランに案内されて、テーブルに向かった。他にも客は何人か来ていたが、特に気にせずに二人はベティを待った。アルルは小声で尋ねた。
「前から気になってたとか言ってたけど、まじなの?」
「まじって言ったらどうする?」
「笑う」
「じゃあ商売文句ってことで」
「まじなのね」
アルルは鼻で軽く笑った。ツバサは少しバツが悪そうに顔をしかめた。
ベティは彼らが想像していたよりも口数が多い少女だった。
「あんまり魔術は使いたくないって思ってたんだけど。それに、私あなた達みたいに強くないしさ。釣り合わないような気がして」
「釣り合うとかそういうの、関係無いって。チームなんだから協力すれば何でもできるって俺は思うけど」
「……そんなもん?」
「そんなもんだよ。俺もアルルも正直チームって感覚よく分からないし。ずっと皆から避けられていたからね、怖いってさ」
「昔の私と同じ。でもあなた達は一人じゃなかったのね。私はずっと一人だったわ」
「それじゃあベティも強い魔術士ってことよね?」
アルルが尋ねるとベティはそうなのかな、と困りながら首をかしげて見せた。
魔術には大きく分けて二種類ある。一つは誰でも使える魔法術。高校でほとんどの人が習い、魔力が無い人間も扱うことができる術のこと。もう一つは本能、と呼ばれる術。個人個人で一生操れる魔術は違う。指から発射される光線の色も勿論違ってくる。炎を操れる者は炎術士、風を操れる者は風術士などと呼ばれていた。
「私は雷術士なの」
するとベティの指がバチバチと電気を発した。すげえ、とツバサが呟いた。そしてすぐさまベティに向かって言った。
「入ってくれよ、チームに」
「本当に?私が?私で良いの?」
「良いよ全く問題ない。胸もデカ―」
すぐにアルルはツバサの足を思いきり踏んづけた。くすくす、とベティが笑った。
「笑った方が良いよ、ベティは」
「……じゃあ、これからよろしくお願いします」
ベティの祖母はベティがチームの一員になったことを喜び、アルル達に料理をごちそうしてくれた。ありがたく彼らはそのごちそうに手をつけた。食事の最中、アルルははっとしてポケットから写真を取り出しベティに見せた。
「ねえ、この人お店に来なかった?というか見たことない?道端で」
「うーん、無いけど……アルルの彼氏さん?てっきり彼氏はツバサかと思ってたけど」
「ダーメダメ、アルル見た目は整ってるけど中身がただのおせっかい女だから俺には彼氏なんか務まらないよ」
「そこまで言わなくたって良いじゃない」
「……この人のこと、探してるの?」
「うん。探してるの、ずっと」
「大好きなのね、この人のこと」
何気なく言ったベティの言葉にアルルは少し赤くなった。一緒に過ごしたのは1年も無かった。しかしアルルは彼―レンのことが本当に好きだった。
「でも、もう私のこと忘れちゃってるのかもしれない」
「……そんなことないよ。きっと覚えてくれてると思う」
笑顔で映るアルルとレンはこの時とても幸せだった。アルルが一人ではなかった唯一の記憶の一つだ。二人は地球で出会った。
そして別れを告げる時、互いの正体を明かした。レンは魔術士だと言った。だから約束した。別世界でまた必ず会おう、と。
アルルがぼーっと考え事をしている間、ツバサとベティはチーム名は何にするか初仕事は何がいいかと話していた。
「チーム名、インビンシブルとかどうだ?」
「意味がわかったら喧嘩売られそうな名前ね」
「よし!!俺達も仕事に向けて訓練に没頭しなきゃな!ベティもあの女達を見返してやれ!!」
「そんないきなり戦うような依頼受けるの?そもそも私達チームワークのチすらまだ……」
やれやれ、とベティが肩をすくめた。どこで習ったのかは知らないが、ツバサは昔から戦闘向きだった。それに負けじとアルルもひたすら特訓したのを思い出す。
ひとまず新しいメンバー、ベティが加わり"インビンシブル"は結成されたらしい。これはまだ序章の序章に過ぎなかった。
「ねえ初仕事が乗り物の修理とかさ、ダサいとしか言いようがないんだけど」
ツバサは不機嫌そうに半ば乱暴に修理をしていた。そんな事言わないの、とアルルはたしなめた。アルル達はこの数日間で互いに魔術を使ってバトルをし、メンバーの魔術や戦い方がどんなものなのかまでは分かっていた。しかし、やはり戦いを必要とする依頼に手を出すのはまだ気が退けていた。
「もうちょっとスリル味わいたいわけよ、俺は」
「そういう感じの依頼って結構ピンキリじゃない?依頼で命落としちゃう魔術士も珍しくないって言うし」
「ま、まあね……」
ツバサはベティに口を出されると何故か弱くなってしまう。しかしベティはなおも続けた。
「でもせっかくだからそういう依頼もいいかもね。逆にそういう依頼を避けてたらインビンシブル、じゃなくなっちゃう」
「ふっ、そう言うと思って実はいくつかお仕事を見つけてきたんだよねー。ほら、これとか良くない?悪党捕獲」
得意げな顔で仕事の紙を指さすツバサに仕事中よ、とアルルが水を差した。結果、次の仕事は"悪党捕獲"というハードルの高そうな依頼を受けることになった。修理の依頼を終えて帰り道、アルルは何度も尋ねた。
「ねえ本当に大丈夫?死なない?」
「そんな簡単に死なないよ。まあわかるよ、アルルの気持ちも。レンに会えるまで死ぬわけにはいかないからな」
真夜中。一人の魔術士が走っていた。追っ手に捕まらないように死に物狂いで走っていた。
「お前もここまでだ」
ふと振り返ると後ろには黒いローブをまとった男がいた。前方にはさっきまで追いかけてきていた男がいる。逃げられる場所はどこにもない。一人の魔術士は落ち着いた声でそうはっきりと言った。
「来るな」
「ここまで追い詰められてとうとう泣き言を言い始めたのか」
「俺に近づくな」
「……そろそろ消えてもらわないと、俺達もボスに怒られちゃうからさぁ?お前はもう後戻りができない。一体何人俺達の仲間をぶっ殺してきたんだろうなぁ!!!」
黒いローブの男が強風を起こした。魔術士が深く被っていたローブのフードが風によって外れた。へへへ、と気味悪く黒いローブの男らは笑った。
「思っていたよりも可愛い顔してるじゃねえか。そんなんで手は血で染まってるとは恐ろしいねえ」
「今すぐ地獄に送ってやるよ!!」
魔術士はさっと姿を消した。男達が怯んだ時には背後に魔術士は構えていた。既に手に貯めていた真っ黒のエネルギー源を思いきり男達に食らわせた。男達は叫ぶ暇もなく静かにその場に倒れた。
魔術士はフードをまた深く被り、その場を立ち去った。
次回は明日13時過ぎに投稿予定です。




