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永遠対立関係  作者: P-Rin.
4章 地球
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4-1 行方不明

 

  ツバサの妹、アスカ・サングスターは水術士だった。世界を流れている水の全ての様子をアスカは感じ取ることが出来た。知っての通り彼女は今、サークル女帝の後継の監視役という特別任務を務めている。かといってずっと見張るわけにも行かない。彼女も勿論学生であり学校には通わなくてはいけないし、むしろこそこそしている方が周りから怪しまれるのがオチだ。

  アスカは水術士としての特性を生かして、常に後継者であるリッチェルの安全を確認していた。

  流れる川や水がリッチェルからどのくらい離れているのか、そんなことがアスカは分かった。つまりは川や水がアスカの目や感覚と化しているようなものなのだ。そこからリッチェルの存在を感じ取ることが出来た。


 「ん?」


  アスカは学校からの帰り道、すぐに様子がおかしいことに気づいた。リッチェルの存在がぱったり感じ取れなくなったのだ。この世界から姿を消した。すぐにアスカはそう気づいた。


 「大変!早くアルルマザーに知らせに行かなくちゃ!……いや、居なくなったことがバレたら私の報酬半減されちゃう?!いやいや、私一人で探しに行くことなんて無理だし……ああ、どうしよう……」


  考え事をして走っていたせいでアスカは人に突撃した。顔を上げてハッとした。それはリッチェルの恋人、ルークだったからだ。


 「ルークさん!」

 「え、あ、俺はルークだけど、君は?」

 「えーと、私は貴方の彼女の監視役のアスカ!とりあえず一緒にサークルへ来て!」

 「君はあれか、ツバサの妹か。サークルって……リッチェルに何かあったのか?!」

 「私にも分かんない!でも別世界から消えたのは確実!」




  アスカとルークがサークルの城へ到着した時、応接室には先客が居た。その先客というのもまた偶然なのか、アスカの兄だった。


 「お兄ちゃん?!何やってんのこんな所で?!」

 「あれ、アスカとルークじゃん。ルーク浮気?」

 「そんなんじゃない!リア女帝、大変なの!リッチェルの気配が別世界から消えたの」


  リアは顔色を変えて玉座から立ち上がり、アスカの元へ駆け寄った。


 「別世界から消えたですって?!アスカ、ちゃんと監視はしていたんでしょう?!」

 「し、してました!ちゃんといつも水から感覚と位置を……」

 「貴方はルークね!貴方もどうしてリッチェルと一緒に居ないの!!」

 「これからちょうど会う予定で、さっき彼女と遭遇してここへ来たんです」

 「あああ何てこと!あの子はただのアース人だし、魔法くらいしか使うことができないというのに!アスカ、大体の場所は掴めそう?」

 「え……えーと……えっと……うーん……」


  アスカは慌てているせいで全く意識を集中することができなかった。騒動を黙って目の当たりにしていたツバサはため息をついて、落ち着いた声で言った。


 「ちょっと。皆一回落ち着いて、話を整理しよう……ていうか、アルルママが一番冷静になって」


  ツバサはリアをまた玉座に座らせ、気持ちを落ち着かせた。リアはしばらく頭を抱えていたが、ツバサ、アスカ、ルークを順番に見て口を開いた。その声はいつもと違って小さな声だった。


 「リッチェルはサークルの後継者でもあるけど……そんなことは今はどうでもいいの。私達フェアリーの一族はもう全く子どもが居ないのよ。というか、リッチェルと私の娘アルルしか居ないの。だから、リッチェルには生きてもらわないといけないの」

 「まだ殺されたとは限らないじゃん。だってリッチェルはアース人なんだろ?ホームシックになって帰った可能性もある」

 「それは無いわ。あの子には地球に帰る居場所なんて無いもの」


  リッチェル・フェアリーはある意味、天涯孤独の少女だった。孤児としてつい最近まで育ったリッチェルは、別世界に住む親戚にあたるリアに見つけられて、魔法を覚えさせられた。リアはリッチェルのことを可愛がっていた。そう、実の娘のアルルよりも、だ。


 「とりあえず、リッチェルは俺達で探しに行きます。報酬はどのくらいくれますか?」

 「報酬?!これは依頼じゃないわ!報酬が無かったら放置するというの?」

 「だって、リッチェルの連行先が悪魔界とかだったらどうするんだよ!俺達の命は一つしか無いんです!」

 「……リッチェルを無事に連れ戻してきたら報酬のことは考えるわ。……アスカ、居場所は分かった?」


  アスカは黙ったままだったのでツバサがふと横を向くと、彼女は半べそをかいていた。震える声でアスカは答える。リアに迫られると大体の魔術士は怯む。怯まない魔術士はおそらくツバサくらいだ。


 「……地球。……日本国の……東京……渋谷……ううっ汚い川」


  アスカは口を押さえた。半べそをかいていたのは地球の汚い川に感覚を研ぎ澄ませていたという理由もあるらしい。ツバサはアスカの頭に手を置いてその髪の毛をわさわさとかきむしった。ルークがその様子をちらりと一瞥する。ツバサはリアに向き直って言った。


 「依頼を引き受けるんなら、俺はチームメンバーを呼ぶ。アスカは留守番だ。アスカがやられたら、リッチェルの居場所を突き止めるなんて雲を掴むような話になるからな」

 「ツバサ、俺も行っていいか」


  ルークがそう申し出たことにツバサは少し意外性を感じたが、ああ、と快く引き受けた。集合をかけられたチームメンバーはすぐに城にやってきた。ツバサから事情を聞き、リアからも直接話を聞き、地球へのワープの扉を開いたのは夕方だった。




次回は明日22時過ぎに投稿予定です。

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