1-1 強制勧誘
「本当は、一緒にいたい。これからもずっと、君と一緒に生きていきたかった。でも」
耳元で囁かれる優しく低い声に、アルルはドキドキした。彼の背中は大きく、アルルの両手では抱きしめきれなかった。ひらひらと降ってくる雪が少しずつ彼の肩に積もっていくのが見えた。
「きっとさ、私達また会えるよ。……ううん、絶対に会える」
「そうなったら、良いね」
アルルはゆっくり体を離した。彼はアルルの頬を片手で触れた。二人は口づけを交わした。静かな雪の日だった。
「―ルル!アルルーー!!」
「わっ!!何?!」
「いつまで寝てんだい。さっさと帰ろうぜ」
「ちょっと懐かしい夢を見たの。でもあんたのせいで全部台無しだわ」
怪訝そうな顔でアルルが身だしなみを整えると、友人のツバサは少しむっとした顔になった。赤毛の髪が肩にもう少しでつきそうだ。また切らなくちゃ、とアルルは思った。
彼らは現在17歳、魔術高校に通っている。高校と言うよりも訓練所と言った方が良いかもしれないが。名前の通り、ここの生徒は皆魔術を扱うことが出来る魔術士である。
というよりも、まずここはアース(地球)とは少し離れた惑星、通称別世界と呼ばれる場所である。別世界には魔術士の他に小人、バンパイア、魔女、地球人(普通の人間のことだ)も暮らしている。空にはハネハネと呼ばれる乗り物やほうきが飛び回っている。
魔術士とは、生まれつき魔力という不思議な力を体内に秘めている人間のみが成る。
勿論、この二人も魔術士である。赤毛で気の強そうなこの少女の名はアルル・フェアリー。彼女の後ろを気だるそうに歩いてついて行っている青い髪の友人はツバサ・サングスター。二人は幼い頃からの知り合い(いわゆる幼馴染み)であり、特に恋愛関係は無い。ツバサは生まれも育ちも別世界であったが、アルルは地球出身の少女だった。
「ねえアルル、チーム、どうするの。もうそろそろ俺達もチーム作らないと仕事できないし、国の戦力にならないし」
魔術士は何人かでチームを作って依頼に応じて仕事をしたり、何か争いごとが起きた時の戦力として戦いに行ったりする。チームを作れるのは17歳からだった。
アルルもツバサもチームには無所属だった。というよりも、他の生徒は誰も彼らに近づこうとはしなかった。誘われることも無ければ、勧誘を受け入れてくれることなどあるはずが無かった。
「最悪の場合、俺とアルルの二人チームになるけどそれもまあ悪くは無いかな」
「最悪の場合を何とか回避する方法は考えなかったわけ?!あんたと二人きりとか無理よ私は!」
「勧誘はしたさ。片っ端から女の子には声をかけた。がしかし」
「……」
「みんなもう所属済みだってさ。参ったよね本当ー。最悪は夢じゃなさそうだよ」
いつまでも無所属でふらふらとしていたら母親に怒られるだろうか。アルルは一枚の写真を眺めてため息をつく。数年前に撮った"彼"とのツーショット。さっき夢に出てきた"彼"だ。
「また王子様の写真見てるのー?もういくら探しても見つからなかったんだからいい加減諦めたら?俺が居るじゃん」
「……だって、絶対こっちに居るはずだもん。一人で地球に帰るはずがないし」
「わかった、わかったからさ。とりあえずどっかに飯でも行こ?」
足早に学校を出ようとした時、女子達が叫ぶ声がした。3人の女子が1人の女子に向かって何か責め立てていた。1人の女子は困ったような顔をしている。
魔術で追い返しちゃえば良いのに。そうアルルは思ったが、校内だとそう上手くも使えない。
「やめてよ……もう。私、本当に帰らなくちゃいけないの、仕事があるから……」
「へー仕事?何あんた、チームにでも入ってるわけ?あ、ぼっちチームみたいな?」
「あなた達だってチームに入ってても遊んでばっかで全然仕事もしてないし、訓練も怠っているじゃない。そんなのに比べたらマシだわ」
一人の女子は小さい声ではあったが、一応言い返していた。しかしその視線は下を向いていて、尚更女子達の機嫌を悪くさせたらしい。
その様子を見てツバサがずかずかと歩いていった。
「あっちょっと……」
「何か用?」
「ツバサこそ何か用?」
ツバサは女子の肩をたたいて言った。
「この子俺のチームの子なんだよねー。ちょっと困るんだけどこういうの」
「あっそ。随分趣味悪いのね。皆から避けられるあんたらにはちょうどいいチームメイトなんじゃないの」
半分キレ気味で女子達はその場を去っていった。すると、ありがとう、と女子が小さな声でお礼を言った。
「それじゃあ、私はこれで」
「待って!!……なぁ、本当に入らないか?チームに。実は前から気になってたんだ、君のこと。でも忙しそうだったから声かけられなくてさ」
明日13時頃投稿予定です。




