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目
僕は彼女の目を見てみたかった。
閉じているかもしれない、彼女のその瞳が、どんな色なのか。
どんな感情に満ち溢れた、色をしているのか。
もちろん、余計に長い前髪が、それを許さなかった。
どかそうとも思ったが、どうも手がうまく動かない。
本当に、していいことなのか。独断なんてできやしなかった。
僕は、病室を出る事を決めた。
まだ、おもいだしていない事があるから。
彼女と僕が、いや、もしかしたら僕だけが目覚めるとき、
それはそれは、くじらが長い眠りから覚めるようなものなのだろう。
少し、目をつぶった。
彼女に、また一言だけ、話しかけた。
「思い出す、よ」
腰かけていたパイプ椅子から腰を離す。
ギシ、という音が、無機質な病室に響いた。
自然と僕の目は据わっていた。
でも、そのままじゃだめだと。
病室のドアを見返す。
そこには僕の名前、「元野 嵐」が刻まれてあった。
そして、誰のかはわからないが、「鯨野 京子」という名前もあった。
この病室には僕と彼女以外、誰もいない。
「元野 嵐」 もとの あらし
余命一日。病院に滞在する夢を多数見る。
「鯨野 京子」 くじらの きょうこ
植物状態。