くじらが起きれば
病院の夜、というものは無機質であり、怖いものだ。
その部屋に溜まっていくため息は時に、体に戻れば、また家出をする。
その家出をした空気は、植物にたしなめられ、また人へと戻っていく。
青年は、ただ細い目をしていた。
頭上に大きな影を見つけた、アリのように醜いものだった。
ただ、怖いだけだった。
眠るのが、この世から意識を消してしまうのが。
夢の中で病院を目にするのは何度目だろうか。
現実と変わりない光景に、いろいろと脳が飽きるのが分かる。
ただいつみても飽きないものもある。
夢の中で最初に目にするのは天井。これはいつも変わりないものだ。
正方形がいくつも描かれているだけの、ただの天井。
そして上半身は自然に前を向こうとする。
ゆっくり、ゆっくりと時間をかけては、そっと、起き上がった。
この後に見るものもほんとうに、いつも変わりないもの。
だけれど、飽きない。飽きちゃ、いけない。
何回も夢を見ているはずなのに、髪の伸びていない、彼女。
ちょうど肩より少し長いくらいでとどまっている。
前髪は自分が今まで見たよりも長かった。
目、なんて、見えやしない。
「こんばんは」
少し距離のあるベットに、話しかけてあげた。