1話 突然の訪問者
何も能力がない。
自分は人より劣っている。
だから1つくらい...1つくらいは何かないかと探した。
探している....。
それでも何も見つけられなかった。
「不平等だ...」
そうやってつぶやいたことがある。
同じ人間なのに、同じ時間何かをやっても他人と比べれば劣ってしまう。
なぜ、同じ人間なのにここまで差があるのか。いろんな人には能力があるような気がして、自分にも能力があるような気がして、ないと分かっている。それでも能力があると信じていた。
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夢を見た...。
自分が誰かのために必死になる。
それでも誰かを守ることはできない。
走っても間に合わない。
走るのがもっと早ければ...もっと体力があれば...。
そこで目が覚めた。
「...もう....朝か...。」
耳障りな目覚ましを止める。
「学校か...」
俺には親がいない。ずっと1人だ。
食パンにジャムを塗り食べて着替えて顔洗って学校に行く。
「よぉ!望!部活もしていないのに相変わらず朝早いな」
「前も言った通りやることがないからだから、特に意味はないよ」
「ならもう少し寝てればいいのに」
「寝たらそれだけ行動できる時間が減るだろ?」
「分んねぇや。俺は部活だから先に行くわ。」
長谷川...やっぱりうるさいと思いながら先に行く長谷川の背中を見送りながら自分もゆっくりと自転車を進め始める。
朝、教室の鍵を開けるのは俺だ。
1人教室でいると次に来たやつは
「お前悲しいな」
とか、
「顔死んでるよ」
とおはようという奴はほとんどいない。
朝のホームルームが始まる頃にはほとんど全員来ている。
基本俺はいじられ役だ。
学校では明るい自分を演じよう。そういい聞かせる。
気づけば1日の授業が終わっている。
帰ろうとすると
「星杉、これ運んでくれ」
「えっと...分かりました」
俺は先生に言われたダンボールを職員室に持って行こうとする。そうすると教室に残っているクラスメイトはどんまいだとかザマァだとかいろんな煽りが飛んでくる。そうすると俺は決まって
「うるせぇ、そんなこというより手伝えよ。」
そういうが手伝うやつなんて誰も居ない。
職員室にダンボールを持っていく。そのあとすぐに職員室を出ようとするが担任に呼び止められる。
「星杉、今日何かに怒ってた?」
「いえ、別にそんなことないですけど...」
「それならいいけど。」
俺は休み時間の顔は怒ってるような感じだと言われるがそこまで酷いのか。
教室に帰ると教室に何人か残っていた。
「今日食いに行かね?」
神上真斗、クラスではあまり好かれてはない奴。それでも体力が結構あるやつで俺には俺だけでも羨ましいやつ。
「悪い、今日はあんまり金持ってなくてな」
「そう?また行こうぜ」
「そのうちな」
俺は生徒玄関に行き自転車にまたがり家に帰る道の方向へ自転車を走らせる。
俺が通っている高校は全校生徒600人くらいの学校だ。それでも朝が早く帰りがあまり早くない俺は大量の自転車が止まっているところは見たことがない。
「今日も何も見つけられなかったな...」
本当に小さな声で呟きため息をつく。
考えごとをしながら自転車をこいでいると金髪の少女が倒れていた。
俺が通っていた場所は人通りがほとんど全くなく狭い道だった。
「おい!大丈夫か?」
俺は自転車をおりスタンドを止めずに少女に駆け寄る。
「ここは...?」
「ちょっと待って、救急車呼ぶから」
「キュウキュウシャ?」
「救急車わからないの?病院、医師のところまで連れて行ってくれる」
ここまで説明しても少女の頭には?が浮かんでいる。
まずなんとなく記憶喪失を思い浮かべた。
「名前分かる?」
「私はエリナ、あなたは?」
名前が分かるようだったからただの迷子だろう。
いや、倒れていたということはただの迷子ではないか?
「ねぇ、ねぇってば、私が名前言ったのにあなたは教えてくれないの?」
「あ...、ごめん。俺は星杉 望」
「ホシスギノゾム?」
「そうだけど。それより君倒れていたけど大丈夫?」
「そうだった。私別の世界から逃げてきたの。だから私を助けて。」
俺は考えるまでもなく分かった。こいつはやばいし、面倒くさいやつだと。
「大丈夫そうでよかった。俺はちょっと用事があるから」
俺は自転車を起こし全力でこいで逃げた。運動神経も筋力もない俺の全力なんて大したことはないだろうがそれでも走って追いつくのは無理だろう。
息を切らしながら念のため遠回りして家に帰ってきた。
「ここがあなたの家なのね、いい場所じゃない。」
俺は慌てて後ろを振り向く。
「どこ見てるのよ、上よ。」
俺は自分の目を疑った。さっきの金髪の少女が空を飛んでいることに。
「なんでおどろいでるの?私魔法使えるっていわなかったけ?」
「言ってねぇよ」
仮に彼女が言ったとしても信じることはなかっただろう。
そして、彼女はゆっくりと地上に降りてくる。
「早く入れてくれない?寒くて寒くて」
「入れるわけないだろ、こんな得体の知らない奴。」
そう言った瞬間彼女のてには短剣のような物が握られていて物凄い速さで後ろに回り首元に突きつけてきた。
「断れば殺すわよ?」
鈍い俺にもわかるほどの殺意だった。
「わ...分かった...。」
「あと今あなたに触れた瞬間に私の事を喋れないようにしたから」
彼女を家に入れる。その瞬間に震えた声で
「本当にごめんなさい...」
そう確かに聞こえた。