第3話 エルフの村 その2
アリッサと共に、仕立て屋に着いたアレクシオスは、木でできた扉を開ける。エルフの女たちが、布を縫っている。すると、小柄でお下げ髪の娘が、こちらへ駆けてくる。
「いらっしゃいませー♪あら、アリッサちゃん!元気?…っとそちらのお連れ様は、だれ?」
人懐っこい笑顔を振りまき、挨拶をする娘。こちらを見ると、他のエルフたちと同じく少しおびえた表情を見せる。
「こんにちは、エリオ。こちらの方は、アレクシオスさん。今日は彼の服を仕立てにきたのよ。」
アレクシオスは軽く会釈をする。一瞬エリオは、ギョッとするが、また人懐っこい笑顔に戻った。やはり警戒されている。まあ仕方ないなどと考えていると、エリオと呼ばれた娘は、ぐるぐると自分の周りをまわりだし、珍しいものでの見るような目でこっちを見ている。そして立ち止まると、口を開いた。
「おじさん、変わった格好だね。この辺の国でも、人間族の服装でもないよ、これ。」
「そんなに変わった格好なのか?お嬢さん。私の国では一般的な服装なのだが…。」
エリオは首をかしげる。
「だって、今時裁断していない布を、ピンで止めたような服装の人なんてどこにもいないよ。あと、お嬢さんじゃなくエリオって呼んでよね、おじさん♪」
「エリオ、アレクさんに失礼でしょ!気を悪くしないでね、彼女言いたいことをすぐ言っちゃう性格なのよ。彼女はエリオ。私の幼馴染で、腕の立つ仕立て屋よ。エリオ、アレクさんに謝りなさい。」
母親に叱られた子供のように、しおらしくなったエリオは頭を下げ、非礼を詫びた。構わないから早く服を仕立ててくれと頼むと、先ほどまでの態度とは一変して、いつもの調子に戻った。
「じゃあ、アリッサちゃんは向こうでお茶でも飲んでて♪ あと、おじさんはこっちの部屋で待ってて、すぐ採寸するから♪」
二人は別れ、アレクシオスは部屋に入った。しばらくするとエリオと、数名のエルフの女が部屋に入ってきた。背丈が足りないのか、段差が幾つもある台が置かれた。紐を器用に使い、慣れた手つきで、アレクシスの体型を図っていく。
「ふう…おしまい♪ おじさん、いやアレクシオスさん、たくましい体をしているんだねぇ。計るのがたいへんだったよ…。」
「そりゃ、兵士だからな。あと、呼び方はアレクでいい。アリッサもそう呼んでいる。」
「そうなんだ、じゃあアレクさん、アリッサちゃんのことどう思う?」
いたずらっこのような笑みを浮かべ、エリオは尋ねる。どう思うと言われても、言葉に困る。甲斐甲斐しく介抱してもらったという面では、感謝の意に堪えないが、容姿や性格の話であれば、清らかで愛らしい娘だと思う。なんと答えたらいいものか、困ってしまう。こちらがなんとか答えを捻出し、口を開こうとする前に、エリオが口を開く。
「ほんとにいい娘だよね〜♪おっぱいも大きいし、優しいし。森で死に掛けてたあなたを助けたのもあの娘でしょ?」
「ああ、感謝の意に堪えぬ。それに女神のように清らかで美しい。」
「でしょ!アレクさん、わかってるねぇ!私は、あの子に可愛い服を着せてあげたい、あの子がずっと笑ってるのが見たいから、こうして仕立て屋をやっているのよ。」
それから、エリオは興奮気味に、アリッサの可憐さや愛らしさを、アレクシオスに説く。もうこれは止まる気配を知らない。話を聞き終わる頃にはもう日が傾いていた。
彼女の話を止めたのは、服の仮縫いが終わったという知らせであった。できあがったばかりの服を着てみてと言われるが、どうやって着るのかわからない。一通りレクチャーを受け、衣服を取り裸になる。すると、エリオと付き人の女達は、顔を真っ赤にし、甲高い悲鳴をあげて、そそくさと部屋を出て行った。何を恥ずかしがっているのか、アレクシオスにはわからなかった。
こんなものかという感じで服を着る。なるほど、これがエルフ族の服か。上下が分かれていて、下は帯で止め、上は頭を通すだけだ。これは衣類を着るよりも楽だ。とりあえずエリオを呼ぶ。素っ頓狂な声をで返事が返ってきたのち、顔を真っ赤にして、後ろ向きでおどおどと入って来た。
「き…着替え終わったの?アレクさん?ちゃんと、着てるよね?」
「ああ、着終わっているよ。これはいいものだ。動きやすくて、着るのも簡単だ。感謝する。
それにしても、なぜ後ろを向いて、おどおどしているのだ?」
わたわたと慌てるエリオは、数回深呼吸をすると、振り向く。
「…コホン。な、なんでもないよ、なんでもない。おお、似合っているね!気に入ってもらえてよかったよ。」
仕立てた服は、もう少し細かく直しがいるということで、今度は、エリオが立ち去ったのを確認すると、服を脱ぎ、衣類を着なおす。部屋を後にし、待ち疲れて椅子の上で寝息を立てる、アリッサを起こすと店を出た。
外はすっかり日が暮れて、家々に明かりが灯り、夕食の香りが漂っていた。
ちょうどその頃、村の入り口には数台の馬車が停まっていた。守衛のエルフがそれを止めると、一人の男が馬車から降りてきて、村長に会いたいと言ってきた。守衛がそれを止めると、男は持っていた単筒で、守衛の頭をぶち抜く。もう一人の守衛も同じように頭をぶち抜かれ絶命した。男は振り向き、馬車の仲間達に向かう
「さあてと、商売、商売。野郎ども!商品(エルフの女)には傷をつけるんじゃないぞ!」
「へへへ、お頭ぁ、楽しみましょうぜ!」
下卑た男達の笑いと災いを携えて、馬車は村の方へと進んでいった。