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第11話 父の面影

 アレクシオスが捕まってから3日が経った。あの日以来、アリッサは森の神殿へ入り浸りひたすら祈りを捧げていた。3日も碌に寝ず食わずで、精霊達の声に耳を傾ける彼女の表情は疲れ切り、大きな瞳の下には、青黒いクマがくっきりと浮かんでいる。そんな親友を見て心を痛めたエリオが、食事を持って森の神殿を訪ねる。


 「アリッサ、気持ちはわかるけど、少しは休もうよ。アレクさんならきっと大丈夫だからさ…ねぇ?」


 親友の呼びかけにも一切応じず、アリッサはただひたすら精霊達の言葉を待つ。しばらくすると何かを感じ取ったのか、カッと目を見開く。


 「アレクさんは、帝都エーデルワイスに幽閉されている。そして…なんてこと!明日処刑されるですって!!」


 急な大声に、驚いたエリオは手に提げたバスケットを落っことす。パンは地面を転がり、落ちた衝撃で蓋が開いてしまった水筒からは、暖かなスープが溢れる。


 「ア、アリッサ!ど、どういうことなの!アレクさんがし、死刑だなんて!冗談はやめてよね!」


 エリオがアリッサの肩を掴み、前後に揺さぶると、彼女はハッと我に帰り、いつもの様子からは想像もつかない強い口調で告げる。


「冗談などいうものですか!エーデルワイスまでなら馬車に乗れば、半日ぐらいで着くはずです!急ぎましょう!今度は私たちがアレクさんを救う番です!」


 二人は急いで森の神殿から、馬車の停留所まで着くと、御者にエーデルワイスまで急ぐよう伝える。御者は鞭を打ち、馬車を走らす。森の中をスピードあげて颯爽と馬車が走る。ガタゴト、ガタゴトと揺れる客室(キャビン)の中で、アリッサとエリオは一言も喋らなかった。そんな状況に耐え切れず、エリオが(せき)を切った。


 「アリッサ、ちょっと聞いていい?なんでアレクさんのことがそんなに気になるの?あなたは人間族(ヒューマン)を心底嫌っていた筈。だってあなたのお父様は、人間族(ヒューマン)に殺されたのよ!なのに…どうして?」


 エリオの放つ言葉には、いつもの快活さはなく、今にも泣き出しそうな口調であった。そんなエリオを見て、先ほどまで疲れ切り、表情すらなかったアリッサが優しく微笑んだ。


 「私は森で倒れているアレクさんを見たとき、一瞬助けるのを躊躇したの。でもね、そのときにお父様の言葉を思い出したの。『傷ついたり、困っている人がいたら、手を差し伸べてあげなさい。誰が見てなくてもちゃんと精霊たちは見ているからね。』ていう口癖を。それにね、アレクさんは強くて優しいところが、亡くなったお父様になんとなく似ている。だから放っておけないのかもしれないわ。」


 アリッサの言葉に、エリオも安心し、いつもの調子に戻った。二人はいつものように何気ない会話で笑いあった。3日ぶりのアリッサの笑顔だ。そして二人は、喋り疲れて眠ってしまった。二人が目覚めたとき、すっかり夜も更け、御者が客室(キャビン)の扉を開けると、ひんやりとした夜の風が二人を包み込む。アリッサは御者に駄賃を支払うと、宿屋へ向かった。


 宿屋の扉を開けると、丸々太った宿屋の女将が、不思議そうな顔で二人を見つめる。


 「おや、いらっしゃい。お客さん、おせっかいかもしれないけど、こんな夜更けに娘2人で旅なんてするもんじゃないよ?最近また物騒だからね。部屋はどこでも空いてるよ、好きなところを使って。」


 アリッサは女将に礼を言うと、鍵を受け取った。階段を上ろうとしたときに、一枚の掲示物に目が止まる。それは明日行われる公開処刑の開催案内であった。その中の死刑者リストの一文にアリッサの視線は釘付けになる。


 ー 北東エルフの村の用心棒 人間族の野蛮人(ヒューマンズ・バーバリアン) 罪状:国家反逆罪 ー


 アレクさんのことだ。明日アレクさんは、闘技場(スタジアム)で公開処刑されてしまうんだ。どうしよう、エリオにはあんな大見得を切ってしまったけど、私は所詮祈ることしかできないのかしら。そう考えていると、宿屋の女将が声をかける。


 「お客さん、気になるのかい?気にならない筈はないさ。だって、先代の皇帝陛下が禁止した公開処刑を、今の皇帝陛下が復活させたって話さ。私も若いころよく旦那と見に行ったものだよ。しかも今回は、国家を脅かす人間族(ヒューマン)ときたもんだ。これは盛り上がるに違いないわ。」


 アレクさんはそんな人じゃないと、言い出そうとしたアリッサを、エリオが制止する。


 「では、女将さんお世話になります♪おやすみなさい♪」


 アリッサを引きずるようにして階段を上ると、鍵を開け寝台に寝転がる。旅疲れか、エリオはすぐに寝息を立て始めたが、アリッサはなかなか寝付くことができなかった。

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