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第9話 反逆者の汚名

 盗賊団を撃退してから数日が経った。自衛団の噂は、他の村に住むエルフたちにも広まり、アレクシオスは、村々で結成された自衛団に、講師として招かれることが多くなっていた。そんな自衛団の活躍により、周辺の治安は維持され、人身売買目的での、強奪や拉致などの発生数は激減。人々はこの平和な生活を謳歌していた。


 しかし、この平和な状況を喜ばしく思っていない者もいた。

 

 アレクシオスは鍬を持ち、大地を耕していた。すっかり村の一員となったアレクシオスは、自衛団の活動がないときは、こうして村の人々のために畑を耕し、種を蒔いた。農耕作など奴隷(ヘイロタイ)のやることだとばかり思っていたが、やって見ると案外良いものだ。拭っても吹き出てくる汗をそのままに、荒れた土地に鍬を入れていく。


 「ふう、こんなもんだろうか、ご老人。」


 「結構、結構。いやいや、ありがとうございます用心棒様。おかげで助かりました。まあまあ、こちらでお水でも飲んでくださいな。」


 背の低い、痩せた老人エルフは、あぜ道に置いたカバンの中から、水筒と木のコップを取りだして中身を注ぐと、アレクシオスに手渡す。ひんやりと冷えた水をごくりと飲み干すと、先ほどまでの渇きが癒され、熱を帯びた体に染み渡る。一息つき、ぼんやりと空を眺めていると、あぜ道で遊んでいた子供たちがこちらに駆けてくる。


 「あ!ようじんぼうさまだ!おひげのようじんぼうさまだ!」

 

 「こんにちは、ようじんぼうさま!いっしょにあそぼうよ!」


 どうやら子供達からは、『髭の用心棒様』とよばれているらしい。老人に挨拶をし、畑をあとにすると、5人の子供達が、輪になってアレクシオスを取り囲む。子供達は期待と好奇心に満ちた瞳で、見上げている。子供達を両腕に抱え、一人は肩車をする。すると残った2人は足に縋った。その状態で、のしのしと歩いたり、その場でぐるぐると回ると、子供達は溢れんばかりの笑顔で、喜び、もっともっととせがむ。別のことをやろうと提案すると、今度は鬼ごっこが始まった。走り回る子供達を追い掛けて、次々と捕まえていく。子供が鬼になると、わざと捕まえやすいようにゆっくり歩いたりした。


 「ありがとう、ようじんぼうさま!またあそぼうね!バイバイ!」


 手を振り、夕焼けに向かって家路につく子供達に手を振り返す。子供達の背中が見えなくなるとアレクシオスもまた、夕焼けに向かって歩き出した。


 家に着き、扉を開けると、アリッサが鼻歌を歌いながら夕飯の支度をしている。ダイニングに入ると、見慣れた少女が椅子に腰掛けている。こちらに気づくと、ひらひらと手を振る。


 「あ、アレクさんじゃん♪ヤッホー!お邪魔してるよ♪」


 「久しぶりだな、エリオ。どうした?今日はもうお店を閉めたのか?」


 「そー、今日はお昼で休み♪だから、今日はアリッサちゃんの手料理を食べにきたの♪」


 どうだと言わんばかりに、貧相な胸を張る。適当な愛想笑いで返すと、少し拗ねたような顔をする。椅子に座りしばらく待っていると、台所からアリッサが出てきて、料理を卓に並べていく。

大麦のパンに、キノコのスープ。サラダ、野ウサギの丸焼き、そしてイチジクが並ぶ。食器を並べ終わったアリッサは、アレクシオスの隣に座る。三人は目をつむり手を合わせると、食事の前の祈りを捧げる。

 

 「我々は今日も今日とて、森と大地の精霊達に感謝し、その御恵みをいただきます。」


 祈りを終え、暖かな湯気を立てる食事に、手を伸ばす。アリッサは本当に料理が上手だ。何を食べても美味い。この味を覚えてしまったならば、もうブラックスープは飲めないだろう。目の前の皿がすっかり空になったころ、一息ついたアレクシオスに、エリオはいたずらっ子のような表情を浮かべたまま口を開く。


 「なんだか、こうしているとアレクさんとアリッサって、夫婦みたいだよねー♪」

 

 「ななな…!なんてこというの!エリオ!…うぅ…。」


 顔を真っ赤にし、反論したかと思うと下を向き、黙り込んでしまった。それをニヤニヤと締まりのない表情のエリオが見つめる。


 「ハハハ、夫婦?乙女と獣ではなくてか?残念だが、私にはすでに妻がいる。夫婦にはなれぬぞ?」


 エリオの冗談に、冗談をかぶせつつ返事をすると、それを聞いたアリッサは、驚いたあと落ち込む。その表情の急変を見て、エリオはさらににやける。そして立ち上がり、落ち込むアリッサの胸を後ろから鷲掴みにし、揉みしだく。アリッサは再び顔が真っ赤になり、悲鳴をあげる。


 「アレクさん、案外愛妻家なのね♪こ〜んな立派ものをお持ちの巫女様を、横に侍らせておいて、手も出さないなんて♪アリッサ、お願いだからわたしにこの乳わけてよ〜♪」


 「や、やめなさい!エリオ!揉まないで!嫌ぁー!」


 少女たちの微笑ましい姿を眺め、改めてアレクシオスは平和であることを実感していた。そんな彼の横で、ひたすらに胸を弄ばれ続けた少女の悲鳴は、星降る丘に響き渡った。


 夜が明けて、アレクシオスが薪を割っていると、静かな森の中に、馬の蹄の音が響き渡る。しばらくすると、一台の粗末な馬車と、鎧とマントを着た二人の男が、アレクシオスの家の前で止まった。男たちのマントには山脈と白い花が描かれている。なんだか物々しい雰囲気を醸しつつ、男のうちの一人が戸を叩く。


 「ここの家に、人間族(ヒューマン)の用心棒がいると話を聞いた。我々は陛下の使いである。戸を開けられよ。」


 扉が開き、アリッサが対応する。男がアレクシオスの居場所を尋ねたので、家の裏庭で薪を割っていることを教えた。教えられた場所に着くと、男のうちの一人が口を開く。


 「貴様が、人間族(ヒューマン)の用心棒だな?国家を脅かす反逆者め。陛下の名により、貴様を拘束する!」


 男の掌が光り、蔦が飛び出す。アレクシオスは手にしていた斧でそれを払いのけたが、遂には手足を縛られてしまった。騒ぎを聞きつけてアリッサが、駆け寄ってくる。


 「あなたたち、何をやっているの!アレクさんを離しなさい!」

 

 「女!邪魔をするな!」


 もう一人の男が一喝し、アリッサの頰を打つ。倒れこみ、涙目のまま兵士を睨みつけるアリッサの姿を見たアレクシオスは、怒りの衝動に駆られる。腕や足にありったけの力を込め、自身の体に巻きついた蔦を引きちぎった。斧を掴み、男に突進する。男は一瞬驚いたが、また何かを唱え出す。再び男の掌が光り、放たれた緑色の光がアレクシオスを包むと、アレクシオスは急激な眠気に襲われる。抗うこともできず、意識が遠のいていく。わずかに聞こえるのはアリッサの叫び声だけだ。


 「こ…の…やろ…。」


 アレクシオスの意識は、暗闇の中へと吸い込まれた。

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