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ヘビメタっていうな!  作者: 有角弾正
9/9

唱子の部屋 篇

    9話 唱子の部屋 篇


北区東十条、狭いアパートの一室。


唱子と格闘ゲームをしているのは、

唱子にことあるごとに勝負を挑んでくる御影子の双子の娘、その妹、緋音である。



今日も自宅の執事に選ばせた最高級の酒と、

屋敷付きのシェフに作らせた焼きそばパンを持参し、

格闘ゲームの師である唱子に手合わせを頼みに来ていた。



緋音としては、先に話したい事があったのだが、まずは10戦しろと唱子に言われ、今がその10本目だ。



前髪の長い美少女は、今日もライダースーツを肩に羽織り、その下はさらしを胸にきつ目に巻いているだけだ。


まるで大きな胸を押し殺しているみたいに見える。



緋音「だ~!何でまたそれくらっちゃうかなー?!あっあーっちょっ!あーもうー!」



       『K.O!』


ボフッ!


ソファに仰向けに倒れる敗者緋音。


「くっそーやっぱまだまだ師匠には勝てねーか!


姐さん!ちっとは手加減して下さいよー!ノー接待ノー容赦すかー?

イジメカッコ悪いっすよー!」


美しい顔を両手で覆い、天井に喚く。



唱子「んー?誰かさんに手加減無しでお願いしやす!って言われたからねー。」


ニヤニヤしながらタバコの煙に目を細める美しい師匠。



緋音「うっ…。そりゃ言いましたけど……。


ありゃなんつーか、言葉の……


      あっ!」


バネ仕掛けのように起きあがる。



緋音「そー言えば、こないだはすんげー試合でしたねー!

観てて鳥肌立ったっすよ!!」



少し前に御影子がゲームで勝負をしろと現れ、

緋音の姉、凛音が唱子と戦い、結局どちらが勝ったのか、よく分からない終わり方になった件である。



唱子「え?あんた来てたの?


あの日何か外せない用事があるから出掛けたって乳子が言ってたけど?」



緋音「師匠の試合、それも相手が姉様(ねえさま)とくりゃー、嫁質に入れてでもっつーやつですよ!


ウチのババァにはウソついて、先に出て変装して全部見てましたよ。


大体、俺が姐さんに勝てる訳ないですからねー」


唱子のどくろの形を模した盃に、最高級焼酎『蜻蛉切り平八郎』を注ぎ、

自分は手酌で最高級ウイスキー『サマエル』を一口。(中身は実は烏龍茶)



唱子「ふーん、そりゃご苦労なこったね。


それよりなんだい?

あの凛音のスーパー化は。


あのまま三本目やってたら負けてただろーね。


マジで、おいチーです!やんなきゃなんないかと思ったよ、全く。


あいつ化け者か何かかい?」



緋音「いやいや!そりゃ姐さんが勝ったでしょ、と言いたいっすけど、

姉様がアレになっちまうと正直ちょっと分かんないですね……すんません」


神妙な顔で腕を組み、小首を傾げた。



唱子は気にした風もない。



緋音の顔からみるみる血の気が引いてゆく、グラスを持つ手も震えて来た。


「ちょっと前の事なんですが。

俺が背中にスゲーいかした絵を入れようと、彫り氏をウチに呼んだら、姉様がそれだけは許さないってキレ出して。


んであのゴールデンアイになっちまって……。


そりゃあ思い出すだけでも……」


何を思い出したか、恐怖のあまり身体全体が震えだす。



唱子「ん?あんた顔色悪いよ。

別に思い出さなくていいから、まー落ち着きな」


グラスに烏龍茶を注いでやる。


緋音はそれを一気にあおり。



「すんません……。


姉様とは一卵性っつうんですか?

双子なんですが、(つら)以外は全然似てないんです、むしろ真逆なんです。


産まれたときから………。


うちのババァ、俺達を産んだとき超難産だったらしいんすけど。

やっとのことで医者が取り上げようとしたら、

姉様見て、何かこの子光ってる!って言い出して、


突然その医者の入れ歯がマスクの中でポロっと抜けて、奥から新しい歯が、そこのけそこのけとせり上がって来て、禿げた頭にうぶ毛が生えた、とか。


その時間、脳死だった患者がいっぺんに3人も意識を取り戻したとか。


その病院のボケ老人達が全員ベッド、病室から脱け出し、分娩室の前で室内に向かって知らないはずのラテン語で讃美歌を泣きながら大合唱したっつーんすけど……。


何処までホントか分かんねぇです。

ありえねぇでしょ?ふつー」



呆然とする唱子


唱子「何の話だいそりゃ?……

いや、あいつならありえるかも……。


で、あんたの時には何にもなかったのかい?」


興味深気になり、聞く。



緋音「えと、俺は姉様の2時間も後に産まれたんですが……」


ちょっとうつむく緋音。



唱子「ん?どした?酒足んないか?(烏龍茶)」


また注いでやる



緋音「すんません、ありがとうございます。


その2時間が、その病院史上最悪の日と言われてまして。


なんでも、悪魔の2時間とか……。」


何となく部屋の温度が下がったような気がする。

自然と唱子の喉が鳴る。



「まず、その病院のある界隈だけ真っ昼間だったのに、いきなりまるで夜みてーに真っ暗んなって。

バケツをひっくり返したような土砂降り、雷。


終いには夏場に雹が降る始末。


そんでもって停電、闇になり、

病院の緊急用の予備電源に切り替わるまでの間、どっから入って来たのか、

犬みてーにデッカイ黒猫が看護婦の足の間を抜け、サンダル履きだった医者の足の親指を喰いちぎり。


空じゃカラスが全ての病室の窓にヒビが入る程ぶつかって、病院全体が震えだし。


地下の霊安室からは遺体を入れた狭い安置庫が内側から扉が変形するほど一斉にバンバン!バンバン!と……」



     「もうやめろ!!」



両手で耳を押さえながら唱子が叫ぶ。



緋音「とまあそんな感じです……」

唱子「どんな感じ!?」


食い気味につっこむ。



二人共もう一杯づつ飲み干し、唱子は新しいタバコに火を着け、ようやく一息をついた。



唱子「凛音は凛音でスゲーけど、

あんたも何かトンでもないものを背負ってそうだね……。


じゃこういうのはどう?

凛音は目が開くと覚醒して、あんたは体のまん中のアレが限界まで開くと覚醒する、とか?


ギャハハハ!!なんつってい!!


……?どした?下ネタ苦手か?」



今度こそ美少女は、ガックリうなだれ、長い前髪でテーブルを掃き、長いタメ息をつき。


緋音「何で……知ってんすか?…………」



唱子「そりゃ……人前じゃ覚醒し辛いねえ……。」

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