美貌の任侠、その名は緋音(はいね)篇
7話 美貌の任侠、その名は緋音篇
唱子の近所、身近な所に天敵とも言える女がいる。
正確に言えば唱子の方からは相手にしていない。
その女、天帝 御影子は
歳は唱子の一つ下、幼馴染みである。
唱子の今は亡き亭主、鏡二を密かに好きだった。
高校時代は軽音部のロックな唱子に憧れ、唱姉ちゃん、唱ちゃんと慕っていた過去がある。
今現在は大変な金持ちであるが、貧乏時代の辛い過去があり、
唱子への憧れの入り雑じった感情などがあり、何でもかんでも唱子にヒステリックに、時に陰湿に対抗する。
憎しみの原因。
京都の唱子の実家、和菓子屋『黒松や』は随分昔につぶれているが、
その原因を人気の売り子であった唱子が、突然ふらりと現れた余所者男と家出したせいだと信じている。
京都ならではの、周り近所の陰湿な陰口、150年続く人気老舗をやっかんで、客にまで京都の面汚し、恥さらし、
とあることないことを、ここぞとばかりに近所の老舗ライバル店達に吹聴されたのだ。
まぁ高校生の身で家出、男と同棲。
と、確かに唱子にも非はある。
そのせいで店は評判も下がり、客足が徐々に減り、借金がかさむ。
しかし銀行は『黒松や』が老舗の為、結構な額を貸す。
その時の保証人が唱子の父親の親友、御影子の父親であった。
だが『黒松や』は苦労のかいもなくつぶれてしまう。
当然保証人の御影子の家は酷く困窮し、御影子は若い身で貧乏の辛さを味わうこととなる。
怒り、憎しみの矛先は愛音に向き、唱子が女の子を懐妊したことを知り、自分にも女の子が出来るよう執念で結婚する。
そして懐妊、しかも双子を授かる。
そして産まれたのが、凛音と緋音であった。
何でも倍なら唱子に勝てる!というのが常に御影子の思考パターンである。
御影子は小さくない幸せを感じた。
しかし、飽くまで彼女の人生の目的は、
いつか必ずや唱子に
『参った、あんたには敵わないよ!』
と土下座させることである。
しかし、自分の中で貧乏しても幸せそうで、周りに慕われ、美しい唱子への憧れ、妬みが火と燃えていることは認めようとしない。
長くなったが、今回はその御影子の双子の美しい娘、妹の緋音の話である。
外見は姉と同じく息を飲むほど美しい。
ショートカットで前髪だけ長くしており、
ピアス好き、とボーイッシュというよりワイルドなスタイルを好む。
ボディーペイントで登り鯉を背中に入れ、晒しをブラの代わりに巻いている。
今日もお気に入りのショートレザーを羽織り、ふらりゲームセンターに現れた。
この美少女は格闘ゲームマニアで、ゲームセンターの常連客である。
腕前はというと、幾つもの大会で優勝し、メーカー公式の攻略本まで執筆している程だ。
(マニア達の間では、特にコンボの作り方が秀逸!とされている。)
勿論、来店すれば連戦連勝で、筐体の椅子に座れば当たり前のようにファン、ギャラリーがつく。
ファン達にはマエストロ、マイスターと呼ばれる。
しかし、困った事がある。
このゲームセンターには全国から遠征に来る強者も珍しくないが、もう緋音に勝てる相手がいないのだ。
自然退屈することになる。
そんな孤高の寂しさにも慣れきっていたある日。
この日も60連勝し、いつにも増してプレイが神がかっていた日だった。
乱入だ。
「またまた子羊が来たか…………」
コキンと首を鳴らし画面を見る。
対戦相手は投げキャラ、明らかに○モホモしいコスチュームに、
何故か両手に激回転するまがまがしい極太人参を持たせた、下品にアレンジされたキャラの奴だった。
「ふーん……ま、コスのセンスは良いじゃん。だけどさ、格闘はコスで勝つんじゃねーんだよ!コスじゃーな!
ハイ!ごちそうさ、ま!」
秒殺、まさかの緋音のパーフェクト負けだ。
ギャラリー絶叫。
「イヤイヤイヤイヤまぐれって怖いぜ、
出会い頭?流れ弾?つぅの?
かつーんってか?これ。
本当見たことないコンボだし、セオリーガン無視だな~
いやいやビギナーズラックってこええよな~負けるのいつぶりだっけかな?
いやー最近なまってたかもなー……」
勿論再戦。
が、またもや見たこともないコンボを始める対戦相手。
緋音パーフェクト負け。
「○ァック!」
レザーグローブの拳で筐体を叩く。
「イヤイヤ、おかしいだろ!
俺コンボファクトリーだぜ?こいつ、ランクもコスチュームゲット出来るギリだし……。
家庭用でやりこんでるクチか?
ふ~落ち着け俺。姉様にも、いつも
「トチらなければあなたは最強」って言われてるし。
いやーハハハ、初心者相手は難しいなぁ~
実力の差が有りすぎるとこういう負けあるんだよなぁ……。
よっしゃいくか!」
再戦、またも秒殺パーフェクト負け。
「ファクトリー○ァック!!!イヤイヤイヤ!!」
………………閉店間近、緋音は手持ちの有り金を使い果たす。
集中力も枯渇し、ガックリする。
「何なんだよ!一体ぇよー……」
漸く対戦相手を覗く。
そこにはタバコの紫煙に目を細める美しい年増が座っていた。
「てててててめぇは!唱子!!!!」
唱子「あーお前だったのかー。
あたし、家でしかしないんだよね、このゲーム。
でもこのコスチューム、アーケードでしか手に入らないからねー。
それとあ○るぶらすと人参もね。
アハハ!それにしてもお前、名前登録コンボファクトリーってなによ?
全くもってファクれてねーじゃん!
アハハ!」
仰け反る美しい年増。
「○ァーーーーーック!!ここここここいつ!!殺す!
くっ!いや待て。こいつを憎んではウチのババアとおんなじだ!
それにゲームの腕がスゲーのは確かだ!
負けて逆ギレはスジが通らね………………
あー……相変わらずキレイだなこの人……
イヤイヤ!関係ねーし!
クソ!この世界、強さこそが正義……うーん……。
あ、良いこと思い付いた!」
ひとり俯き、ブツブツと悩んでいたが、
サッと立ち上がり、美しい顔を上げた。
「えーすんません、師匠と呼んでも良いっすか?」
唱子「は?」
それからは週一で、マイスターは母の御影子に極秘で、
焼酎と焼きそばパン
(ヤンキーなのでパシリ的な機嫌とりしか出来ない、知らない。
唱子もあたしゃヤンキーの先輩かよ……といつも呆れる)
を買って格闘ゲームの対戦に行く。
残念ながら一度もファクれてはいないが。
しかし親の刷り込みか、愛音には敵対心を分かりやすく出し、愛音が帰って来ると
「師匠コイツんだけは筋通させてくだせい!すんません!」
と言って、テメーには負けねーからな!
と喚き、わざと肩をぶつけて帰る。
そうして一旦玄関を出るが、もう一度美しい顔だけ出し
『姉さん失礼します』
と、女師に対しての挨拶は忘れない。
唱子も「あぁ、またね」
と、可愛い舎弟に声をかけてやるのだった。