6 マグナム編
6 マグナム編
唱子「よしでかした!」
椅子から跳ねるように立ち上がる。
唱子「アンタ達はこの部屋から出るんじゃないよ‼
どうしてもトイレとかなんとかあったらスマホにメッセージしな!」
ピシャッ
玄関では愛音が
「ちょっと待っててねー」
美しい母親のもとに駆け寄る美しい少女。
愛音「あのねー、お母さーん」
唱子「分かってる、あの変態達は奥の部屋から出ないよ、安心しな!」
サムズアップ。
愛音「それもだけどー、小学校の時みたいに暗黒大陸とかメタルの事話して恐がらせないで欲しいのー、お願い!」
不安気に見上げる。
唱子「?あー、えーと、あぁ紗綾ちゃんの来たときか!
嫌なこった!あたしゃ自分のメタルにゃ誇りを持ってんだよ、無理!」
ブイーンブイーン!
バイブにしたスマホだ。
画面にはメッセージ
「そこは堪えて!!カ、リ、ス、マ!」
唱子「……チッ分かったよ、早く呼んでおいで、待たせちゃ悪いから」
もう待たせてますよ、お母様。
愛音が頷き玄関に小走りで向かった
「お待たせー!どーぞー」
小さい頭を横に傾げる。
入って来たのは二人。
1人目は阿村アイジ
同じクラスのあいう組の一人である。
まるで将棋の駒のような輪郭で、顔のパーツは全て中央に集合している。
身長165㎝、普通体型だ。
まー醜男の範疇に入る。
阿村「おじゃまします、
え?お母さん?お姉さんじゃなくて?
なんつってい!」
声から察するにナルシストなようだ。
この面で……
二人目も入って来た。
「ドゥフフ……流石は阿村氏、美しい婦女子には直ぐにセンサーが反応するようでござるな。
感心感心ドゥフドゥフフ……」
痛村 典明である。
枯れ木のように痩せているが、下腹だけ出っぱっている。
極端にタレ目で細面、異様に鼻が長く、唇はタラコ、まー醜男(略)
唱子の口と瞳孔が開き、口元にタバコが張り付いている。
唱子「きん、」
バイブ、画面
「キンモーはだめ!我慢して、カリスマの為!」
カルマ流石に早い!
唱子「や、やぁいらっしゃい……、
何か飲むかい?まぁとりあえずビールで良いよね?」
間違っても中学生に出す物じゃない、勿論冗談だ。
痛村「ンフフン楽しい母氏でござるな、ふひ」
口に枯れ木の手を当て、笑う。
阿村「じゃあシャンパンでもいただこうかマドモアゼル!なんつってい(笑)」
指で拳銃を作り、美しい年増を撃ち抜く。
痛村「オウフ!ヌルフフフ!」
笑っているようだ。
別段唱子は美形好きな訳ではない、
しかし彼等とは1秒も同じ空間に居たくない。そうガイアが囁く……。
唱子「あ愛音、ちょっとお、い、で」
部屋の隅に連れて行く。
愛音「えーなあにー?」
唱子「あんたどっちの糞が好きなんだい?
友達じゃあなくて好きな方だよ!」
もちろん小声である。
愛音「えー?んー……どっちも好きじゃーないよー」
無邪気に微笑む。
唱子「は?好きでもない男を二人とは、流石はこのあたしの血をひいてるねー、
と言いたいところだが……」
愛音「お母さん、あのねー、あの二人バンドやってんのー」
唱子は頭を抱えた「なるほど、ね。あんたをギタークレイジーにした責任はあたしにある。
分かった!もう少しあたい頑張る!」
何かを決意した。
阿村、痛村両名はテーブルに招かれた。
オレンジジュースが振る舞われた。
唱子「えー、バンド、やってるんだって?」
美しい笑みで尋ねる。
阿村はおやっ?という顔
「はい、自分で言うのもなんですが、超中学生級っす。
これ言ったらシャレになんないかな?
言ったろ!
学校から帰ったらアニメ見て、同人誌描いて、大体9時でしょ?
それから寝るまで2時間は必ずギターの特訓!してます。
あちゃあ!言っちゃった~!チラ?」
驚く唱子の反応を待っている。
唱子「へー、そー……?!2時間?!(たったの?!)」
あまりに大声にビクッとしながらも阿村
「あーまーテクを研くにはこれくらいは当然ですよヌハハハ、なんつってい!
でもお母様、テクニックだけではいかんのですよ。
その何と言うか音の味、艶?っつーやつスか?
あーすみませんアーティスト言葉をつい使ってしまいましたね、
普通の主婦には難しいか……
あちゃあまたやてもた、なんつってい!」
愛音は眼をこれ以上ないほど見開き、ついには涙がこぼれ出す。
愛音「お願い!も、もうやめて……それ以上は……」
痛村「ヒョヒフ!いやいや阿村氏のギターは天才レベルでござるよ。
なんと形容したものか?ドゥフ!そう!聴く者の魂を揺さぶる的な?!
ヌルフフ!グフフ……」
阿村「なんつってい!なんつってい!いやいや~あはははは!!」
指リボルバー連射。
痛村「ブシュシュルフヒャフル!!」
唱子「ピキッ!」
バイブ、画面
「ヌハハハハ!」
唱子は影が滑るようにムラマサ達のいる部屋へ移動する。
ゴリッ!モグ‼メゴ!ズン!ピッキーン!
ふすまのすき間から光のようなものが漏れた。
ピシャン!
痛村「フヒョ?お母氏どうかされたでござるか?ヌヒ」
唱子「……あー、いえあたし氏クスリを決まった時間に飲まねばならんでごさる、すまんかったシネ!」
阿村、指リボルバーの見えない煙を吹き流すと
「あ、銀山にも今度ギター教えてやるよ~」
ビクッとする愛音。
どん!
唱子の両肘が机にめり込む!そのまま両手で頬杖を付き。
「んー……二人はどんな音楽が好きなのかな?かな?」
鉈が似合いそうな表情だ。
痛村「ホヘロフシュ、お母氏音楽は好きでござるか?フヒャフル」
阿村「ん?まぁロックですよ。あーそうだ、お母様もロックやってみたらどうすか?
オレらの母さんとかとは違って若いし、何かロックっぽい雰囲気だし、
すげー美人だからボーカルとかしたら人気出そう!
分からない事は俺が教えますよ!なんつってい(ハート)」
リボルバーの弾倉を廻す。
痛村「フヌス!そうそう何たって阿村氏は……ギターのカリス、」
ガタッ!愛音がすんでの所で立ち上がる。
愛音「あーそうだ家にギターある!あるよ!ちょっと待ってて」
唱子から立ち上る煙はタバコだけではないようだ。
愛音は自分の部屋に行く。
愛音のギターはカルマの工場横の練習部屋にあるのだが、自宅にも予備のサブギターがあるのだ。
阿村「お、何であんの?」
唱子「あー、むかーしフリーマーケットで買ったかな?まだ有ったんだー」もちろんウソである。
愛音「はい、弾いてみてー」
HS-3搭載、キャンディアップルレッドのストラトキャスターを二人に差し出す。
おう!割りと良いギターじゃん?!何で指板えぐれてんの?
とか言いながらいじっている二人。
バイブ、画面
「多少下手でも我慢して」
阿村「チューニング完了!じゃあいくぜ!
じゃらーんぺきぽろーん、じゃ!じゃーん!ぷう」
超が3つは付く程の下手クソである。
唱子「ぶはははははははは!!いーひっひっひ!
はははははは!!ばはははは
こ、殺す気か?!!」
足を痙攣させ、仰け反り、椅子から落ちそうになる。
中学生二人『?』
バイブ、画面
「笑い過ぎ!傷付く!!作戦がダメになるよ!後ムラマサ君が……もう」
唱子「はーはーはー、…………ふー……。」
新しいタバコを吸い、落ち着きを取り戻す。
痛村「フヒョ、お母氏どうされた?」
唱子「思い出し笑いでござる、ふひ!シネ」
バイブ、画面
「いつか教育しましょう……」
唱子が頷く。
バイブ、画面
「愛音君の事をどう思ってるか聞いて!」
そうだ、愛音とくっつけなければならないのだ!
唱子「二人はどんな女の子が好きなのかなかな?」
阿村「うーん、スラッとした娘かな?」
痛村「フヒョ、流石阿村氏!押し付けがましいボインちゃんは勘弁でござるよ!ポヒュ」
唱子「おー!そんでそんで!?」
これは流れが来たのか?
阿村「うん、後は清楚で控えめで無邪気なタイプがいーなー!
速効嫁決定なんつってい!!」
痛村「フヒョ我同意!我同意!ヌヒャホゥ!!」
愛音は意味が分からず、ただオレンジジュースを飲む。
バイブ、画面
「来たね!トドメだよ!ぬるぽ」
唱子満足そうにタバコの煙に目を細める。
唱子「ガッ!!じゃあさ!?じゃあさ!?愛音なんかどう?!」
正しくチェックメイトである。
愛音「え?お母さん?!!」
阿村「ぷ、ぶはははははははは!!」
痛村「ポヒュ?フヒョハハハハハ!!」
唱子『?』
痛村「フヒョホホホお母氏!拙者等二人は二次元嫁がすでにいるでござるよ!ポコゥ!」
枯れ木のような掌でタラコ唇を覆う。
阿村「三次の女なんか興味ないっすよ~
あー腹イテエ!!」
床に落ち、盛大に笑い転げる二人。
細い腰に手を当て、鼻から紫煙。
立ち尽くす唱子
「ああ、そうかい…………何か逆に安心したよ」
バイブ、画面「何て言うか……お疲れ様……
あんまり殺しちゃだめだよ」
恋愛大作戦失敗。