5 無駄議論程楽しかったりする 遍
5 無駄議論程楽しかったりする 遍
ある日の午後、唱子の安アパート。
あまり上等とも言えない丸テーブルを囲んで唱子、カルマ、ムラマサ、虎南。
唱子はドクロの盃に5杯目の焼酎『第六天魔王』をストレートでムラマサに注がせ、別に味わう風もなく軽くあおる。
まだ唱子なら間違っても酔う量ではない。
「今日はワザワザ集まってもらって悪かったね。
実はちょいと聞いてもらいたい事があってねー」
いつになく、この年増美女にしては落ち着きがない。
ムラマサ「おっ?何か考え事ッスか?姐さんにしては超珍しいっスね?!
考えるんじゃない、暴れるんだ、みたいな姐さんが。
ズブリ?
あ痛っ!!」
抜いたアイスピックの先をムラマサの左目に向けながら。
唱子「お前ねー、時々思うんだけど、わざと人を怒らせて楽しんでるトコあるよな?」
真正面からシルバーブロンドの痩せ過ぎ男を睨みつける。
ムラマサ「んなことないッスよ!回復呪文発動!!」
勿論何も起こらない。
唱子「いや絶対そーだ、お前あたしがつっこんでも死にゃしないと思ってんだろ?
世界初のつっこまれて死んだベーシストにしてやろうか!?」
確かに世界初であろう。
ムラマサ「ヒッ!!」
青くなる。
カルマ「ショーコサン、本当話が進まないから……ムラマサクンも気を付けて。
若くしてボケ死にしたくはないだろう?」
好物の珈琲を回す。
ムラマサは静かになった。
唱子「フン!じゃ、話を戻すよ。
この間の話さ、愛音に適当なオスを当てがって、
惚れさせてアイツが悦んでMAXチョーシこいたところで、
オスの方をアレして、幸せの絶頂から絶望のドン底へ!
で若い奴等が好きななんつったっけ?
あージェットストリームアタック効果っつうの?
ま、とにかくそいつで愛音の精神を限界までアレして、
アイツの演奏にどんな色付くか見てみたろっ(爆)ていうアレなんだけどさー。」
面倒臭そうに話す。
カルマ「……まぁ所々、これでもかと間違ってるけど。思い出したよ」
頷くと、眼鏡の真ん中を押し上げた。
それを見、なぜか不機嫌になり、
新しいタバコを取り出す唱子
「んー。あのさー、その作戦自体アイディアとしては全然悪かないんだけど、致命的な問題点があんだよ。
まず最終的にアレするからどんな男でも良いってアンタ言ってたけど、
大前提としてまず愛音が相手の事を気に入らないと始まらない訳じゃない?
全然誰でも良くないよー。どーすんのさコレ?」
鼻から紫煙、ほっそりとした肩を竦めた。
ムラマサ・虎南『ムッ確かに!』
全員の目がダンディーな紳士に向いたが、全く気にした様子もない。
カルマ「フフ、そんな事簡単じゃない。
ショーコサン、キミ一緒に暮らしてるんだからアイネクンの好きなタイプは分かるでしょ?
で、それっぽい男の子を授業参観で探して、家に食事に来ない?とか、
男子中学生の好きそうなゲームとか、コアなホラー動画あるよ?とか、
で誘ってさ。
ま、嫌がるようなら、アレでアレして、アレでも良いかもね……」
珈琲のお代わりを注ぐ。
唱子は腕組みし
「んー、基本的に寝てるとこかメシ喰ってる所しか見てないし、
ウチにゃあテレビも無いし……
あぁ!そうだ!好きな男の人とかいんの?
て聞いたことあったよ!!
そーそー!そしたら何て言ったと思、」
ズイッと前に出るムラマサ
「んー、姐さん恋多き女って感じでもないっスからねー、自分で言うほど。
中学生女子のタイプとか分かるわけないっしょッ?ヤッパリ」
やれやれといった顔。
虎南「ウム、ここは我々三人で考えていった方がムダがないな」
筋肉の要塞が静かに頷く。
カルマ「おや?奇遇だね御二人さん。
フフフ。
やはりね、一般的に言うと女子中学生の好むタイプというものがあってだね……」
自信たっぷりに微笑む。
男衆は三人で額を寄せ合う。
美しい年増が叫ぶ
「うぉーい!!!ちょっと待ったー!
お前等マジ良い度胸してんなー!おねーさんちょっぴり感心しちゃったよー!
つかまだ話の続きだろ!!」
震える指で憤然と男衆を指差す。
しかし三人はそれを完全に無視し、
あーでもないこーでもないと議論をし出す。
唱子はテーブルを叩くと
「よーし!!色々聞いてたケドなー!
ナンパ師の女子高生大好き変態ムラマサ!
キャバ好きクソ野郎ーカルマ!
テメーらが死ぬのはちょっと後だ!
良かったなー!?
だがテメー!!
そこの筋肉ダルマ!お前だよお前!
フローリングちょっとへこましてるお、前、だよ!
へっ?って顔すんな!!殺しちゃうぞ?!
あのな?お前にだけは愛だの恋だの言われたくないんだよ!」
美しい瞳の瞳孔は全開だ。
虎南はふざけたように白目を向き
「?、オレ、イガイトモテル、ジュクジョトカ」
機械的に話す。
唱子「テメ何で急に片言になってんだ!
しかもちょっとラップにすんな!
スゲームカつく!」
美しい顔が朱に染まる。
ムラマサ「いやいや姐さん、ホントなんスよ!
意外というか、マッチョキャラ謎に需要高いッスよ!?」
なぜか涙ぐんでいる銀髪の美男。
虎南が唱子を見下すようにチラリと見、盛大に鼻息を漏らす。
唱子はテーブルを叩くや立ち上がり
「よーし!そこまで言うなら聞いてやるよ!
あたしが愛音に聞いて愛音が答えたタイプは?!
更に追加入力で、あたしが好きなタイプは?!」
仁王立ちで虎南を指差し喚いた。
虎南はまたもや白目を剥くと
「オコタエシマース、
イチバンメ、オトーチャン、
ニバンメ、キョージサーン。
イジョウ、シュツリョクヲオ ワリマース」
白目を閉じた。
唱子「え?」キョトンとする唱子
「何で……分かったんだい?
えすぱーきた!えすぱーきたよこれ!!
見かけバリバリバーバリアンのファイターだけど、中の人えすぱーだよコイツ!
キモいしムカつくけど、えすぱーにゃ敵わねーよ!」
動揺のあまり焦点の合わない目でくわえたタバコを落とす。
ムラマサはガリガリの肩をすくめ
「いや姐さん……つか当たり前っしょ?
流石にこんだけ付き合い長いと皆分かってますよ、姐さんの鏡二さん狂い……」
やれやれ顔の痩せ過ぎ美男。
傍らのカルマも頷く。
唱子は後ろ髪を撫で下ろし
「コホン。ん、な、なんだいもう……あーえーっと」
なぜか少し嬉しそうだ。
ムラマサ「おっ?姐さん照れてんスか?
姐さんの色恋、鏡二さんからタイムストップにも程があ、
ジブリ?
あ痛!どくばりはきゅうしょをついた?!」
膝を抱え天井に叫んだ。
唱子「うるせーバカ!それよりカルマ!
あんた!かなり自信あり気な感じだったけど、女子中学生は一般的にどんなのが好きだって?」
ふざけるとヤバそうだ。
しかし落ち着き払ったカルマ
「うん、ま、解説にいきましょ……。
うん、先ずね?
一般的だけど、色んな意味で精神的にもアレ的にも未発達な中学生は、
あまりにも男性!という主張が強いモノはまだ受け止め難いんだ。
だから飽くまでも中性的なものが基本となるんだよ。
いや、あえて誤解を恐れず言うなら、
中性的よりは少しだけ少女よりだね。
このさじ加減が凄く難しい。
断じて同性愛ではない、しかし微妙に女性より、
これは間違いない。
大体同性の先輩に甘酸っぱく憧れたりする事が多いのもその証拠だ。
ショーコサンもあったじゃない色々。」
渋いウインクで同意を求めた。
唱子「……あんた、話の導入部だけはいつもウマいねー、
参考の為に聞いておこうじゃないか。
ん、具体例に続けてよし!」
目を細め盃を空にした。
カルマ「ウィ。先ず体毛は薄く、出来ればない方が良い。
次に顔より大事な体格……」
眼鏡が光ったように見えた。
ここでムラマサの鼓動がワンテンポ上がった。
そして視線はトップビルダーの減量期、しかも大会直前の惚れ惚れするほどのカットが入った体脂肪率一桁の虎南のボディー、
次いで顔を見た。
あ、コイツ死ねば良いのに……。
以前渋谷で嫌がる虎南を連れ、二人でナンパしたときだ。
超美人OL2人に声を掛けた自分は
『ガリ、キモい』
と言われ、まさか負けるはずがないと引き立て役で連れてきた虎南の方がモテた、というトラウマを思い出していた。
たまたまさ、タマタマ、あのOLどもの好みが狂ってる!!
と爪を血が出る程噛み、新しい能力が発動したとかしないとか……
いやしなかったが。
虎南は静かに自分の大胸筋に触れ発表を待つ。
唱子「きんもーコイツら」
そしてカルマが何かの大会の優勝チームを発表するように重々しく語る。
「ガリガリだ。」
ヒャッハー!!
ムラマサは思わず歓喜の叫びを上げた。
崩れながらも手を床に着く虎南
「審査委員長!理由を!なぜにガリガリですか?!
色んなメディアでは、それはそれは狂ったように細マッチョ細マッチョと……」
ダンディ紳士を怨めしそうに見上げる。
カルマ「うむ、納得がいかないようだね。
でも俺言ったよね?
中性的ということは、スラッとした少女のようなボディラインが大切だ。
マッシブな筋肉はまだ女子中学生にとっては……色んなモノを裂かれそうで怖いんだ。
後キミ、細マッチョじゃないから。
語感だけおしいかな、ミノタウロス」
眼鏡の真ん中を押し上げた。
虎南「くおっ!!」
撃沈した。
ムラマサは完全に調子を取り戻したようだ。
しかしこの男、意外にも勝って兜の緒を絞めるタイプだった。
ムラマサ「フフフ審査委員長、これに更に高身長が付いたらどうなりますかな?」
文字通り175㎝の虎南を見下ろすムラマサ185㎝……
虎南は顔面蒼白だ。
果たしてカルマの微笑は何を意味するのか?
「ムラマサ君、蛇足って言葉知ってる?」
ムラマサ「ま、まさか?!」
カルマ「しつこいようだが中性的、かつ少女よりと言っただろ?
ここまで立派に闘ったのに……
残念だよムラマサクン。
低身長なんだ……」
バシーン!
ムラマサ「あぐばはぁっ!な、なぜ?
こ、高身長は常にモテ要素で、は?」
倒れながら聞いた。
カルマ「あまいよムラマサクン、中学生が好きな漫画の人気キャラを思い出せ。
チビのクールでニヒルなキャラに圧倒的人気があるだろう、まぁ具体例は避けるが……」
ムラマサは最後の自我を集め言葉を放つ
「い、委員長……で、ではガリガリ高身長とは女子中学生にとっては?
カッコ良くないと?」
最後の廊下を歩き終えた死刑囚に、馴染みの看守が見せる最期の笑顔でカルマは話す
「古来よりそれは……」
ムラマサは不思議と安らぎ、落ち着きさえ感じていた
「それは?」
カルマ「かまきり、と。」
グバハァー!!
ムラマサ「酷いケドありがとう、委員長…………」
カルマ「いいんだ、もう疲れただろう……
後俺委員長じゃないから。
という感じでねショーコサ、ン?」
男三人は唱子が居ないことにやっと気付いた。
安アパート、部屋は少ない。
直ぐに隣の部屋で格闘ゲームをしている唱子を見付けた。
唱子「あーやっと終わったかい変態ヤローども」
どーでも良さそうに見上げた。
ムラマサ「酷いじゃないスか姐さん!俺たち一生懸命……」
唱子「イヤさー、キモいし途中から全然主旨変わってきてたし、
つっこむのも面倒だったから。
大体お前らが女子中学生に好かれてどうすんだよ」
男三人『あ……。』
唱子「しかし困ったねー完全に打つ手なしだよ。
ギターしかやらせなかったからなー。男なんかに興味持たないだろなぁ」
紫煙に目を細める。
その時、玄関の鍵の音がした。
愛音「ただいまー、あれー?お靴がいっぱい。
あのねー、えーと、そー!
ボーイフレンド連れて来たー」
なっ何ィイイイ!?
「二人来たよー」
何だとおー!!!