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ヘビメタっていうな!  作者: 有角弾正
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4 中学校編

      4 中学校編



午前11時45分


一通り準備が終わり玄関を出ようとした愛音。



唱子「ちょっとあんた!籠手(こて)は!?」


奥から母親の喚く声がする。


愛音「うん、ちゃんと持ってるー!」


唱子「持ってるじゃなくて!直ぐに装備するんだよ!何度目だい!」


美しい年増の声は、先程より確実に怒気を孕んでいた。


唱子「学校で偉そうなやつ(担任)から何か言われたり渡されたら、忘れずに一応あたしにみせるんだよ?

国家権力は面倒だからねー!」



愛音「うん分かったー!行ってきまーす!」


慌てて玄関から飛び出す愛音。



腕にはメタル製の、一見サイボーグか?と思わせるようなメカニカルなデザインのグローブが装着されていた。


カルマ作成のメタルグローブである。


唱子の指示でギタリストの命である手指を、外出時のどんな不慮の事故からもガードする為だ。


特殊な機能は特にない、サイボーグっぽいのは只のカルマの趣味だ。





学校に着くと丁度昼休みだった。


自分の教室に向かおうと階段に足を掛けたとき


「止まれ!校内では勝手に、我々の様に手袋の類いを着用することは止めるよう伝えたはずだが?


銀山愛音!」


鼻上まで黒いフードマスクをした長身のスマートだが、逞しい女生徒から鋭い声を掛けられた。



何の冗談か軍服のごとき制服、腰にはサーベルを下げている。


その後ろ、数人の同じ軍装の女生徒の環の中心にいる美しい少女、

それがこの校内のボス、


那智(なち)ここあだった。


愛音とはまた違う、冷たい美しさ、いわゆる高嶺の花といった美しさがある。


そしてどことなく、古風な日本の和の雰囲気を帯びている。



大手デパートグループの社長令嬢で、まるで陶磁器のように白く美しい肌をしており、

その美貌を生かし、モデルとしても活躍しているようだ。



その為、他校からもファンが押し掛け、少しでもその姿を見ようと、校内に侵入するのを教師達が追っ払い帰らせる、というも見飽きた風景である。



いつも赤い腕章と、バッヂ、黒いフードマスク、革手袋を着けた取り巻きを4、5人は連れ、

タレントは肌の美しさが命、と校舎の中でも黒いレースの日傘を軍装等に差させている。



普段は黒い扇子で口元を隠し、自ら話すことはなく、何か意思表示がある時は親衛隊に耳打ちし、その親衛隊が代わりに話す。



珍しく登校して来た愛音のことも、

最近見掛けなかった近所の野良猫をロールスロイスのソファーから久しぶりに見た、そんな程度の印象しか持っていない。



ただ愛音がいつも変なグローブをはめているので、親衛隊は幾度か注意した事がある。



愛音「久しぶりー那智さーん。また痩せたー?」


愛音の方でも特に嫌いでも好きでもない。ただ同じクラス、というだけだ。


またここあは愛音が憧れるギャルとも掛け離れているので、特にあやかりたいとも思っていない。



素っ気なくすれ違おうとする愛音。



ここあが最初と違う、三つ編みの美しい親衛隊員に素早く耳打ちする。


こっちもサーベルを腰に下げている。



三つ編み親衛隊員

「銀山、ちょっと待て。お前ほとんど学校に来ないが、学校が嫌いなのか?


特に芸能活動等している訳でも無さそうだが。


義務教育だから退学とか落第とかはないが、これから高校受験とかどうするつもりだ?

先の事等考えてるのか?」


クラスメイトなら当然気になる事を矢継ぎ早に愛音にぶつける。



愛音「あーそーだねー、あんまり来てないよね。


皆はやっぱり毎日来てるの?真面目だねー、


学校は嫌いじゃないよ、友達と会えないのは寂しいかなー。


あー、でもこういうの小学校、あっ幼稚園からか、ずっとだからなれちゃってるかもー、だねー。」


のんびりと話す。



ここあ、また耳打ち。


三つ編み

「真面目?ずいぶんと余裕だな、では塾とかに通っているのか?」



愛音「ジュクってなあにー?」


無邪気に返す。



親衛隊「は?塾とは塾だ!学校以外で勉強してるのかって事だ!

お前さっきからちょっとふざけてないか?」


腰のサーベルに手が伸びる。



以前からここあ組は愛音を良く思っていない。


愛音は確かに学校にはほとんど来ない。


しかし人を惹き付ける天性の明るさ、嫌味のない性格、

同い年とは思えないほど色んな事を知らない、


でもそれを気にする風もなく、周りから提供される新しい知識に素直に喜ぶ可愛らしさ。


加えて、まぁ美少女に入る外見も相まって、男子女子に分け隔てなく人気があるのだ。



ここあ組が気に入らないのは、

ここあ組に入る事はこの学校では非常に名誉、ステータスとなっており、

入隊には厳しい審査、試験があり、学校のイベントは必ず中心となって全てを仕切る。



また、どうやら隊員は決して少なくない、お小遣い、と呼ばれる物もここあから貰えるらしい。


なんとここあは教師、校長もこの『お小遣い』で手懐けている。



長くなったが、そのここあ組に対して愛音はあまり畏怖の念を感じていない気がする、

つまりは他の生徒、教員にならってもっとペコペコしろというのだ。



また耳打ち。



サーベルを腰に下げた逞しい親衛隊がうなずき

「先ず、ここあさんに先程挨拶する気がなかっただろ?


私が声を掛けねば危うくそのまますれ違うとこだった」


腕組みし、高みから見下ろしながら話す。



愛音「あー、とりあえず教室にカバン置きに行こうと思ってたんだよー、


それと那智さんはチラッと見えたけどー、同じクラスだし後でいっかなーって、

ゴメンねー?」


飽くまで朗らかに、そして悪気なく答えた。



親衛隊「気安く話し掛けるな!大体お前のカバンはここあさんへの挨拶を後回しにする程重いのか?!


貸せ!


         ん?



……弁当しか入ってないではないか?!


教科書の類いはどうした!?」


小柄な美少女から素早く奪った鞄を開け、喚いた。



愛音「あー返してよー。うん、教科書はお母さんが持って行かなくて良いって……


スケバンかよ?!」


妙な構えをする。



ここあ、怪訝な顔で耳打ち。



親衛隊「教科書が要らん?!どういう意味だ?


ちゃんとここあさんに分かるように説明しろ!」


ここあが後ろで何度も頷く。



愛音「えー?だからお母さんがー、学校は勉強する所じゃないってー。」



      ここあ組『?』



愛音「基本は行かなくて良いって言うんだよー、でー仕方なく行かないとって日はー、せめて栄養とってよく寝てろってー……


ふーん、皆は何しに来てるの?」


後半は人指し指を口に当て、首を傾げた。



親衛隊「ん?お前バカにしているのか?!そんな無茶苦茶な事を言う親が居るか?!」



愛音「あー居るよーうちにー。


えーとね、しょーこせーけん!はいやー!ってやってくる」


短い手足で型を見せる。



親衛隊「…………ここあさん、こいつちょっとアレみたいです、はい……はい。


意味がわからん過ぎるから挨拶の件はいいとのことだ!


次はアレだ!

なぜ何度注意しても不気味なグローブをして来る?

やはり貴様もいわゆるオタク、こすぷれいやーとかいう変態か?!

ならばこの場で粛清する!」


サーベルの鞘鳴りが周りの一般生徒をギョッとさせる。




ここあ組はオタクを毛嫌いしている。


ここあの父親の経営するデパートの一つで、客のキモオタクレーマーにより大損害を受けた事があるからだ。



実際、愛音は知らないが同じクラスの


阿村(アレ的同人誌作成)


痛村(アレ的同人誌所持)


植田(アレ的18禁恋愛ゲーム所持)


の通称校内1のキモオタ三連星、

アイウ組がこのサーベルで血の粛清を受けている。



理由はやはり……著しくキモい……からだろう。


つまりは愛音のグローブもコスプレとかいうものではないか?

まさかアイウ組ゴキブリ一派か?という訳だ。



愛音「あーこれねー、何か手を傷付けたら絶対ダメなんだって、

小さな傷もすっごい怒るんだよー。


家はわたしが生まれる前からお父さん居ないから、わたしの手で

(ライブハウスで超絶ギタープレイ)

稼いでいかないといけないんだー、


でもお父さんの生きてた頃のビデオは大体毎日見るよー、

見ると必ずお母さんもわたしもすっごい

(カリスマギタープレイで)

泣いちゃうけどねー。


あーそーだ、那智さんも見るー?」



親衛隊「あー……やっぱりこいつ何言ってんのかサッパリですね……


って、ここあさん?


アレ?!?!


泣いてるんですか?」



ここあは別の親衛隊から黒いレースのハンカチを受け取り、通訳の長身親衛隊の背中に隠れ、

しばらく震えた後、少し長めに耳打ちする。



親衛隊「えっ?あぁ……はい。


フム、お前がいわゆる手タレント、CM等で商品を持つ手のアップの時使われる、

手の専門のモデル、


そんな仕事もあるんだな、

私は知らなかったが。


流石タレントとして日傘が欠かせないここあさん、貴様の苦労も多少なりと分かるそうだ。


中学生の身で母子家庭を支えているとは思わなかった、

正直すまなんだ……ん、ゴホンゴホン!


まー手袋の件もそういう訳だからもう良いそうだ。

後はこれ(お小遣い)を持って帰れ。

出来ればもっと学校に来いとの事だ、


母親に渡せ……」封筒が渡された。



愛音「えー?なんか何言ってるかよく分からないけど手紙かなー?


ありがとー!お母さんにちゃんと渡すよー!じゃ、また後でねー!」


小さなグローブの手を、和風の凄まじい美貌へ振る。



去っていくここあ組。



ここあはまだ逞しい親衛隊の背にもたれていた。




その日の夕方。



愛音「ただいまー!あー面白かったー!


あーお母さーん、これー!」


漆黒の封筒を鞄から出した。



唱子「おーお疲れ。やっぱさ、学校なんて下らなかったろー?


よく眠れたかい?何か変わった事は無かったか、

       い?


    …………。」


       

      カサカサ…………。





なぜか翌日から、毎日学校に行っても良い事になった。

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