お母さん、ホントダメですよ?篇
3 お母さん、ホントダメですよ?篇
朝の11時過ぎ。耳栓をしてアイマスクをした愛音が寝ている。
うなされた場合、舌を噛まないよう、マウスピースもしているようだ。
唱子は隣の部屋でホラー映画をBGVに、新曲の歌詞を書いている。
ほっそりとしたその足の下には、無造作に焼酎の一升瓶が3本転がっている。
美しい年増はタバコの煙に目を細めながら
唱子「そろそろ、かね?」
スマホを手に取る、と同時に鳴り出すスマホ。
「ビンゴ、ハイウゼ!
ハイハイもちもちー、あーはいはい、先公様でちゅねー、毎度ども……
えーはいはい、まー国民の義務ですからねー分かってますます。
あーそれが今日はーウチの子ー、
んー何にすっかな?
あーアレだ、あのーそーそー。
何かウイルスのスンゴイのが脳に行っちまいましてー、
で50℃位熱が出てましてー。
もーかゆいとかマズイとかもー大変でー。
えー素のマジ、略してスマジで、もう脳ミソゆで上がりそっすから、イエ、スマジで
……いや国家権力は勘弁して下さい……ハイ」
どうやら正義感溢れる担任からの電話だったようだ。
唱子は愛音を担任から催促されるまで中学校に登校させていない。
日本語が話せて、読み書きが出来ればそれ以上の勉学はクソ、これが唱子の教育方針?らしい。
とんでもない親である……良識ある大人であるなら到底理解出来ない。
学生時代、唱子の美貌にトチ狂った担任にセクハラされた過去の体験があり、
学校、先生というモノを嫌悪しているのであった。
まぁその後、担任は唱子の正中線三連突き、金的に前蹴り、その他数々の空手技を喰らって
半死半生の所を発見され、病院に搬送されるのだが。
可哀想に、彼は20年経った今も通院中である……。
テストの点、進学、そんな事より、
唱子としては愛音に1日でも早くカリスマギタリストになってもらい、
若くして亡くなった父親、鏡二を越える真のアーティストになって欲しいのだ。
その為、愛音が学校から帰って来ると、栄養満点の手料理を振る舞い、
弁当を持たせ、カルマの工場の横に建てさせた、防音設備の整った練習プレハブへ送るのである。
大体朝の4時位まで帰って来ない。
これをライブのある日を除く、365日休みなく毎日である。
唱子「チッ!全く毎日毎日めんどくせーなー!勉強なんかしなくても死にゃあしねーだろ!
それじゃあ人間性、社会性が発達しませんよ?だと?
大きなお世話だよ!未だにイジメひとつ撲滅させられないくせにさ!
大体いつの時代もテメーらが子供を洗脳して、国家の兵き……おい!愛音!起きな!あー、まーた耳栓してんのかい……」
ほぼ毎日、唱子がノートPCで垂れ流す、コアなホラー動画を愛音は嫌がり、
隣の部屋で耳栓、アイマスクをして寝ているのだ。
唱子は立ち上がり、隣の部屋、愛音のベッドに近付くと、
気配を完全に消し、後ろから小熊のプリントされた掛布団をめくり、音もなく侵入した。
唱子「全力疾走するゾンビに理解のない娘には、ただ仕置き、ある、のみ」
ガッ!
愛音「にゃー!!」
顔面を口にし、叫ぶ愛音
「お母さーん!もーその起こし方止めてって言ってるでしょー!」
アイマスクをとり、赤い顔で喚く。
唱子「あーうるせ、何言ってんだい、あんたが耳栓なんかしてるのが悪いんだよ全く。
大体ちょっと撫でただけだろ。
こぉおおぉ……唱子性拳奥義!愛撫先!
この技を喰らって、立っていたヤツは居ない……寝技、だからな! はいやー!」
ガッ!
愛音「うにゃー!!!」
堪らずベッドから飛び出す。
愛音「それー何の奥義よー!」
ささやかな臀部をガードしながら喚く。
唱子「はぁ、もいーから、早く支度して学校行ってきな。
また国家権力呼ばれたら、このアパートも流石にヤバいからさ……」
つまらなそうに枕を放った。
愛音「えーっ?学校、行って良いのー?」
枕元に寝かせていた小熊の縫いぐるみを抱きしめながら、嬉しそうに母親を見上げた。