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ヘビメタっていうな!  作者: 有角弾正
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恋愛大作戦 暗黒の会議 篇

 2 恋愛大作戦 暗黒の会議 篇



ある春の夜、ここは唱子率いるバンド

『暗黒大陸』のいつも出演しているライブハウスの近くのカフェ(いんふるの)。




この店の地下、一番奥の席の付近はヘビースモーカーでも咳き込むような濃厚なタバコの煙に煙っていた。



「はー、ヤッパダメだったね、今日も……愛音。」


バンドのリーダー、ボーカルの唱子が本日何度目かになる台詞を、紫煙と共に吐いた。



どうやら、いつものライブハウスでライブを終えた後のようだ。



四名席の唱子の隣にはバンドのメンテナンス、機材担当カルマ。


向かいのソファーには背の高いベーシスト(ムラマサ)。


その隣には、コーヒーに必死にプロテインを混ぜるドラムス(虎南)が座っている。



薄暗い店内では、それぞれの細かな表情までは分からない。


ムラマサは、唱子の機嫌を取るように、精一杯の気を遣いつつ


「いや愛音のヤツ、新曲もあったのに、今日もミスはゼロでしたし。

相変わらず、エアコン誰かいじった?寒くね?って程のギターの冴えだったスよ?」


それを最後まで聞かず、

唱子はイライラを隠そうともしないで


「うるせー!お前は黙ってろ!」



どうやらムラマサの発言は、彼女のイライラに拍車をかけただけのようだ。


今度は虎南が、もし岩が声を出したらこんな声だろうな、というような低い声で


「リーダーが言いたいのは、常々言っている、

愛音の音には味というか、深みというか、

人の魂を揺さぶるモノが足りないって事ですよね?」


腕組みし、神妙な顔付きだが、このビルダーはいつもこうだ。



『あーそうだよ』と言う代わりに、紫の溜め息を天井に吐く唱子。



「良い演奏にはテクニックが要る、あったりまえの大前提だ、

それで聴く者の心を震わせることもあるだろーよ。


実際、現時点での愛音のとりまきは全部そうさ。

でもあたしが音楽に求めているモノは違うんだよ。

聴く者の魂を震わせる、人を心底感動させるモノなんだよ。」



唱子を除く全員が、

     

      またこの話か……


と天井のファンに絡まる紫煙を見上げる。



カルマがハリウッド映画の吹き替えでも通じるような渋い声で


「うん、そいつはわかってるよ。


トレーニングは、いつものアレ続けてるんでしょ?」


眼鏡の真ん中を押し上げる。



唱子は「あー勿論、ギターは毎日10時間は必ずね!」


下らないことを聞くな、

とばかりにタバコを灰皿に擦り付ける。



ムラマサ「えー?10時間スか?夕方6時に学校から帰って来たとして、3、え?4時?えっ?

学校の勉強は?試験勉強とかもあんでしょ?!」


驚いたように唱子を見上げると、その勢いでシルバーブロンドの額に刺していたサングラスが、黙っていれば美男な顔に落ちて来た。



唱子「フン、学校の勉強なんかクソの役にも立たねーこたーさせてないよ。


あたしだって一ミリもしなかったけど、世間に出りゃあ自然と、見ての通り、知性と教養が備わるもんさ」


胸を張り、母親としては最悪かつ無茶苦茶な事を言う。



「あれ?なんだい?この妙な間は!?」


片眉を上げ紫煙に目を細める。



カルマ「まぁ知性云々は今は置いといて


……いやブーツ痛い。


このままライブやる度に同じ話をしてても堂々巡りだしさ。

練習はこれ以上ないっ、て程させてる訳じゃない?俺の工場の隣の防音スタジオで。」


親指を立て、外を差す。



唱子「アラ?今さら家賃の請求かい?」


新しいタバコを出し、ムラマサに向けた。



カルマ「いやそうじゃないよ、最後まで聞いて。


ぶっちゃけ今のところ、完全にストレートな幼児虐待の方がかわいく思えるくらいの練習は、


タバコ熱い!


……毎日休まずやらせてる訳でしょ?


ということは、今の練習のままでは、その魂をどーこーは手に入らないってことになるよね?」


チラリと美しい年増を見た。



唱子は細い足を組み変えながら


「だったらどーしろってんだい?

もっと練習時間増やすか?


それかアレか?空手でも習わすか?


いや……はっ!ギター一本持たせて、世界一周バトル旅?!」


タバコの手でカルマを指し、身を乗り出す。



カルマ「いやいや、14歳にそれはダメだよ、普通に考えて。」


目を閉じ、芝居懸かった風に首を横に振る。



唱子「普通普通てねー、お前毎度毎度、普通星人か?!


その普通じゃ手に入らないから、届かないから、困ってんじゃないか!」



カルマ「そーそー、その単純なトレーニング、レッスンの積み重ねだけじゃない、その何かを皆で考えようよ、せっかく4人居るんだしさ」


人差し指を立てた。



唱子は面倒臭そうに髪を掻き上げ


「…………よーし分かった!


全く全っ然期待はしねーけど、ソコ!端から聞いていってみようか。


まずはムラマサ、お前から!」



指差されたムラマサはぎょっとし、直ぐに腕を組み、キッチリ1分考えた。



そして思い出したように


「あー、俺のツレで、いつもは冴えない、疲れ果てたスルメみたいなやつがいるんスけど。

そいつ何故か長目のトイレから帰って来たら、そりゃーもうスーパーなバキバキガイに変身してて、

その時のやつのみなぎるパワー感と、眼の輝きときたらスゲーの何のって……」


       スパカーン!!



金属音、空の灰皿がシルバーブロンドへ舞った。



唱子「バカかテメーは!いやバカだテメーは!


その方法はダ、メ、だ、ろ!

割りと考える時間くれてやったのにそれか!

タコ!!」


憤然と鼻から紫煙。



カルマ「(ふーむ、普段から頭のネジ飛びまくり女だが、一応は親、なんだな。)」



唱子「か、ね、が、掛かるだろ!金が!しかもソレ!激しく体に悪いだろ!


大体、鼻から唐辛子吸い込むとか!


まともじゃないよ!お前も、お前のそのツレも!」


頭を擦る銀髪の美男へ喚いた。



カルマ、ソファーからずれ落ちるのを何とかこらえた

「オイオイ、そっちかよ……」



唱子「よーし次だ次、そこの無駄食いマッシブ野郎、いっちょドーンと行ってみよーか?!


あーちょい待て、アレだ!筋トレ以外な!」


新しいタバコをムラマサに向けながら指示した。



虎南もたっぷり1分考え


「フム…………無い、です……」



      スパンコール!



灰皿がまた舞う。



唱子「よーしテメーは分かってた!むしろこっちがごめん!


じゃ次、テメーだ無駄ダンディ!」


顎で髭面スーツを指す。



カルマは好物の珈琲の薫りを吸い込み


「あー俺だね。実は考えてあるんだよ。

一応、言い出しっぺだからね、

フフフ。


先に言っておくけど、俺のはスゴいよ?フフフ……。」


好物をテーブルに置く。



「先日、メカ作りの修行時代に世話になった師匠から譲って貰った、高性能義手が届いてね。 


こいつを高性能義眼と回路直結すれば、それはそれは凄まじい、人類を遥かに超越した反応速度とパワーで…………。」


      スパンコール!!



唱子「だ、か、ら、あたしは愛音をカリスマギタリストにしたいんだっつってんべ?!

断じて兵器にしたいんじゃねー!

てめイカれてんのか!?


全く毎度毎度ダンディーな面で大ボケかましやがって!


あ、お前アレか?人ん家の娘ロボにしよってか?

おー?!上等だコノ変態ヤロー!!」



      ムラマサ、虎南


     『姐さんロボは古い!』



唱子「うるせー、分かっちゃいたけど、やっぱりロクなアイディア出しやがらねーなー!


もー!何でも良いからさー、ちょい気の利いたグッとこーアレなのねーのか?!」



        ドン!


とテーブルを叩いた。



その時、ムラマサの喋ると台無しの美しい顔と、シルバーブロンドの上の豆電球が輝いた



「じゃ、こーゆーのはどースか?


姐さんがヨーロッパの奥地にある寺院を巡って、密教、秘教の表も裏も学び、

悪魔崇拝の高僧を姐さんの持ち前の色香でアレして、

遂にはグリモワールやゲーティアの真書、禁書を手に入れ、

そいつ等を参考に、ソロモン72柱の悪魔召喚に成功……」



唱子の手は、滑るようにガラスタイプの灰皿が握る……。



ムラマサ「そんでもって、ひょっこり出て来た悪魔と契約するんスよ!


んでー愛音を魔神のごときテクニックを持つ、聴く者の魂を虜にする、悪魔のギタリストにしてくれと。


その代わり、ベタに魂を~、とか来るでしょうから、魂はキツい!勘弁して‼


じゃ代わりに女の子の魂、バストをえぐって根こそぎ持ってきな!と…………」


楽しそうにスラスラと話すが、全員唖然としている。



美しい年増の手が動く。

が、カルマがとっさに唱子のその手を押さえ、虎南がガラスの灰皿を奪う。



虎南「こいつは確かに大バカですが、このエモノ、

上手く、いや悪くするとムラマサがサスペンス劇場になりますから……。」


隣のテーブルに硝子の塊を置く。



      スパンコール!!


      「あ痛っ!」


ブツブツと気味の悪い提案を続けるムラマサが、ようやく黙る。



カルマ「(やれやれ……ムラマサクンはオカルトマニアか……)」



唱子「バカかテメーは!安定のバカさだなおい!ホッとするくらいのバカだよ!


あー安心した~ほっこり、ってしねーよ!


何でも良いっつったけどな!」



ムラマサ「イテテテ……」


唱子「そりゃもうやったんだよ!!」



      一同『!?』



唱子「何で一から十まで知ってんだよ!?でもなー、居ねーんだよ!

この世には悪魔なんか!あームカつく!」


盛大に鼻から紫煙を噴く。



ムラマサ「居ないって……

しかしっスねー、あの愛音のバストの無慈悲なザグリ具合からすっと、契約は確かに発動とされたとしか…………」



虎南「ウム、取るものだけ捕って、こちらには何も叶えないとは、


流石悪魔…………恐ろしい…………」


腕組で、身体の割りに小さな頭を振る。



唱子「訳のワカンネー事ばっか言ってねーでちったぁましなアイディアでも考えろよ!」


二人の頭を叩く(はたく)。



その時、髪を掻き上げながら眼鏡を外し、

目頭をグリっと押さえる、ダンディーな髭面が


「まー冗談はこの辺にしといてさ、実は簡単なのがあるんだよ。


と言うより、ミナサンもホントは分かってるんでしょ?」



      一同「ん?」



唱子「なにさ、勿体ぶるんじゃないよ!」


カルマ「あー、どうしても言わせる気だね。

まぁ良いよ…………。


えーっと、アイネクンに足りないのはね、そう。


人を愛する事、チープな言い方だと、恋。だね……。」


手の珈琲を揺らす。



一同5秒停止、そして爆発した。



唱子「ぎゃはははは!あんたマジメな顔で何言ってんだい!?はーはー、ひーひー!


聞いてるこっちが恥ずかしくなっちまうよ!頭おかしくなっちまったかい?」


腹を抱えソファーに仰け反る。



銀髪も筋肉の要塞もソファーを鳴らす。


おや?という顔のカルマ


「イヤイヤ、至ってマトモだよ俺は。


だってさ、生まれて一度も会った事のない、天才カリスマギタリストの父親をひたすらに目指す特訓の日々!


それよりは、愛する人に喜んで欲しい!聴かせたい!

私の中から溢れ出す、熱い、この想いを、って方がなんぼか魂にどーのこーのに近いと思うがね。」


眼鏡の真ん中を押し上げる。



唱子「ふーん…………ってあれ?少しまともに聞こえるねー。」


キョトンとし、笑い涙を拭う美しい年増。



ムラマサ「確かに、1人の力より、ヒロインや仲間を救いたい!


自分を高めたいっていうより、仲間の為に!って方が強くなるのがロープレの定石ッスよね。」


何度も頷く29歳。



虎南「ウム、毎日毎日、限界筋トレでは筋肉が肥大しないのと同じか。


マッサージの日、ある程度の糖質の摂取が超回復をもたらし、より大きな筋肉へと…………」


納得した脳筋28歳。



カルマ「うん、どうやら皆さんも分かってくれたようだね。」


満足そうに目を細めるダンディ紳士37歳。



唱子「んまーやってみるとしてー、肝心の相手はどうすんのさ?」


額に皺を寄せる美しき暴君35歳。



カルマは興味なさそうに


「んー?誰でも何でも良いんじゃない?」


肩をすくめ、両掌を天井に開く。



一同「何、でも?」



カルマ「そー、だってさ。人生初の純愛ってやつをちょっぴり経験させて、

その後直ぐ、分からないように俺たちで引き裂く。


愛、そしてそれを失う事の辛さ!!

このワンセットこそが、恋。じゃない?


このセットが人間としての味というか、深みと言うか、まー魂が磨かれるってことなんじゃないかな?


みなまで言わせないでよ恥ずかしい……


フフフ。」


ウェイトレスに珈琲のお代わりを頼んだ。



唱子のタバコの火が大きくなり、直ぐに小さいものに戻る。


年増美人はゆっくりと煙を吐き出し


「さっきさ、悪魔なんか居ないって言ったけど、やっぱり居たね…………」



カルマ『?』



ムラマサ「カルマさん、酷いっス……」


虎南「ウム、鬼、とも言うな…………」



リハーサルの疲れから、自室でいつものように気絶している間、

密かに自分に悲劇へのシナリオが準備されているとは、もちろん気付かない愛音だった。

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