じゃあソレがあれば満足か?!篇
コレ、全然音楽モノでなくて、異能力バトルモノです。
マジな音楽モノを期待するとスカされます。
何かすみません……。
1 じゃあソレがあれば満足か?!篇
ここは豊島区大塚、ライブハウス 『Cocytus』
入り口、アイドルの缶バッチを、服にも鞄にも鈴なりに着けた高校生
「先ぱーぃ、だからこのライブ、どう面白いんですか?
そろそろ教えて下さいよー!」初めての大塚にキョロキョロしている。
ノリの軽そうな、先輩と呼ばれた高校生は
「あのな、俺が今まで一回でもつまんねーモノ、お前に勧めたことあったか?
あのゲームとか、マンガとか。えー?同志デッカ=パイガスキーよ!」
振り返りもせず、後輩に語る。
高校生「え?そんなロシア人風に言われても……
後、俺そんなセキュリティ得意そーな名前じゃないし。
あー無いです。
正直、全部どハマりのドストライクでした、けど……」
この一見すると頼りない高校生は、ライブと言えばアイドルだと思っている。
先輩「だったら安心しろ!
何度も言うけど、今日のライブはスゲーヤバい。以上!
悪りぃがネタバレは一切しねー。」
ニヤニヤ顔でライブハウスに入る。
首を捻りながら、缶バッチ後輩も続く
(スゲーヤバいって何だ?
コスプレ系?ん?俺と先輩の共通の好物と言えば……
はっ!スンゴイ巨乳の娘がいるとか?
それか1万年に1人位の超美少女?
後は……んと、ダンス?)
にやけながら自分好みの妄想に浸る。
「へへっ、また俺の勲章(缶バッチ)が増えちまうかな?」
こういう時、人は皆、本当に幸せそうな顔をする。
その直後。
爆音が鳴り、ライブハウスの空気が変わる。
最前列のファンらしき者達の絶叫!
それに応じるように、ステージに黒い稲妻が飛び出した。
稲妻は細身の少女である。
黒いヘルメット、黒い甲冑のような衣装でギターを弾きまくる。
それに激しい演奏、アクションで合わせる、同じく黒い鎧のメンバー達。
少し遅れるようにステージ中央に現れた、
戦国武者の鎧兜。
全てを漆黒に染め抜いた、セクシーな女性ボーカルだ。
マイクを握るや圧倒的な歌唱力、声量でライブハウス内の全てを支配する。
ギターの少女はスタイリッシュなアクションで、信じられないような超絶技巧演奏を続けている。
ずいぶんと小柄、そしてかなり若いようだ。
のけぞる缶バッチの高校生。
「のわ!なんだこりゃ?つかうるさっ!
えー……アイドルなのかコレ?
何で仮面?マスクしてんの?
後、全く以て(もって)巨乳じゃない!クソ!騙された!
でも……見ようによってはカッコいいか、も?」
胸元のアイドルの缶バッチを握りしめ、異形の出し物に見入っていた。
少し前、ライブハウス楽屋。
肘と膝にプロテクターの付いた、スポーティーな姿の少年が、ライブハウスのパスをぶら下げ入って来た。
少年「一色酒店です!おっ?!姐さんフルメイク!みんなもフル装備!カッコ良いー!」
背中のプラスチック製、亀の様なリュックから一升瓶を出す。
姐さん、と呼ばれたのは、
闇色の戦国武者姿の年増美女。
薄暗い中タバコを吹かしている。
今夜ワンマンライブを行う、メタルバンド『暗黒大陸』のボーカル、銀山唱子である。
その傍ら、背の高いシルバーブロンドを逆立てた痩身の美男が、一升瓶の焼酎
(第六天魔王)
を受け取り、
馴れた手付きで封を開け、ドクロを模した盃に注いだ。
バンドのベース担当、ムラマサである。
「おーお疲れ、あまた。姐さんのガス、ちょうど切れたとこだ。
ホレ、9999円。」
一万札を少年に渡し、盃を年増美女に渡す。
唱子はそれを受け取り、特に味わう風もなく、サッと空にした。
「あまた。あんたさ、チャック……開いてるよ。」タバコを持った手で少年を差す。
あまた「えっ?!」思わず下を向く。
その隙に唱子は、音もなく少年に迫るや、あまたの頭を掴み、目茶苦茶に撫で回す。
あまた「あっ!もー、またやられた!やめてよー!
姐さん、今日はグローブだから痛いよー!」
台詞とは裏腹に嬉しそうだ。
唱子「アハハ、まだまだだね!
あまた、アイス食べて帰りな。」
グローブの黒い鉤爪で、テーブルの上、カップアイスクリームを指差す。
あまたは「う、うん」と苦い顔。
どうやら酒屋の配達少年は、あまりアイスクリームが好きではないようだ。
一応食べ始める。
唱子は目を細め、満足そうにそれを見ると、武者兜を被った。
禍々しさより、不思議な美しさがある。
やおら立ち上がると。
「お前ら!今夜の合戦(ライブの事らしい)も手ぇ抜くんじゃねーぞ!!
全部壊せ!良いかい?!全部だよ!!」
グローブの漆黒の拳を握る。
ムラマサは西洋の騎士が着るような、プレートメイルを模した衣装を鳴らしながら
「姐さん、久し振りのライブッスねー!
今日は女子高生多いと良ーッスねー!
なんつっても女子高生の数だけ力入りますからね、ヤッパリ。
今夜も女子高生の為だけに頑張るッスよ!
女子高生とかけ、女子高生ととく、その心は?
oh!YES!女子高生!
ムラマサ探偵!何故あの娘は犯人じゃないと言い切れるんですか?
……フフフ、あなた達、ホントーに分からないのですか?彼女ね、
女子、高、生、なんですよ!!
はい名推理来たー!!
はわわ!!
今俺、恐っそろしい事思い付いた!
もーコレ、俺が女子高生になればいんじゃねーの?!
ムラマサ君、もしかしたら天国に行ける方法があるかも知れない……それは女子高生になるこ……
ジュッ?あぢー!!!」
唱子は無言でムラマサの衣装、胴と首の繋ぎ目から吸いかけのタバコを落とした。
唱子「先ず長い!後、お前合戦前に女子高生、女子高生って何回言うんだい。
それから、女子高生好き過ぎて、最終的に女子高生になるっつー発想が訳わかんねーし、キモ過ぎっから。
少年がヒーローに憧れて、あっ俺ヒーローになる!みたいに言うな。」
新しいタバコをムラマサに向ける。
無表情でその先に灯を灯し、
カキン!とライターを閉じる、シルバーブロンドの変態。
その傍ら、腕を組んでいる、ビルダーのような男、ドラム担当の虎南がニコリともせず
「ムウ。相変わらずうるさいヤツだ。
いつでも女子高生、女子高生と……下らん!」
荒い鼻息。
「大体、女は40を過ぎてからが良いのだろうが!!
どんなにダイエットし、手足は細くなろうとも決して取れない、下腹にある浮き輪の様な脂肪リング。
若い娘にはない魅力を持ち、本当はそれに自信がある癖に、こんなオバサンで良いの?とか……」
ゴン!
丈夫な焼酎の瓶が、虎南の頭を強打する。
無言で身体の割りに小さな頭を抱える虎南。
唱子「何が、くだらん、だよ!
お前も大して変わんねーじゃねーか!
変態チャンネルがちょいと違うだけでよー!
どっちかっつーとお前の方が具体性があって追加入力でキモいから。
後、リングの事は見ない、触れないが世の中のアレだから、マジで……
もしコレが何かの作品だったら、こっからもう読まなくなっちゃうからね?熟れたお姉様達……。
つかもーお前等!ホンット合戦に集中しろー!!」
額に妙な汗、激昂する年増美女。
最後に紹介となるのは、
楽屋の一番奥の椅子にちょこんと座っている美少女、銀山愛音
バンドのギター担当だ。
薄暗いライブハウスの楽屋、ちょっと見ると少女なのか少年なのか分からない。
兎に角、小柄なのは間違いない。
かろうじて黒いサイバー風デザインの、女性の水着の様な衣装で少女、と分かる。
カラスの頭の様な形のヘルメットを膝の上に乗せ、俯いている。
唱子「よーし、ようやく着替えが済んだみたいだね。」
ムラマサに新しいタバコの火を着けさせながら、我が子に声を掛ける。
愛音「お母さーん、やっぱりこれ来てステージ出ないとダメなのー?」
膝上のヘルメットで胸元を隠す。
もっとも、隠す程のものはないが。
唱子「ハァ……あんたねー。も、このやりとり何度目だい!
あんたがテクニックばっかでなくて、ちゃんと人の魂を震わせる、本当に人を感動させるギターが弾けるようになりゃあ、衣装でも何でも好きに選ばせてやるって言ってんじゃないさ!
それにあんたのお父さん、何でもメタル風が好きだったって言ったでしょ?
『しょ、唱子、もうお前の顔も見えない……さ、最期に……唱子、お前のお腹の子を身の毛がよだつ程のメタルクレイ●ーにしてやってくれ、
頼んだ、ぞ?うっ!ガクッ』てね!!」
言い終えるや、兜の下で遠い目をする唱子。
ひきつった顔で、隣の筋肉の要塞を見るムラマサ
「(毎度毎度、ひっでー嘘だよなー、鏡二さん特にメタラーじゃなかったし、絶対自分の趣味じゃねーか!)」
虎南も頷き、同じことを思っていた。
愛音「あーそれー、何回も聞いたけどー本当ー?」
訝しげな顔で頬を膨らませ、母親を見上げる美少女。
唱子「当ったり前じゃない!それに良いライブ演りゃ、CDとかグッズが売れるでしょ!
そうすりゃ、あんたの好きな渋谷のギャル服っての?
あの最っ高に趣味の悪いやつ、沢山買えんだよ?
大体、あんたの父さんはライブ前に色々考えたり、悩んだりしなかったね。
いつも一言だけ、コホン!あっあー。
『まー適当に全部ぶっ壊したろーや?後ろは任せたけー着いて来い!』
これだけよ!」
今も憧れの亡き男を思い浮かべ、何度も頷き、うっとりとする年増美女。
ムラマサ、虎南(おっ?今のは、すっげー似てる!!)
愛音「うーん。よく分かんないけどー、何か分かったー。て、どっちだよ?!」
妙な構えをする。
「私ー、渋谷666で買ってもらいたい服あるのー!よーし、それならがんばるぞー!」
小さな右腕を肩からぐるぐる回し、軽やかに禍々しいデザイン、闇色のヘルメットを被った。
唱子「(アレ?この子、今なんつった?あたし割かしモノマネ頑張ったんですけど。
アラ?もしかして鏡二のくだり、全然要らなかった?)」
不満気な顔で、鼻から紫煙を昇らせた。
そして5分後、ステージに飛び出し、
愛音と暗黒大陸は凄まじいライブを最後までやり終えた。
ライブ終了。
観客は口々に、少女ギタリストの超絶テクニックを絶賛している。
ライブハウス隅。
音楽評論家らしき客の小太りの眼鏡男。
大型タブレット端末を震える手で持ちながら。
「信じられん!今まで聴いたどんなギタリスト、プロ、アマとも全ったく違う!
上手いとかどうとかってレベルじゃないぞ、コレは……。
間違いなくギタリストは1人なのに、なぜ少なくとも3人、いや、4人の演奏が聴こえるんだ?
天才?!いや、コレはギターの魔人?コレが神がかるってヤツか?!!!
ふぅー。し、鎮まれ、俺の小宇宙よ……。
んー、強いて、強いてケチを付けるなら。
彼女の音に味?艶?の類いがないことか……。
後、ビジュアル面で言うなら、割りとセクシー系の衣装なのに、肝心のボディーが全く寄せる気のない所、か……」
訳の分からない事を言いながら、財布を後ろポケットから抜き、暗黒大陸のCD・物販コーナーの列へと向かう。
再び楽屋。
激しいステージを終え、汗にまみれたメンバー達。
特に唱子は不満そうな面持ちで。
「ま、25点、位かね?」
と、ソファーにうつ伏せに横たわる、細身の黒い甲冑の少女に、紫煙と、厳し過ぎる採点を吹き掛けた。
傍らのムラマサが、機嫌をとる様に素早く、ドクロを模した盃に唱子のガソリン(第六天魔王)を注ぐ。
唱子「はぁー、この子が鏡二(愛音の亡くなった父親)の才能を1%でも受け継いでいてくれてりゃあねー。
この子は鏡二のテクだけ受け継いでさー。
何で分かんないのかね?いつまでたっても。
出す音に艶ってもんが、深みってものがないんだよ、全く!
難しい、正確な演奏だけなら機械にやらせてりゃいいんだよ……。
んー、やっぱさ、放浪のギター修業旅にでも行かせるかね?
俺より上手い奴に会いに行く、好きにしろ、みたいな。」
イヤイヤ姐さん、そりゃ冗談でも中学生女子には…………ドラムとベースが流石につっこむ、が。
唱子「イヤイヤイヤ!あたしゃ冗談で言ってんじゃないよ!
演歌だろうがロックだろうが、テメエの生きてきた全てを、感情も全部ごちゃ混ぜして、客というキャンバスに叩き付けんのが音楽じゃねーか!
確かにこの子はまだ若いよ!
でも若いなら若いなりに、あたしの地獄トレーニングに対する怒りとか、思春期の甘酸っぱいアレとかもろもろあるじゃねーか!
そういうのを少しでも音に出せって言うんだよ!
今のこいつをもてはやすファンも同じさ!
毎回、毎回、妙な格好で来やがって、
あたしはアイドルを造りたいんじゃないよ!メタルのカリスマを造りたいんだよ!」
唱子の投げたビールの空き缶が愛音の小さな頭に当たる。
しかし疲れ切っているのか、
「あうっ」と小さく言ったきり、美少女は身じろきもしない。
「まぁまぁショーコサン、今日はそれくらいにして。
俺は良く演ってたと思うよ?今日のアイネクン。」
年増美女を逆撫でしないよう気を遣いながら、ダンディーな紳士が言う。
この男はカルマ、暗黒大陸の衣装、楽器製作担当である。
「まぁ新しい楽器と衣装でも見てよ。」
と、バカでかいキャリーケースを奥から出して来た、そして直ぐに開ける。
唱子はそれをジロッと眺め。
「まーたテメーは機械みたいなのばっか作って来やがって‼
だから甲冑は、あちこち光らせなくて良いんだよ!
大体ロボみたいにすんなよ!ロボみたいに!
もっとさ、こー、ドロッとグロっと黒甲冑!みたいな、キモ格好良いのを造れないもんかねー?!
全く!
後、衣装って言うな!甲冑って言えつってんだろ?!」
ダンディーな紳士は、眼鏡の真ん中を右手の中指で押し上げ、怯むことなく。
カルマ「んーまぁ、その辺はさ、いつの時代も、男子はスターのウォーズだから、ね?」
とウインクと訳の分からない返しをする。
ムラマサと虎南も目を輝かせ、特大のキャリーケースをゴソゴソやっている。
年増美女は片眉を上げ、紫煙に目を細めると「うえっ!シャワー浴びたいから、もう帰るよ!」とヒステリックに叫び、楽屋出入り口へ向かう。
「ウィ」
カルマは愛音を担ぎ、唱子に続く。
黒甲冑の美少女が、苦しそうに呟く……
「お、お父さん……見て、くれた?」
ムラマサは悲し気な顔でそれを眺めていたが
「酷ぇ事言うようだがよ、愛音……。
今日の出来ぐれーじゃあ、
鏡二さん!未だ見ないで下さいっ、て……祈っちまうぜ。」
開いた楽屋ドアから、星の夜空を見上げた。
虎南「筋肉と同じだ……直ぐには育たん。
それでも掛けねばな、今日より大きな負荷を、明日も、明後日も、そしてその次も……。」
腕組で天空の月を睨んだ。
ムラマサ「筋肉大将ぉ……お前、本っ当頭ん中ソレばっかなのな?
ま、俺も言えた義理じゃねーか……。
さ、姐さんのアパートで合戦後の宴だぜ。行こう!」
ベースを肩に掛け、唱子等に続く。
虎南「ウム、分かっている、女子高生大将。」
月光が筋肉に陰影を付け、凄まじい物に見せた。
ムラマサ「んあ?
んー大将じゃねーな、なんつーか語感が違う。
うーん……うん!王だな、ソコは。」
筋肉の要塞を振り返った。
虎南「ん?何か言ったか?」
ジャケットを羽織るビルダー。
ムラマサ「コイツ……もう良い!
遅いと姐さんウルセーぜ!」
虎南「ウム。」
二人は闇夜に駆け出した。