ダンジョンの奥へ
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↑に登場人物の設定などがあります。
キャロリン達はテントを張って、キャンプを開始した。
食事をとり見張りの順番を決め、見張りのセイネとアレナム以外がテントに入ろうとしていると冒険者の1人がテントに近づいてきた。
キャロリン達は妙な下心を持った者かと思い武器を手にする、だが近づいて来たのはセリオだった。
セリオはキャロリン達が武器を持っているのに気がつくと、両手を上げて敵意は無いと示してくる。
そして口に手をやり人差し指をかざす、騒がない様に言っているようだ、そして近くまで来るとキャロリン達に頼みが有ると言ってきた。
「すまないな、どうしても嬢ちゃん達に頼みが出来ちまってな……」
テントの側で結界石を置いて、音が漏れないようにしてからセリオが喋り始める。
そして真摯な態度で謝り頼みが有ると言ってきた、その姿に重要な話だと感じたキャロリン達も武器を納めて向き合う、そしてセリオの言葉に驚きながら聞き返すのだった。
「アッシャーさんを見張ってて欲しい!?」
「ああ、言い方は悪いがそう言う事だ」
「……あなた、アッシャーさんをアニキと言って慕ってませんでしかた?」
「ああ、アニキには世話になりっぱなしだ、それこそ嬢ちゃん達の歳の頃には冒険者としてのイロハを教えてもらったもんだ……その恩も忘れられねえ」
そう言うセリオを見ながらリティアが聞く。
「ならなんで見張っててくれだなんて……」
「勘違いさせちまったか?
取り合えずこれを見てくれ」
セリオがそう言って取り出したのは、アッシャーがセリオに渡した小袋だった。
それを見たキャロリンが金貨が10枚位入っていたはずと言ったが、セリオは首を振りながら中を出して見せる、金貨が12枚入っていたがそれ以外の物も入っていた。
「これって……ムーンストーンですか?」
「なかなかの物ですわね?」
「綺麗……ん?これってもしかして!?」
「ああ、袋に金貨と一緒に入っていたよ……おりゃ、これを見て、アニキは死ぬ気なんじゃないかと気が気でなくてな……」
「な!じゃ、じゃあセリオさんが見張っててくれって言うのは?」
「アニキが無茶をしないように、見張ってて欲しいんだ……」
そう言ってセリオが語ったのはアッシャーの過去だった、それは20数年前の事でセリオはEランクに上がったばかりで、アッシャーはCランクの期待若手と言われていた頃の話だった。
「アニキ!今日も2人でですか?熱いすね!」
「バカ野郎!俺だってあんなのと痛え!?」
「あんなって誰の事よ?」
「エ、エマ!?」
「ありゃま!姉さんに聞かれちまたっすね!」
「セ、セリオ!てめえのせいだろぅが!」
「わわ!?ア、アニキ勘弁してくれ!」
「こら!待ちなさいよ!」
アッシャーがセリオを、エマがアッシャーを追いかけていき、その後ろをセリオの幼なじみのチェレステがため息をつきつつ追っていく、その光景を見ていた冒険者達が笑いながら言う。
「またあいつ等がおっ始めたぜ!」
「本当に仲の良い奴等だな!」
「だけどよ、アッシャーとセリオの2人は将来は絶対に……女房の尻に敷かれるよな!」
「ちげえねぇ!」
「「「ハハハ!」」」
冒険者ギルドに冒険者達の笑い声が響く、職員達も笑っていた。
それは4人をバカにしたものではなく、信頼出来る仲間、気の良い仲間に対する信頼と友情から来るものだった。
だが、そんな明るいギルドに1人の男が飛び込んできて雰囲気が一変する。
「た、大変だ!」
「ん?おめえ確か鉄腕の所の……アーベルじゃねえか!
お、お前、腕をどうしたんだ!?」
その飛び込んできた男は右腕が付け根から無くなっていた、だがその男はその事を気にせず叫ぶ。
「フェルデーモンが……フェルデーモンが出やがった!」
「「「!!!」」」
フェルデーモン、上位の魔人でその氷のブレスを食らうと、身体だけでなく魂まで凍らされると恐れられている魔人だった。
昔から学園都市の近くの山脈に住み着いていると言われており、数十年に1度現れては村や小さな町を凍らして滅ぼす、恐ろしい魔人。
そしてこの男はAランクの冒険者PTである、鉄腕に所属する冒険者だったのだが……
「鉄腕のアニキがおめえはギルドや学園に知らせろって、俺を庇って……ちくしょう!俺だけ逃げ出して!」
「……大したもんだ、おめえの判断は間違ってねえよ。
お前ら、ギルド長や賢者の学園のクリスティーナ様に知らせろ!
今度こそあの悪魔をぶっ殺してやる!」
「「「おおう!」」」
別のAランクの冒険者がそう言って声を張り上げる、ギルドの冒険者達がそれに反応して歓声を上げた!
こうしてフェルデーモンを討伐するために、冒険者ギルドのCランク以上の者達と学園都市の兵士達、クリスティーナ達が結集して出陣したのだ。
「その時に俺はEランクで、後方支援しか許されなかったよ……アニキと姉さんは志願して最前線に出てな……」
「……フェルデーモンは?」
「クリスティーナ様が弱らせて、そこにアニキ達と深緑の鐘達、当時は違う名前だったな……何にしろ精鋭達が突っ込んで見事に討伐したんだ、だがあの野郎最後の最後にな……!」
フェルデーモンは最後の最後で広範囲にブレスを放った、近くにある200人が住む小さな村を狙って。
そこはアッシャーとエマの故郷だった、アッシャーとエマは幼なじみだった訳ではないのだが、昔からの顔見知りなのでよく組んで依頼をこなしていたとセリオが言う。
何にしろアッシャーとエマは故郷を守るために盾となった、その結果村のほとんどの者が助かったがエマと抵抗力の低い子供達に数十人の村人が凍らされてしまったそうだ。
「アッシャーのアニキも半身が凍らされてな、助かったのはクリスティーナ様と司祭達が尽力してくれてたんだ、奇跡だと言われたよ」
「そんな事があったのですわね……」
「それでエマ様と子供達が犠牲に……」
ナタリーがそう言うと、セリオは顔をクシャクシャにして言った。
「違うんだ……違うんだよ!」
「セ、セリオさん?」
「正確には……エマの姉さんと子供達は死んでねえんだ……!」
泣きながら語ったセリオの説明に、キャロリン達も頬を濡らす。
子供達とエマは完全には凍っておらず、ゆっくりと凍っていっていると言うのだ。
クリスティーナ達や司祭達も必死に尽力したが凍るのを遅らせる事しか出来なかったのだ、そして残った家族や仲間が諦めたり歳で死んでいくなか、諦めずに助ける方法を探っていたのがアッシャーだそうだ。
「アニキはBランクだ、しかも優秀な、な……そんなアニキがなんであんなに貧乏だと思う?
普通だったらもっと豪勢に暮らせてると、思わないか?」
そう言われてキャロリン達は思い出す、老後をなんとか暮らす蓄えがあると言うアッシャーの言葉を、Bランクで真面目なアッシャーならもっと残せてるはずなのにと。
「教会の地下にな、姉さんと村の子供達がまだ居るんだ、アニキが必死に稼いだ金で凍るのを遅らせてな……綺麗なもんだよ、とても死にいく者とは思えない位な……」
セリオは泣きながら言った。
「女房が言ったよ、子供が病気になったのは、エマの姉さんを忘れて自分だけ結婚した罰だってな、幸せになったからだってな……!
アッシャーのアニキはそれを聞いてカンカンに怒ってくれてな、それでよく食い物や金を援助してくれて……」
「アッシャーさん……」
「ううう……」
キャロリン達も完全に泣いていた、そんなキャロリン達にセリオが続ける。
「それで、アニキが冒険者を引退するって聞いてな、心配になってエマの姉さんを見に行ったんだが……
もう持たないそうなんだ……
アニキは、墓を守って余生を送るつもりだと、言ったんだが……」
「そ、そんな……」
「そんな人生悲しすぎますわ!」
そしてセリオはムーンストーンを再度取り出して言った。
「この石、間違いねえ、アニキがこのダンジョンで手に入れた物だ。
売らずにエマの姉さんにプレゼントするって言ってな……エマの姉さんの誕生石だからってよ、プロポーズするんだってよ、ちくしょうめ!」
セリオはムーンストーンを握ったまま、ダンジョンの固い床を殴りつけるのだった。
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