ダンジョンに潜る
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↑に登場人物の設定などがあります。
「ここが下に下るための穴だ、階段になってるのは先人達が整備したからだな」
「周りは一見すると、ただの穴にしか見えませんね?」
「ここは平原の7号ダンジョンと一緒で、自然に見せかけたダンジョンだからな、ただ10層を越えるとダンジョンらしいダンジョンになるんだけどな」
「確かこのタイプのダンジョンは多いはずだったよね?」
「何でだっけ?」
「あなた達はドライト様のダンジョン攻略本を見てないのですか……?」
アレナムとセイネの言葉にリティアが目眩がする思いで聞くが、アレナムが嫌そうに言う。
「リティアが言ってるのって【ヤンバルクイナにも出来るダンジョン攻略方法】でしょ?
あんなの真面目に読んでるのはキャロにナタリー、それにあんただけよ?」
「最初の1ページ目が軽く力を込めて殴れば、楽にダンジョンを倒せる。だったもんね……」
セイネもあきれた感じで言うが、リティアは反論して言う。
「学園長にマサミ様も読むように仰ってたじゃないですか、と言うか最初の方は読まなくても良いですが、後半のダンジョンの種類とタイプは読むように言いませんでしたか、私は?」
リティアの言葉にあさっての方向を見て誤魔化す2人、それを見てリティアはため息をつきながら説明するのだった。
「まだ、弱い頃のダンジョンの名残ねぇ……」
「気づかれずにもっと育つと、最初の階でも人工物っぽくなるのか……」
リティアが【ヤンバルクイナにも出来るダンジョン攻略方法】の中身を簡単に説明すると、アレナムとセイネは納得したような納得できないような感じで反応する。
そのリティアの言うにはこうだった。
ダンジョンは生まれたての頃は恐ろしく弱い、なので自然の洞窟を装うのだが、育っていき階層が増えると防衛のしやすい人工物の様な空間や、だだっ広い砂漠地帯に火山地帯などの階層が生まれるのだそうだ。
そして、大体は30階層より深い辺りから人工物が、90階層より深いダンジョンから地帯系の階層が生まれると攻略本に載ってるらしいのだが、その際に自然の洞窟風の階層は奥の方から人工物風のダンジョンに変わっていくとの事だった。
「それで大体は10階が変わるか変わらないかでバレる……ってなんで?」
「一部のモンスターが勝手に行動して、沸きだしちゃうからですわ」
「あんまり人里から離れてるのも、育たないんだっけ?」
「ええ、その場合は強力な野良モンスターとかに占領されてしまうそうですわ」
「「「へー」」」
リティアの解説にアレナムとセイネとレイナが感心していたが、アッシャーや宿星の絆の面々は舌を巻いていた。
「す、凄いな、銀龍ドライトの【ヤンバルクイナにも出来るダンジョン攻略方法】か……名前の意味はよく解らんが、噂通りダンジョンの深淵の知識が詰まっているようだな」
「アッシャーさん達も読んでみますか?」
「良いのか?」
「学園や冒険者ギルドに有る写本なら見たことがあるが、原本を読めるなんてありがたいな」
アッシャーだけでなく、パトリック達もリティアの側に来ると攻略本を読み始める。
「ちょっとちょっと、こんなところで読み始めないでよ」
「そうだった、ここはダンジョンだったな」
「悪い悪い、リティア嬢あとで見せて……アッシャーさん?」
パトリック達はリティアの側から離れたが、アッシャーだけがリティアの持つ攻略本を食い入る様に見つめていた。
「あ、あのアッシャーさん、興味が有るならお貸ししますが……?」
その鬼気迫る雰囲気にリティアは身を引きながら攻略本を渡そうとする。
「……いや、ありがとう、大丈夫だ、ちょっと気になる部分があっただけだよ」
そう言ってアッシャーは攻略本から手を離す、その表情は普段のアッシャーに戻っていたのだった。
「ははは!嬢ちゃん達は真面目すぎるな!あそこは値下げ交渉するのが基本だぞ?
それにちゃんと欲しい物を言わないと、ダメだぞ?良い物は裏に隠してあるからな」
キャロリン達はアッサリと10層まで来ていた、流石に学園都市で期待の冒険者と言われる宿星の絆とベテランのアッシャーが居たので半日ほどで着いたのだ。
「ここ、深緑のダンジョンの別名は試しのダンジョンって言ってな?実力的に初心者を抜ける、Eランクになった若手に向いてるダンジョンなんで若手が多いんだ。
それでその若手を試すんだよ、ギルドがな!」
「ギルドがですか!?」
「ああ、入った所に在った施設は全てが冒険者ギルドや商人ギルドなんかが共同で維持してるんだ、それで入って来た若手に値段を吹っ掛けたりして値引き交渉できるか試すんだよ」
「つ、つまり私達は……」
「騙されたって事だ!」
「こ、攻略本にそんなこと書いてなかったですわ!?」
「そりゃ、ドライト様がワザと書かなかったんだろ?
自力で調べるのも冒険者の基本だからな」
アッシャーに言われてキャロリン達は唖然としてしまった、それを宿星の絆の面々は面白そうに見ていたが魔法使いのメイナードが言ってきた。
「実はな?俺達も最初にここに潜った時に騙されたんだよ、どうしてもボスモンスターを倒すのに必要な武器が有ってな、全財産はたいてパトリックの分だけを用意して、20層のボスを倒して帰って来たら鍛冶屋のおっさんがギルドの職員達と待ち構えて居てな、怒られたもんだ。
無茶するな!ってな」
「そ、そうなんですか?」
「パトリック達もなんだが、大抵実力のある若手は騙される。
腕に自信があったり、知識が有れば有るほどな?リティア嬢ちゃん、ポーション屋の店主の顔をよーく思い出してみな?」
「……?……あ!あの方は学園都市の魔道具屋さんの息子さんですわ!」
「そう言うこった、後継ぎの勉強と経験を積ませるためにここに来させるのさ」
アッシャーは笑いながらキャンプの準備を進めていく、ここ10層からはダンジョンは自然の洞窟ではなく整備された通路や部屋がある様になっていた、そして階段の側にいくつか有る大部屋に冒険者達がそれぞれキャンプを張っているのだった。
「ううう……完全に騙されましたわ……」
「何にしろここからは切り替えていかないとだからな?
深緑のダンジョンは10層からが本番って言われているからな」
アッシャーがそう言ってキャンプの準備をするように促すと、キャロリン達もテントを張り始める、そこに近くでキャンプをしていた30半ば過ぎの冒険者がやって来た。
「アニキ、お久しぶりで、アニキは宿星のと臨時ですかい?」
「ん?セリオじゃねぇか、最近見ないと思ったらお前もここに潜ってたのか?」
「ええ、ここは魔鉄も採れますからね、良い稼ぎになるんっすよ。
それでそっちの子らが龍の踊り手ですよね?」
「ああ、入り口で会ってな、合同で潜るんだよ」
「そうですかい……おーい、あんた等に用があるんだ、ちと来てくれ!」
「どうかしたのか?」
セリオと呼ばれた冒険者はキャロリン達を呼ぶ、アッシャーやパトリック達も不思議に思い集合するとセリオが何があったかを説明してくれた。
「シリカ様達が最深部に向かったのですか!?」
「ああ、他にも何人か居たようだが凄まじかったぜ?雑魚モンスターが近づいただけで消滅してたからな……」
どうやらエルナルナ達もついて来たようで、お喋りしながらワイワイと奥に向かったそうなのだ、その時にこの辺りに出るオークナイトが湧いて出て、シリカ達に突進したそうなのだが近づいただけで煙の様に消滅したとの事だった。
「それでな?おりゃ前にサルファの姉さんに世話になってな?子供の病気を治してもらったんだよ、その礼もしないとなんで挨拶したら、事付けを頼むって言われてな?待ってたんだよ」
「サルファ様がですか!?」
サルファの名前が出てリティアが慌てて前に出る。
「ああ、最深部で待ってるから慌てずにゆっくり来なさいとの事だ、あとついでにこいつを預かったぜ?」
そう言って渡してきたのはイエローサファイヤがはめ込まれた魔鉄でできた指輪だった。
「この魔鉄をギルドで売ろうとしてたらサルファ姉さんに是非に売ってくれって言われてな、お返しに子供の治療薬だってエリクサーをよこしてな?
魔鉄とじゃ割に合わないって断ったんだけど、旦那様からパクった物だから良いって言われてな?」
そう言って、セリオは苦笑いしながら指輪を渡してきた。
「セリオ、お前、子供の病気が治ったのになんでこんな所に居るんだ?」
アッシャーがセリオにそう言うと、セリオは貯金をして小さな家を買うために魔鉄堀に来ていると言ってきた、子供の病気は死に至る病気だがポーションで進行を止められるために今までの稼ぎは全てポーション代に消えたのだそうだ。
だが病気が治ったので貯金が出来る様になり、安アパートに女房と子供を置いて仲間達と魔鉄を掘っていると言う、アッシャーはそれを眩しそうに見つめながら小袋を出してセリオに投げる。
「快気祝いだ、とっとけ」
「へ……ア、アニキ、こんなにいけやせんぜ!?」
小袋の中を確認したセリオが慌てて返そうとする、キャロリンもチラッと見たが金貨が10枚ほど入っているようだった。
学園都市の外縁部の小さな家なら金貨100枚あれば買える、その10分の1を与えられたのでセリオは受け取れないと返そうとする、だがアッシャーは頑として受け取らなかった。
「これでもBランクなんだからな?その程度ならまた稼げるさ」
そう言ってセリオに笑いかけるアッシャーだったが、その笑顔は何故か寂しそうにキャロリン達には見えたのだった。
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