7日目・合流
賢者の学園が拠点にしている公園に着くと、そこにはすでに俺達の学校、城ノ内高校の面々もチラホラ居た。
「結構居るな?」
「先に連絡していたからな、近くに居たのもいたのが来たんだろ?」
「あ、ヒロ先生、アイラ先生達があそこに!」
ネイサンが指差した方には、ヒロさんやクミさんと同年代の女性と、30代男性が居た。
「アイラ!ストス!」
「あ!ヒロさん、クミさんも!」
「やっと来ましたか」
「連絡が来てからなかなか来ないので、心配してたところなんですよ?」
そう言って2人が駆け寄ってくる。
「それでそっちの子供達が例の?」
「ああ、話は聞いているのか?」
「ええ、先にそっちの学校の先生達も何人か来てね、共闘する事と、その利益について話し合ったのよ?」
「こっちも異論は無いからな、ヒロ達と合流した後にこの拠点は放棄して、学園寮に向かうことで合意している」
「どっちが指揮するかで少し揉めたけど、それも落ち着いたわ」
アイラさんの言葉に俺達は驚く、こんな時に誰が指揮をするかで揉めるなんて、マンガや小説みたいな事が起きたのと、うちの教師の気質を考えると信じられなかったからだ。
「す、すいません……
教師を代表して謝ります!」
香織姉がそう言って平謝りすると、アイラさんが困ったように言ってくる。
「うん、おたくの校長に言っといてね?
あなたがトップなんだからしっかりしてって!」
「「「……はぁ?」」」
詳しく話を聞いたところ、城ノ内高校のトップ達は自分達が指揮を執るのを嫌がったのだそうだ、理由が戦闘等の指揮をしたことが無いからとの事だったが、賢者の学園は学園長のクリスティーナと副学園長のマサミが行方不明のために、せめて城ノ内高校の校長には全体の指揮を執ってくれと頼んだのだが、戦闘が発生した時に指揮系統が乱れると生徒に被害が及ぶと固辞したのだそうだ。
それを戦闘の指揮を賢者の学園の教師がサポートするからと説得して、今は全体の指揮を執っているとの事だった。
「しかも自分の保身ではなく、本当に生徒達の事を考えてだからね……
うちの学園長達にも見習ってほしいわ!」
そんな事をクミさんが話していると、男が1人走ってくる。
「ヒロ!クミ!やっと来たのか!」
「バイアーじゃないか、どうかしたのか?」
「ああ、他の教師や生徒と話し合ったんだが戦闘の指揮はヒロとクミに任せた方が良いって意見が多くてな?
戦闘の指揮はヒロが、参謀として校長の側にはクミがついてて欲しいんだ」
「それは……いや、それが1番効率が良いか……?」
バイアーに言われたヒロさんは、チラッと俺達を見てから悩むようにそう言った。
どうやらヒロさんは俺達の事を気にかけてくれている様だった、そこで俺は前に出るとヒロさんに言う。
「ヒロさん、心配してくれるのは有りがたいんですが、今はうちの校長のサポートの方が大事です。
それに……ネイサンとエルケが居るから大丈夫ですよ!」
「え!?俺達!?」
「しゃーない、つきあうわよ!」
俺の言葉にネイサンは驚き、エルケはウンウン頷いている。
ヒロさんはそんな俺達を頼もしそうに見つめてくれるのだった。
「うーむ、こういう事で、ああ言ったんじゃないんだがなぁ……」
「クミ先生が凄く良い笑顔で言ってきたからな、断れないよ……」
俺達は現在、俺、朝日、弘志、円、梨花、香織姉、桐澤さん、百合ちゃんの8人に、ネイサンとエルケにケイティと言う少女をくわえた11人で公園を出て移動していた。
何故拠点の公園から出て移動しているかと言うと、ヒロさんとクミさんにネイサンとエルケに公園の拠点を案内してもらうから、大丈夫!っと言う意味で先程の言葉を言ったのだが、クミさんに―――
「あなた達なら大丈夫ね!
……じゃあ、寮の偵察はお願いね!」
っと言われ、シブシブ偵察に出たのだった。
ちなみにハナエルさんも教師に軽傷者が居たので、治療のために残ってしまった。
「あれ、分かってて言ったよな?」
「ステータスとスキルも調べられたしね……」
そう、俺達が難色を示すと直ぐに鑑定持ちの教師が呼ばれ、俺達のステータスやスキルがバレたのだ。
「昨日の夜に、アルレニアでキャンプしてドライト様の訓練を受けたって、言わなきゃ良かったわ!」
実は昨日の夜に今までのいきさつを話し終わった後、世間話として去年の夏休みにアルレニアと言う世界でキャンプをして、その時にドライトに訓練をしてもらったとヒロさんに喋ってしまったのだ。
その話がクミさんにも伝わってたようで、ドライト様に訓練をしてもらったならかなり強いはずだから、寮への偵察をお願いと言われたのだ。
「なんにしろエルケと円と百合ちゃんに偵察をしてもらいながら前進するっきゃないか……」
「そうだな、ええっとケイティさん?は梨花と綾香姉と一緒に後衛を頼みます」
そう言って後ろを見ると、豪華な装備を身に付けた美少女が胸を張って答えてくる。
「灰谷さん、私の事はケイティと呼び捨てで、よろしいですよ!」
彼女はケイティ・セルウェイと言い、賢者の学園の有る学園都市でも1、2を争う商会の令嬢なのだそうだ、そして同時にネイサンの婚約者でもあるそうだ……ケ!妬ましい!
ちなみにネイサンも学園都市で老舗の宿の息子で、さらに子供の頃から期待された天才だったので大規模商会の令嬢である美少女のケイティと婚約したのだそうだ。
「ほら星司!ネイサンを呪い殺す勢いで見ないの!」
「星司さんには私達がいるじゃないですか?」
「普通は立場が逆よね?」
円、梨花、香織姉にそう言われたので、視線を前に戻す。
「お?あれか?円、百合ちゃん、エルケ、地図を見るとあれっぽいんだけど、どうかな?」
視線を戻すと数キロ離れた位置に、5階建ての寮らしき建物が見えてくる。
「まちがいない……かな?うーん?」
「ちょっとずれてる気がするわね?」
「エルケちゃんも?
微妙にずれてる気がするよね?」
斥候系のスキルを持つ3人が口を揃えてそう言うので、俺は地図と建物の位置を見比べる。
朝日にネイサンもやって来て見ているが、2人も「この3人に言われると、そう思えるな……」等と言っている。
「なんにしても、眺めてるだけって訳にもいかないだろ?早く行こうぜ?」
弘志がそう言って先を促してくるが、俺はどうにも気が進まなく、ジッと寮らしき建物を見つめる。
「どうしたのよ?弘志の言うとおり調べなきゃ始まらないでしょ?」
「いや、なんか建物にも違和感を感じるんだよ?」
「? 何処にですか?」
百合ちゃんにそう言われて、俺はその違和感を何処に感じているのか自分でも判らず、ジッと建物を見つめていた時だった。
「……もしかして星司君の感じてる違和感って……あれ?」
百合ちゃんが建物の下の方、木々が生い茂ってる所を指差す。
釣られて全員がそこを見る、そこには―――
「あれだな、あれが視界に入ったから違和感を感じたのか……」
「百合っち、よく気がついたわね?」
「言われてやっと気がついたわ……
ってか、星司君って感が良いわね?」
俺、円、エルケがそう言って見つめる先には、森に隠れるように高い壁が有った。
「星司君が感じてた違和感って、壁と館の造りね、多分」
「エルケ、どう言うことだ?」
俺達は寮に近づかず、近くに有った10数階建てのマンションの屋上から、寮の様子をうかがっていた。
「見てよ?あれただの壁じゃなく、上を歩けるようになっているわ?
それに館の造りもかなり頑丈みたいだし。
あれはもう城と城壁ね?」
エルケがそう話していると、少し離れた場所で俺達と同じ様に謎の城を見ていた朝日が声をかけてくる。
「おい、ここからだと見えるけど、横に有るのが学園寮じゃないか?」
「善君、地図の位置とも合うから間違いないと思うわ?」
朝日の言葉に桐澤さんが同意する。
「ここで見てるだけじゃ、らちが明かないな……」
「星司、早く行こうぜ?」
ネイサンと弘志がそう言ってせっついてくるが、俺はジッと城と寮を見る、そして仲間達に向かい直り決を取ることにした。
「……どっちに行くか決を取る、俺は寮に1票だ」
俺がそう言うと皆は驚くが城と寮の方を見て納得し、それぞれにどちらに行った方が良いかを言う。
何故俺がどちらか一方に行くか決を取ったかと言うと、寮と城は目測でも1キロも離れておらず、隣り合うように建っていたからだ。
ならばどちらかに行けば、行かなかった方の情報も多少は入る。
そして、両方見るより危険度は減るからだった。
「門は……有ったわ!」
「見張り、じゃないなわね、あれは?」
「天使族ね……ん?やば!あそこに居るのはウェルキエル様よ!
円、百合、逃げるわよ!」
斥候の3人が慌ててこちらに逃げてくる、そして身振りで逃げろと言っているので俺達も慌てて逃げ出す。
「どうした?門が有ったんだろ?」
俺達は門の側から逃げ出し、少し離れた所から門の方の様子をうかがっていた。
「ハァハァ……ウェルキエル様が居たのよ……気づかれなくって良かったわ……」
「げ、そりゃやばかったな!」
エルケとネイサンがそう話していると、訳が分からない俺達はキョトンとしてしまう、それを見たケイティが説明してくれる。
「ウェルキエル様って、天使族の中でも武闘派で知られる幹部なのよ。
特に単純な戦闘能力なら、天使族のリーダー格のマルキダエル様やアスモデル様に匹敵するって言われてるの、そしてその部下達も武闘派揃いで戦闘能力に秀でているって言われているわ」
「そうなのか……」
そんなのが居たのかと俺達は逃げられたことに安堵する。
「でもそのウェルキエルって幹部は、あそこで何してたのかな?
門番って訳じゃなかったみたいだけど?」
「そう言えばそうだったよね?
どちらかと言うと中に入ろうと、頑張ってたような気がするよ?」
円の疑問に、百合ちゃんも不思議そうに相づちをうつ。
2人の言葉に俺達はそっと門の様子をうかがうと、そこでは―――
「おら!?」
[ガン!]
ウェルキエルが手に持った角材で門を殴り付けるが、角材ははね返り門は壊れない。
「ダメですね、傷すらついてません」
「ウェルキエル様の力でこれでは、破壊する事は無理ではないですか?」
ウェルキエルの周りに居る天使達がそう言って門を眺める。
「ッチ!この中は安全そうだし、お宝の匂いがするんだがな……ん?おい、誰か居るな!?誰だ!」
ウェルキエルがそう言って、星司達の居る方向とは逆の森に向かって叫ぶ、すると森の中から竜人達が現れる。
「いよう!ウェルキエルじゃないか、何してんだ!?」
「ファレグか、てめえこそ何をコソコソ探ってやがるんだ!?」
ファレグと呼ばれた竜人は、ニヤニヤと笑いながらウェルキエルとの距離を詰めていく。
「そーいやウェルキエル、知ってるか?」
「……何をだ?」
「この疑似世界に居る竜人族はもちろん……天使族も弱体化されてるんだって、よ!」
ファレグはいきなりウェルキエルに殴りかかる、だがウェルキエルも予想していたようで拳をかわすと距離を取る。
「てめえ……何しやがる!?
それに弱体化だと?それで門が壊れなかったのか!」
「ふん!そんなことも知らなかったのか!
それに何も糞もねえだろ?この疑似世界には俺達竜人族とお前ら天使族、それに人間達が居る。
俺達もお前達も人間と同じレベルまで弱体化されている、だがな?人間達の人数は……1000人も居ないって事だ、つまり判るか?」
「……先にライバルの俺達を潰そうって魂胆か!」
「そう言うこった!おら!全員ぶちのめせ!」
「なめるなよ、トカゲ共が!返り討ちだ!」
こうして寮や城に通じるであろう門の前で、竜人達と天使達の壮絶な殴り合いが始まったのだった。
「おい星司、戦闘が始まったぞ?ここから移動した方が良いんじゃないか?」
朝日は壮絶な殴り合いを見ながら俺に、撤退しようと言ってくる。
「いや、ちょっと待て、今の会話聞こえたか?」
「天使達と竜人がなんかの理由で張り合ってる、だろ?
俺達の世界じゃ有名な話だぜ?」
「ネイサン、その話じゃない。
あいつ等、弱体化してるって言ってなかったか?」
「ああ……って、お前まさか!?」
ネイサンは俺の考えに目を見開き驚く、そんなネイサンを見ながら俺は仲間達に言う。
「どっちが勝とうが負けようがどうでも良い、残った方をボコってここを確保だ!」
俺の言葉に皆が驚くが、全員が決意した表情で頷くのだった。