2日目・情報収集と新たな出会い。
俺達は学校から脱出した後、近くの民家に入り込んでいた。
普通の民家だったが、弘志と百合ちゃんが今晩はここに泊まろうと言うので窓を割って入家にり込み、雨戸を閉めきって冷蔵庫や倉庫を漁り、家の中を調べ終わったところだった。
「たいした物は無いな」
「ああ、でもリュックの食料に手をつけるよか良いだろ?」
朝日がそう言うが、初日でリュックの物資に手をつけなく良かったと俺は言う。
「そうね、リュックのは日持ちして、持ち運びしやすいのばっかりだからね」
円もそう言って自分の背中に有るリュックを見る。
俺達は家に入ってからも、リュックを下ろさずに探索や料理などをしていたのだ。
家に入り込んで安心したのか、香織姉や桐澤さんがリュックを下ろそうとすると2人が、
「待った、リュックは下ろしちゃダメだ」
「何かあって逃げる時に逃げやすいように、リュックは常に持ってて下さい!」
そう言ってきた、2人の話に納得した俺達はリュックを下ろさずに探索していたのだ。
何にしろ探索を終えた俺達は、食事の用意をしている面子と合流するために、リビングに入る。
「あ、善君、何か良い物あった?」
「いや、変な物なら有ったが……」
「へ?変な物って?」
桐澤さんが驚ききいてくると、円がため息をつきながら答える。
「はぁ……ゲームが積んであったのよ?
しかも、18禁の……」
「……はぁ?」
桐澤さんが不審げな声を出す、それに円が心底嫌そうに告げる。
「2階の角部屋が厳重に戸締まりされてたのよ?
こりゃ良い物が有るかな!?ってこじ開けたら、ゲーミングPCに積みゲーと、大量のお菓子にジュースやコーヒーなんかの飲み物が入った冷蔵庫が有るだけだったわ……」
「なんですか、それ?」
桐澤さんが驚き呆れていると、百合ちゃんが料理をしていた香織姉と梨花を連れてリビングにやって来て叫んだ。
「……質問!アダルトゲームを持ってるアホは手を上げろ!」
その瞬間、俺と朝日と弘志は雨戸を蹴破り逃げ出そうと走り出した、しかしそれと同時に朝日は桐澤さんに、弘志は百合ちゃんに、俺は円と梨花に捕まったのだった。
「よし、アホ共、どこに隠してるのかキリキリ吐け!」
「すぐ喋れば情緒酌量も有りますよ?」
「……何を言うんだ!それに、どこに証拠が有るって言うんだ!
公平な裁判を要求する!」
俺が反論すると、弘志にアイアンクローを極めていた百合ちゃんが言ってくる。
「うふふ?星司くんは相変わらず面白いですね?
この世界に裁判所なんか有るわけ無いじゃないですか?」
「止めて!なんかメシメシいってるから!」
弘志は必死に止めてくれと言っているが、百合ちゃんはニコニコと力をさらに込めている。
「それに公平に拷問して、強制的に聞き出そうとしているじゃないですか?」
「俺達の人権は何処に行ったんだ!?」
百合ちゃんと弘志の横で、朝日に逆エビを極めている桐澤さんがにこやかにそう言う。
朝日が人権はどこに行ったと叫んでいる、俺も梨花に羽交い締めにされ、円にボコボコされながら同意していると、香織姉が止めるように言って止めてくれる。
「皆止めなさい!
しょせんは2Dよ、私達はドッシリ構えていれば良いの!」
うん、止め方が変だけど助かっ………………円、梨花、止められたんだから止めてくれ!
そんなこんなで夕飯に差し掛かった時だった、玄関の方から物音がしたのだ!
「……玄関の鍵が開いたな?」
「百合、何時でも逃げ出せるように用意しとけ」
「ご飯はどうするの?」
「百合っち、諦めなさい」
「ええー」
そんな事を言い合いながら、弘志は今は雨戸で閉められているリビングの窓に向かう。
万が一の時は弘志が窓と雨戸をぶち破ってでも、逃げ口を作ると決まっていたからだ。
実はこの家を選ぶ時に、弘志と朝日で意見の対立が有った、朝日はこの家の隣に有る新築の鉄筋コンクリートの家にしようと言い、弘志は今居る少し古いこの家にしようと言ったからだった。
俺達は鉄筋の方が頑丈だから、新しい方が良いのではないか?っと言うと、「頑丈すぎると逃げ出すのに苦労するし、シャッター型の雨戸は普通のより逃げにくいんだよ!」そう言われたのだ。
隣に居た百合ちゃんもウンウンと頷いていたけど、なんでこいつ等そんな事を知ってるんだろ?
逃亡者とか犯罪者の思考だよな?
などと考えているうちに、玄関が開き誰かが入ってきたようだった。
「ふぃー、ただいま~っと!
さっそくビールを1本……あれ?何だこれ?……明日の夕飯のオデンが出来てる!?」
入ってきたのは家主のようだった、しかし俺達は警戒を強める、何故ならばここはドライトが創った疑似世界だからだ。
俺達の学校の面々以外には、ユノガンド様達一行に天使達と竜人達しか居ないはずなのだ、ましてや家の持ち主なんかは居るはずがないので、一体誰が入ってきたのかという事なのだ。
緊張しながら待っていると、リビングのドアが開き……日本人男性が入ってきた!
「な、何だお前ら!?泥棒か!?」
俺達はてっきり、またドライトだろうと思っていたので、日本人男性が入ってきた事に驚き戸惑ってしまう。
すると、俺達を警戒している男の背後から女性が表れる。
「ヒロ、どうしたの……日本人!?しかも学生!?」
「クミ、気を付けろ!ただ者じゃないようだ!」
俺達の目の前には革の鎧を着た日本人男性と、聖職者が着るようなローブを羽織った日本人女性が、俺達を警戒しながら立っていたのだった。
「ふーん、災難だったわね」
「ああ、だけど邪神に転移させられるよりかは、ましじゃないか?」
「まあ、そうなんだけどさ……」
俺達はリビングでオデンを食べながら、今までの事を2人に話していた。
この2人は大瀧宏彰さんに、高坂久美子さんと言い、夫婦なのだそうだ。
夫婦なのに名字が違う?流行りの夫婦別姓?っと疑問に思い質問すると、異世界で結婚したので名字はそのままにしてあるそうだ。
2人は高校生の時に、邪神によってメルクルナ様が治めるユノガンドに、学校に居た100人が送り込まれたそうなのだ。
そして色々と苦労して、今ここに居るヒロさんにクミさんに、まだ帰ってきていない有城正美、マサミさんの3人だけが生き残り、さらに色々あってユノガンドの学園都市で生活している時に、ドライトと出会って現在に至ってるのだそうだ。
んで、なんでこの2人がドライトの創った疑似世界に居るのかと言うと、家の住み心地を試してみてくれと言われて住んでいるとの事だった。
「しかしドライト・オブ・ザ・デッドか……」
「そんな話は聞いてないわよね?」
「あ、あの、大事な話をしているのは判っているんですが、テレビを見させてもらっても良いですか?」
2人がそう言っていると、百合ちゃんがテレビを見ても良いか聞いてくる。
リビングには50インチは軽く有る、8K対応テレビが置かれていて、まさか観れるとは思わずに観ていなかったのだが、ヒロさん―――そう呼んでくれと言われた。に、観れると聞き百合ちゃんは総合格闘の試合が観たいとウズウズしていたのだ。
「良いけどドライトゾンビだっけ?そいつ等がウロウロしてるんじゃないの?騒いでも大丈夫?」
「それがステラとルチルだっけ?
ドライトの妹さん達がほとんどを学校に誘導して閉じ込めちゃったらしいんですわ」
「ステラ様とルチル様らしいな……」
「何にしろ全部は捕まえていないんでしょ?観るのは良いにしてもあまり騒がないない方が得策ね」
「じゃあ音を絞って……」
百合ちゃんがそう言いながらテレビのスイッチ入れる、すると―――
「DTV、ドライトニュース!」
「よし、消せ!」
どっかで見た事の有る銀色の龍が映ったので、俺は百合ちゃんからチャンネルを奪い取るとテレビを消した。
「総合の試合は……?」
「ってか、DTVってどこの局だよ……」
「……星司、テレビをつけろ」
格闘技の試合がやってないので、百合ちゃんと弘志のテンションが下がる、すると朝日がテレビをつけろと言ってくる。
「なんだよ、あんなテレビを観るのか?」
「今のニュースって言ってただろ?
何かしらの情報が得られるかもしれないだろ?」
朝日にそう言われ、納得した俺がテレビをつけるとそこには……!
「暇ですねー」
「誰もDTVを観ないんですもんね?」
ダレきった探検服を着たドライトと、エイミリアが写っていた。
「テレビ離れのせいですかねぇ……視聴率が0だなんて」
「ドライトヒロシ隊長、地球の放送の方はソコソコ視聴率が有るみたいですよ?」
「はぁ……強制的に全部のチャンネルをDTVに変えちゃいますかね?」
「それも良いで……あれ?」
「どうしました?」
「オンエアーのランプ……ついてませんか?」
「……視聴者です!視聴者ですよ!?」
「ドライトヒロシ隊長、この時間はニュースですよ!急いで始めましょう!」
……なんだこれ?ってか、エイミリアは何してんだよ?
出来の悪いコントを観ているような気がして、テレビを消そうとすると、その手をヒロさんに握られ止められる。
「待った、これ……生放送っぽいな?」
「……へ?」
「なら、ニュースで現在の状況を流すかもね……」
ヒロさんとクミさんの言葉にハッとして俺達はテレビに集中する、そしてテレビではニュース番組が始まった。
「ドライトテレビ、ドライトニュースの時間です」
「本日最初の話題は、ドライト様のペットのデーモンスパイダーのモンちゃんにお嫁さんが!」
「嫁どころかハーレムを作っていたヤンバルを羨ましがってましたからね。
ああ、映像に出てますが微笑ましいですよ!」
テレビに恐ろしく強そうな悪魔を、2匹仲良く捕食するデーモンスパイダーが映し出される。
「微笑ましいかこれ!?」
朝日が突っ込みを入れているが、続いて新しいニュースが流れたので全員がそちらに集中する。
「次のニュースです。
本日、邪神により地球の日本から拉致された300人……これ灰谷様達じゃないですか!?」
「そうですね、皆様にはその後、ドライト様の暇潰しに付き合っていただいてるようです」
「ひ、酷い……」
俺達の事かよ!クッソー、隣でヒロさん達が笑ってやがる!
「ええっと、次のニュースですが、何ですかこれ?
ドライト・オブ・ザ・デッドの開催って?」
「なんですと!?」
「ヒ、ヒロシ隊長、どうかしたんですか?」
ドライトヒロシ隊長はドライト・オブ・ザ・デッドっと、と聞き、驚き立ち上がりながら答える。
「ステラ様とルチル様も参加する、面白ゾンビワールドです!
この計画には天使や竜人の幹部のみならず、暇人も巻き込む予定なのですよ!?
しかも発動後少しすると、うちの局しか観れなくなりますので、視聴率も稼げるはずです!」
「おお!目立てますね!?
……暇人?」
「適当に集められた人達です!
それよりも直ぐにリポーターを町に送るのです!」
「は、はい!でも、ゾンビが出るんですよね?リポーターは大丈夫なんですか?」
「リポーターは大丈夫です、暇人共は知りませんが!」
「……本当に大丈夫なんですか!?
な、何にしろここからは特番……あ、総合格闘技だけは放送する?了解しました~」
エイミリアがそう言うと画面が切り替わり、ドライト電気工業提供の文字が現れる、そして試合が始まった。
「そこよ!そこでジャブを……ああもう!とどいてないじゃない!?」
「よし!寝技持ち込ん……足が短すぎてとどいてねぇ!」
試合はドライト教授とドライト助手で始り、すぐにグダグダなった。
何故かと言うとこの2人は1メートル程の龍の姿で現れたのだが、手足が短すぎてパンチにキックを繰り出しても、相手の関節を決めようとしても届かなかったからなのだ!
「ダメだ、使えなくなってる」
「暇人って私達の事なのね……」
ヒロさんとクミさんが、手に俺達が以前に貰ったような鍵を持ってリビングに帰ってくる。
「少しは期待しましたけど、やっぱりダメでしたね……」
「やっぱり逃がさないつもりだな……お前等、もう少し緊張感をだな……」
梨花がそう言ってため息をつき、俺は呆れて百合ちゃんと弘志を見る。
丁度試合も終わったようで、ロッテンドライヤー女史が雄叫びを上げながら鎖がまを振り回していて、足元にはドライト教授とドライト助手が倒れていた。
「悪い悪い、それでなんだったっけ?」
「ヒロさん達の持ってる鍵でユノガンドに行けるって話だよ、避難しようって話だったろ!?」
「そうでしたね……で、やっぱりダメだったんですか?」
「ああ……しかも何故か軍艦マーチが鳴り響いて「あきまへん」って言われたよ」
「なんだそりゃ!?」
ヒロさんが持つ鍵を玄関の内側に有る鍵穴に差し込むと、異世界のユノガンドに繋がると聞き、ユノガンドに逃げられるか試したのだが案の定ダメだった。
「何にしろ、このままテレビはつけっぱなしにしておいて、休もう」
「そうだな、いざって時に動けないとまずいしな」
そう言って、そろそろ寝ようかと話していた時だった、家の外から爆音が聞こえたのだ!
[ブロロロ~!]
「ヒャハァ!奪い尽くし、焼き尽くせぇ!?」
2階のベランダから様子を見ると、モヒカン姿のドライトがゴーカートに仁王立ちで乗って走り回っていた。
それを見た俺達は呆れて言う。
「まだ初日だぞ!?荒れるの早すぎるだろ!」
「なんで他の人達はアフロなのかしら?」
「ア、アホだ……あ、セレナ様だ!」
ドライトと妻達は暴走行為をしていたが、凄い勢いで走ってきたセレナ様にあっという間に捕まり、連行されていったのだった。
「……皆、寝よう!」
こうしてドライト・オブ・ザ・デッドの初日が終わったのだった。