キャンプだホイ!
「諸君!それではキャンプの準備を始める!」
俺達の目の前でパタパタと飛びながら、銀龍ドライトが高らかに宣言した、そして今後の計画を説明し始める。
「まずは1メートル程の溝を掘り、そこに高強度コンクリートで出来た、高さ4メートルの壁を設置する!
見て分かる通りこの壁には片側に支え壁が有る、これは交互に互い違いなるようにしろ!
これを重機を使い3日以内に「まてまてまて!」なんですか?質問なら後にしてください?」
「いや、お前は俺達に何をさせるつもりなんだよ!?」
ドライトの横にはこれから設置すると言われた、コンクリート製の壁が多数置かれていた、目算で長さは4メートルちょい、横が1メートル、厚さが30センチは有る物が少なくとも1000枚は置かれていたのだ。
「……?ですからキャンプの準備ですよ?」
「この壁を設置して造るキャンプ場って、どんなキャンプなんだよ!」
「軍の前線キャンプです。
それでですね、一辺が200メートルの壁を造って、50メートル毎と四角に櫓を建てて銃座兼見張り台とします。
ここまでは良いですか?」
「良くねえよ!」
俺達は最前線のキャンプに来た傭兵じゃねぇぞ!?
だが俺の文句を聞いていたアルレニスは、壁を建設するのは賛成だと言い出した。
「いえ灰谷様、壁はあった方が良いです。」
「なんでですか?」
円も不思議に思ったのか質問すると、アルレニスからとんでもない事が告げられる。
「ここ……邪神達が増やした魔物達がいる場所の……ほぼ中心地です」
それを聞いた俺はドライトと、その横で壁を使ってお手玉してるユノガンドに文句を言う。
「ドライトさんよ!
あんたお母さんにもてなすなら俺達を召喚しても良いって、言われたんだよな?
魔物の中心に無理矢理連れてきて、キャンプをさせるのがもてなしなのか!?」
「魔物ですか?居ませんよ?」
ドライトがそう言うと、アルレニスが反論する。
「ドライト様!
ここは邪神達が繁殖させた魔物の住処の中心で間違いないはずです!
それなのに、居ないなんて嘘をつくとはどう言うことですか!?」
アルレニスの言葉に俺達も賛成して、ドライトを見る。
すると、ドライトがここの近くに魔物やモンスターが居ない理由を説明してくれる。
それは―――
「あまりに朝が気持ち良かったから、本気で吠えたら皆逃げ出した!?」
「ええ、山々から姿を表した太陽に照らされた湖と森。
これぞキャンプの醍醐味だと、おもわず鳴いちゃったんですよ!」
「あれは綺麗じゃったな……
ありがたい事に、わらわもドライトの鳴き声で起きれて見れたのじゃ!」
そう言ってユノガンドはウンウンうなずいているが、アルレニスは真っ青になってドライトに詰め寄る。
「に、逃げた魔物達は何処に行ったんですか!?」
「? 東の方に逃げましたですよ?」
「東って……フォルセクル王国の方じゃない!」
アルレニスの言葉にエイミリアは、気丈にも大丈夫だと言う。
「アルレニス様、魔境との境には各国軍とエルフやドワーフ族等の軍が、大城壁に集結しています。
例え100万の魔物に攻められても、なんの問題もございません!」
しかしアルレニスの次の言葉に真っ青になるのだった。
「オーク等のある程度知恵が有るのだけで、100万を越えます。
魔獣なども含めたら……数千万になります……」
「な!?」
エイミリアは何も言えなくなり、アルレニスを見つめる。
見つめられたアルレニスは、ドライトに向かい怒る。
「一体どんな鳴き方をすれば魔物が全部逃げるんですか!」
「こんなです―――」
「……あ、あれ?
何か恐ろしい声を聞いたような!?」
「ひっく、ひっく!」
「……ハハハ!絶望しか感じなかったわ!」
「も、漏らしちゃっいました……」
「梨花ちゃん安心して……大人なのに私も漏らしたから……」
「こ、これは逃げますね……
アルレニス様はまだ目を覚まさないんですか?」
「ブクブクブクブク……」
「お、恐ろしい目にあったな……」
何があったかと言うと、ドライトが試しに本気で咆哮したのだ。
その結果、俺達は全員仲良く気絶して、今になってなんとか目を覚ましたのだ。
「こんな感じで鳴いたら、皆さんが一目散に逃げましたよ!」
「………………は!?
そりゃ逃げますよ!ドライト様、本気で咆哮してるじゃないですか!」
アルレニスは復活すると、本気で文句をドライトに言う。
「アルレニス様、大丈夫ですか?
一番長く気絶してましたが……」
エイミリアが心配そうにそう言ってアルレニスを労っているが、俺達はアルレニスを呆れて見つめる。
「最高神なのに、一番長く気絶してたのか……」
「本当に最高神なのかしら?」
そう言う弘志と円に、アルレニスは心外そうに言う。
「仕方がないでしょう!ドライトさんの本気の咆哮の恐ろしさが分かっているのですから!?」
「……何を言ってるか、さっぱり分からん!」
アルレニスの訳の分からない言い訳に、ついそう言うとアルレニスが説明してくれる。
「例えば灰谷さん、あなたに剣を突きつけたとします、恐怖を感じますよね?」
「そりゃまあ……」
「じゃあ、なんの知識も無しに、魔法の杖を突きつけられたら、剣ほどに恐怖を感じますか?」
「へ?……ああ、なるほど!
アルレニス様はさっきの咆哮の真の恐ろしさが分かるから、俺達より長く気絶しちゃったって事ですね!」
俺の言葉にアルレニス様はうなずく、だが俺は他に言いたい事があったのでドライトに向き直り叫んだ。
「それでなんで鳴き声が猫なのかを聞かせろ!」
そう、ドライトは確かに鳴いた、「ニャー!」っと!
「……?なんの問題があるんですか?」
ドライトはキョトンと言ってくる。
「龍なんだからさ、ガオーとかさ?格好いい雄叫びがあるだろう!?」
「ニャーの方が可愛のです!」
「いや、星司の言う通りその姿には似合わないだろ?」
「あら、可愛い方が良いじゃない?」
弘志と円がそう言うと、朝日や梨花達も格好いい、可愛い方が良いで意見が対立する。
そんな中でエイミリアは真っ青のままドライトに質問する。
「あの、魔物の集団はどうなって……
大城壁は!?」
エイミリアの言葉にアルレニスが慌てて確認している。
ちなみに大城壁ってのは、フォルセクル王国と魔王が居た魔境の境に造られた防壁で、高さ25メートル、厚さ15メートルの防壁が谷、もう山と山の間だな、その山と山の間に5キロ以上続く城壁なんだそうだ。
んでフォルセクル王国だけでなく、各国やエルフにドワーフ等の全ての種族が協力して造って、連合軍を編成して防衛にあたっているそうだ。
そして現在は対魔王戦を想定して、50万を越える精鋭の軍勢が集結しているらしい。
何故知ってるかと言うと、横でエイミリアが―――
「50万を越える精鋭が集結しているんですから、大丈夫です。
各国、各部族を代表する英雄に、勇者達が集結しているですから……落ちるはずありません!」
―――っと、ブツブツ言っているからだった。
何にしろアルレニスが手を振ると何処かの山脈が映し出される、そしてその山脈と山脈の間の様な場所にピントがあうと、アルレニスとエイミリアが安堵のため息をつく。
「ま、まだ魔物達はここに来ていないようですね……いえ、例えここに来たとして殲滅されるだけです!」
「大城壁は、全ての国……いえ、全ての神の僕を守る壁です。
落ちてたまるものですか!」
アルレニスとエイミリアは安心したのかそう言う、そして映像はドンドン大城壁に近づき、風にはためく旗が見えるほどになる。
「「………………え?」」
旗には……アルレニアで魔王軍を意味する、“魔”の文字が書かれていた。
大城壁に無数はためく旗、その全てに“魔”の文字が書かれている……
だがアルレニスとエイミリアはそれが信じられないのか、「「ウソ……」」っとつぶやいただけだった……
そして映像は大城壁の中心に有る、城門と楼閣の有る場所でさらにズームアップする。
そこには―――
「……ウニが居るな」
「いや朝日、山だから栗じゃないか?」
朝日と弘志が写った物体を見て言う。
アルレニスの映し出した映像には、どっかで見たトゲトゲが居たのだ。
「おいこら駄龍、あれはなんだ?」
「ドライト大将兼魔王です。
やっぱりあの鎧は格好いいですよ!」
「おお!早速に大城壁を占拠したようじゃな!」
ドライトとユノガンドが嬉しそうに言って見つめる先には、ドライト大将が映し出されていたのだったのだ!
「ふははは!我こそはドライト大将兼魔王です!」
偉そうにふんぞり返るドライト大将の前には、100人程の様々な種族が縛られて転がされていた。
「く、くっそう!こんな訳の分からんのに負けるとわ……!」
「アルレニス様、祖国の皆すまん!」
「……殺せ!」
「大城壁を預かりながらこのていたらくとは……ローレオン陛下、申し訳ありませぬ!」
「ふははは!この負け犬共め、負けたのだから大人しくするのですよ!」
縛られた捕虜達の前をドライト大将がバカにしながら転がる、足がトゲトゲで地面に届かないために。
「おい、あの栗をどうにかしろ!」
「可哀想よ!?」
「各国の英雄や勇者達まで捕まったのですか!?」
「ああ!コーネスト大元帥まで!?そ、そんな……」
弘志と円がドライトに詰め寄り、アルレニスは強大な力を持つ英雄や、勇者達までがアッサリ捕まったことに愕然としている。
エイミリアは知り合いなのか、一際存在感の有る老将が捕まっているのを見て、絶望していたが
「い、一体どうやって英雄や勇者の皆様、コーネスト大元帥まで捕まえたのですか!?」
ドライトの元に走り寄り質問する。
「朝食に痺れ薬を混ぜて、一網打尽にしました!」
「そ、そんな手で!?」
エイミリアは驚き呆れている、そんな姿を見ながら俺と朝日と梨花は、別の事で揉めていた。
「山に居るから栗だな」
「そうだよな、あの姿は栗以外に見えないしな」
「ウニに決まってます。
星司君は眼医者に言った方が良いですよ?私が付き添うので!」
ウニか栗かで揉めていると、香織姉が決め手の一言を言う。
「ウニでしょ?栗は自力で動けないわ。
それより、なんかいっぱい現れたけど……あれは何かしら?」
梨花は勝った!と言いながら、俺と朝日は負けたと項垂れながら画面を見ると、魔境の方から雲霞の如く魔物が現れたのだった!
「ま、魔物の軍団!?」
「なんなんだ、あの数は!」
「ぬぅ……そこの栗、いやウニか?何にしろ我らを放せ!
我らは大城壁を……祖国や民達を守らなければならないのだ!」
城壁の上で縛られていた者達は慌て始める、だが魔物の大軍団を見てドライト大将は愕然としてい言い放つ。
「そ、そんな……そんな馬鹿な!?
……これから虎牢関ごっこをして遊ぶ予定だったのに、なんなんですか!」
ドライト大将の言葉に、早く放せと叫んでいた捕虜達は、なに言ってるんだこいつ?っと、固まってしまう。
「おのれ!我々の憩いの場を邪魔するとは生意気な!
ドライト軍団魔王部!出撃です、全軍出撃ですよ!」
遊ぶ時間と場所を奪われると思ったドライト大将が怒りの言葉放つと共に、大城壁にある3つの門が開き、ウニが大量に現れた。
「た、大漁だな?」
「異常繁殖でもしたのかしら?」
「おおお?ま、まだまだ出てくるぞ!?」
「山なのにウニが大漁……なにこれ?」
朝日、円、弘志、梨花が溢れ出るトゲトゲのドライト軍団を呆然と見ながら言う。
「あれじゃないかしら?竜巻で海からここに飛ばされたんじゃないのかしら?」
「いや、香織姉、あいつ等自力で動いてる……ってか、はや!?
転がってるだけなのに、かなりのスピードだぞ!?」
「ほ、本当に速いですね……と言うか、まだまだ出てくるんですが……」
「あ、魔物の集団とぶつか……串刺しにしてるわね……」
アルレニスが呆れながら言う、ドライト大将よりも一回りから二回りほど小さなトゲトゲのドライト軍団魔王部は、転がりながら魔物達を串刺しにして回ったからだ。
空を飛ぶ魔物も多数いたのだが、ウニドライトもジャンプして突き刺してしまい、魔物達はあっという間にほぼ全滅したのだった。
「さあさあ!そんなことよりキャンプですよ!
早く壁を造るのです!」
そう言いながら[パンパン!]っと、手を叩くドライトに俺は質問をする。
「ドライト様、壁やら銃座は必要ですか?」
「何を言ってるんですか!
アルレニスさんも言ってたでしょう?ここは魔物の住処の中心部なんですよ!?」
「はぁ……それでその魔物はどの位居るんですか?」
「どの位って、ドライト軍団がほぼ串刺しに……」
「……壁、要りますか?」
「……普通のキャンプに変更します」
こうして俺達のサマーキャンプは始まったのだった!