ハザ達の戦い
女神アルレニスが手をかざすと、謁見室は闇に包まれた。
そして闇の中に幾つもの光点が現れる、その中でも特に大きい物とそれに寄り添うように居る大きな光点、その2つの光点にピントが合うとその正体が分かり国王やエイミリア達は驚愕するのだった。
「ハ、ハザ様!?」
「な、なんと威厳の有るお姿なのでしょうか……!」
そう、大きな光点は長い髭の威厳の有る年寄りの姿をした創造神ハザであり、その直ぐ側に居るのは今も俺達の目の前に居るアルレニスだった。
「ハザ様、フォルセクル王国が勇者召喚を行うようです」
「うむ、我等と共に戦う決意なのじゃろう、あの魔人は手強いじゃろうな……
わしが不甲斐ないばかりに、厳しい戦いを強いるのぅ……」
「ハザ様……私が役立たずなのがいけないのです!
叱るなら私を叱って下さい!」
「何を言うか、お主を筆頭に眷族達は本当によく頑張ってくれておる、これはわしの不甲斐なさが招いているのじゃ……」
「ハザ様……」
ハザと眷族神達は、ハザの創造した世界に攻め込んできた邪神と、決戦を挑もうとしていたのだ。
話を聞いていた星司達がよく見ると、暗い空間のなかに蠢くおびただしい数の邪神や魔神が居た。
「それよりもアルレニスよ、異世界から招かれる者達を受け入れねばなるまい、今回もすまぬが頼めるか?」
「お任せください、私が責任を持って……!?
召喚に介入されました!」
「なんじゃと!?」
アルレニスが召喚者を確認しようとすると、介入されたのを気がつき驚愕している。
「こ、これは……むぅ!?いかん!この世界全体に結界を張られた!
わしでもこの結界は直ぐに解除出来ん!
これでは他の神々や龍に援軍も呼べんぞ!!」
「な!そ、そんな!?」
「む!介入した者が転移して来るぞ!皆の者、気を付けよ!」
ハザの叫びにアルレニスをはじめとした眷族は緊張しつつも、武器を構える。
介入した者が何者かは分からないが、自分達の主神たるハザですら手こずる結界を張った者なのだ、並大抵の者ではないだろう。
そしてそれが、今現在もこの世界を侵略している邪神の仲間だったら……
ハザは内心焦りつつも、威厳を持ち眷族を鼓舞して、アルレニス達眷族はそんなハザのために覚悟を決めて、転移して来る者に向かうのだった。
そして―――
「呼ばれてないのに飛び出しました!
ドライトさんです!」
「ユノガンドじゃ!ひれ伏せるがよいぞ!?」
アホが2人現れた。
「ふむ、予定道理に世界の狭間に出たようじゃな?」
「ここで星司さんが、召喚術を使うのを待つのですよ!」
「分かっとる、それで自然に招かれた様に見せかけて、合流してから遊び倒すのじゃろう?」
「その通りですよ!」
「ヌハハハハ!楽しみじゃ!
……ん?ハザの小僧が居るぞ?」
「あれ?本当ですね?
……結界を張ったのが私だと、もうバレたんですかね?」
アホ2人は今になって自分達が、ハザとその眷族神に囲まれているのに気がついたのだ!
「わらわに任せるのじゃ!
ハザよ、久しいのぅ!ちょっと勇者召喚に巻き込まれてのぅ……ついでだし少しこの世界で遊ばせい!」
「な!?貴様!いきなり現れて何を「あ・そ・ば・せ・い!」分かりました……」
「「ハ、ハザ様!?」」
ユノガンドがにこやかに宣言すると、ハザは視線を反らして許可を出した、それを見ていた眷族達は驚愕していたが、力の差を知っているアルレニスは哀しそうに見るだけだった。
「フハハハ!この世界を創造した原始の神の許可を取ったぞ!
これで誰にも文句を言わせんわ!」
「ウヒョー!流石はユノガンド様で……あれ?」
「ん?どうしたのじゃ?」
「あそこに邪神の塊が居ませんか?」
ドライトは今になって気がつき、ハザ達が今から戦おうとしていた邪神達を指差す。
「……おお!?本当じゃ!?なんで気づかんかったんじゃ!?」
「弱すぎですね……弱すぎて気づかなかったんですよ。
しかしあれは問題ですよ?」
ドライトはそう言って、腕を組む。
「なんじゃドライトよ、あの程度のカス共の何が問題なんじゃ?
それに、お主が結界を張っておるからあやつらも逃げられんし、暇な時にでも殲滅すればよかろう?」
「いや、数だけは多いじゃないですか?
それがチマチマ襲ってきたら……鬱陶しいでしょう?」
「それもそうじゃな……ならば、丁度そろって居るようじゃし、殺るかのぅ?」
そう言ってユノガンドは神剣を取り出すが、ドライトに止められる。
「いちいち殺ってたら面倒です、ユノガンド様の力で殲滅しましょう、例の技を使って!」
「あれか!テストは成功しておるし、丁度良い的かもしれんな!
……よし、殺ろうかのう!」
ユノガンドはそう言うと、原始の神の本来の姿に戻る。
その姿は精神生命体やエネルギー生命体に似ており、光の粒子の様な物が流れ飛び回り、それが人の姿を象ったような姿だった。
そしてその姿になったユノガンドの力は、力有る龍神であるガンジスやレムリア達に匹敵するほどだった!
「ふむ、この姿になるのも久しぶりじゃ……ドライトよ、全力でやって良いのかの?」
「問題ありませんよ!」
ユノガンドの言葉にドライトがそう答えると、ユノガンドは50メートルを越える大きさになり叫ぶ!
「フハハハ!全力で力を振るえるとは久方ぶりじゃ!
邪神共よ、苦しまずに滅びる事が出来ることに、感謝して逝くがよいぞ!」
「ま、待てユノガンド!
お前が本気で力を振るったら……ああ!?」
ハザがそう言って止めようとしたが、ユノガンドは直視できないほどに光輝き、全身から凄まじい力が溢れ出す。
ハザの眷族達はその凄まじさに動けなくなる、唯一アルレニスだけが「結界を!ああ……!?」っと叫び、なんとかしようとしていたが、その叫びもむなしくアルレニスも光の奔流に飲み込まれてしまうのだった……
光に飲み込まれたアルレニスは自分も滅びると思い、目をギュットつぶる。
ハザ様は……アルレニアはどうなって?
自分も助からないだろう……導くべき後輩の眷族神やアルレニアの民に、すまないと思いながら最後の瞬間を待ったが……その時は訪れなかった。
「あ、あれ?……ヒィ!」
アルレニスが目を開き、周りの状態を確認して悲鳴を上げる。
何故かと言うとユノガンドの頭の上に20メートル程の銀色の龍が飛んでおり、ユノガンドの発した凄まじい力をコントロールするだけでなく……自分の力も上乗せして打ち出したからだった!
[チュドーン!]
「おお!綺麗な花火じゃ!
流石はドライトじゃのう、邪神共を殲滅するだけでなく、綺麗な花火を見せてくれるとはな!」
「ふふふ……単純にユノガンド様の力を操るだけなら誰でも出来ます……
しかし!あの様な綺麗な打ち上げ花火に変化させられるのは私だけですよ!」
ドライトの言葉を聞き『いや、誰にもは無理だから!』と思いながら、アルレニスは真っ青だった。
花火が炸裂するたんびに邪神や魔神が消滅している、自分があそこに居たら?
小さな何発かは耐えられるとは思う、だがたびたび炸裂している大きなのは無理だ。
と言うか、あれが自分の管理するアルレニアで爆発したらと思うと、真っ青になるしかなかったのだ。
「たーまや!」
「かーぎや!」
ドライトとユノガンドが気持ちを込めて叫ぶ、最後にひときわ大きな花火が炸裂したのを見て……
夏の情緒を感じつつ、ドライトとユノガンドは浴衣に団扇という風情溢れる格好で、花火が崩れ落ち消えゆくのを見つめるのだった……
「ふう……思った以上に綺麗になりました……」
「ゴミカスもなかなか役にたったのぅ……」
「いやぁ、邪神さん達の魂を燃やして炸裂する花火術は中々のヒットでしたね。
なんと言っても、役に立たないのが私達の目と心を癒すという事で役立ちますからね!」
「そうじゃのぅ!」
ドライトとユノガンドは楽しげだが、ハザとアルレニスは真っ青だった。
あの花火の小さな一発でも、眷族神達や、アルレニアには甚大な被害を与える事が分かるからだった。
真っ青になってドライトを見ているアルレニスの横に、ハザが来るとユノガンドを怒鳴り付ける。
「今のはどう言うことだ!ユノガンドよ!?」
「……わらわ、もしかしてあの小僧に呼び捨てにされたかの?」
「ハハハ!幻聴ですか?歳ですね!……あれ?私にもそう聞こえた記録が?」
ユノガンドとドライトはそう言って顔を見合わせると、ハザに向き合う。
「相変わらず美しいユノガンド殿、今のはどういう事か出来れば教えていただけるとありがたいのですか?」
いきなり態度を変えたハザに、眷族神達は驚くが、アルレニアが念話で落ち着かせる。
『皆、落ち着いて、見た目は子供だけども、ユノガンド様は原始の神々の中でも特に強力で古い原始の神々の一柱よ。
残念だけどハザ様とは各が違うの、ユノガンド様からしたハザ様も子供みたいなものなのよ……だからこそ対応に気をつけるように!』
『早い話が、権力の有る我が儘なロリババアですよ!』
『だ、誰です!対応に気をつけるように言ったでしょう!』
「私です!」
「……も、もしかして、ドライト様ですか?」
「その通りですよ!」[ガシ!]
そう言ってアルレニスの頭にしがみついたのはドライトだった。
アルレニスがハザとのラインを使って行っていた内緒話に、アッサリと割り込んで、ハザの筆頭眷族神のアルレニスの頭に気づかれることなくしがみついたので、他の眷族神達も驚き戸惑っている。
何故なら……ベビードラゴンに相変わらず偽装していたからだ!
「あ、内緒話はしない方が良いですよ?
ユノガンド様もあなた達の盗み聞き位、楽にでますからね?」
「「「!!」」」
そう注意されてアルレニスや眷族神達は、やはり並みの存在ではないと再認識すると共に、ユノガンドがニヤァっと笑っているのを見て戦慄するのだった。
「なんにしろ皆さん改めてご挨拶します。
勇者召喚に偶然、それはもう仕方なしに巻き込まれたドライトです!」
「同じくユノガンドじゃ!
強烈な吸引力じゃた……わらわでも耐えられんほどにな!」
『『『嘘つけ!』』』
ハザにアルレニス、眷族神達はそう思ったが口に出す訳にもいかず、なんとも言えない視線を送るのだった。
「なんにしろ召喚されたんですからこの世界、アルレニアを堪能させてもらいますよ!」
「うむ、接待なんぞはせんでよい……自由に遊ばせてもらえばな!」
ドライトとユノガンドはそう言って高笑いするのだった!
「今のが記録映像です、1メートル程のドラゴンにみえるのが銀龍ドライト様で、10~2、3歳の女の子にみえるのがユノガンド様です……苦情、言ってみますか?」
アルレニスはそう言い、祈るように手を組み星司達を見つめると、それに対して星司達は全員で叫ぶ。
「「「遠慮しておきます!」」」
星司達全員の心が一致した瞬間だった。




