勇者召喚
「……暇ですよ……暇ですよ!」
「ドライトよ、何か面白い事が落ちてないのかのう?」
「そんなもんがそこら辺に転がっていたら、私が真っ先に拾っていますよ!」
「それもそうじゃな……」
現在俺は竜人の街であるアズラの家で、ゴロゴロしていた!
「むぅ……またエルナルナ達をからかいに行くかのう……?」
「止めといた方が良いですよ、それで昨日追い出されたんですから……」
「そうじゃった……」
なんでユノガンド様も一緒にゴロゴロしているのかと言うと、あまりの暇さに昨日、仕事中のエルナルナ達をからかって神都メルクから追い出されたからだった。
「メルクルナも怒っていたからのぅ……」
「サボり魔のメルクルナさんですが、仕事をやり始めると真面目ですからね」
「はぁ……そうなると本当にやる事がないのぅ……
そういえばドライトよ、シリカ達やキャロ達はどうしたのじゃ?」
「キャロ達の鍛練に行きました……私を置いてきぼりにして……」
「なんじゃ、見捨てられたのかの?」
「ちょっとふざけただけなのに……」
「ふむ……ならおぬしも今日は行かない方がよかろうな……しかしそうなると本当に暇じゃな?」
「はぁ……ステラとルチルも父様と母様とお勉強中ですし、本当に暇で……んん!?」
「うん?どうかしたのかの?」
「面白レーダーに感有り!
面白レーダーに感有り!何か面白いことが起き始めてます!」
「なんじゃそのレーダー!
そっちの方が気になるんじゃが!?」
「これは召喚術ですよ!
勇者召喚をどっかの知らん人が、やろうとしています!」
「おお!それは面白そうじゃの!」
「召喚術に介入ゲフンゲフン!巻き込まれました~!」
「……なんと言う事じゃ、わらわまでも~!」
こうしてドライトとユノガンドは勇者召喚されたのだった。
「うう……ここは?いったい、何が?」
「星ちゃん、気がついた?」
「香織姉?あれ?教室に居たはずじゃあ……」
「うん……向こうに朝日君達も居るから、行こう?」
「ああ……ってか、ここどこなんだ?」
俺は手を引いてくれる香織姉、いや、有城香織先生に着いていきながら質問するが、香織先生はその質問に答える事なく朝日達の方に向かう。
そこには4人の男女が固まって何かを話していた、その4人は俺の幼馴染だったが、高校に入るのと同時に疎遠になった4人だった。
朝日 善和
俺達の通う学園の生徒会長で、イケメン、文武両道のリア充だ。
甲本 弘志
スポーツはなんでもござれで、特に武道に関しては朝日も敵わない程の腕の武道家。
牧野 円
ショートカットのしゃきしゃきした子で剣道部、スタイル抜群の美少女だ。
ちなみに彼女とは色々有って特に疎遠になってる。
岡山 梨花
肩まで有る黒髪が綺麗な日本人形の様な美少女で、茶道部や華道部などの部長をしていて、朝日とは試験のトップ争いをするほど、ある意味の天才。
そして俺の手を引きながら、おどおどと歩くのが
有城 香織
俺達より5つ上で、俺達が子供の頃はよく面倒をみていてくれた、お姉さんで、俺達は香織姉と呼んでいる。
今年からうちの学園に教師として赴任して、1ヶ月も経たずに人気ナンバー1教師になった、おっとりしているが芯が強い頼れて、ポニーテールが似合う姉って感じだ。
そしてそんな香織姉に手を引かれて、朝日達の方に歩いて行くのが俺
灰谷 星司
朝日達とは幼稚園どころか、生まれた病院まで一緒の腐れ縁、いわゆる幼馴染ってやつだ。
だが、中学卒業の時にちょっとした大事件が有って、朝日達とは疎遠になっていたが、香織姉の仲介で少しづつ昔の様に接する様になってきたところだ。
全員が高校2年生で、香織姉が大学を卒業したばかりの新任教師だ。
そんな俺達6人は石造りの部屋の中に居て、俺はどうやら気を失っていたようだった。
「とりあえず様子をみてるしか……お?星司!気がついたか!」
「ん?星司、大丈夫か?お前、小1時間は気絶してたぞ?」
「……なによ、だらしない。
それに何、香織姉に手を引かれてデレデレしてるの?子供じゃあるまいし!」
「星司さん、頭は大丈夫ですか?」
朝日、弘志、牧野、岡山が心配して声をかけてくる……牧野と岡山は心配してくれてるんだよな?
「ああ、少しフラつくが大丈夫だ。
それよりここは……?」
俺はそう言いながら周りを見直す。
先程も言ったが俺達が居るのは石造りの部屋だった、広さは体育館程もあり、天井は普通の体育館の倍以上有るように見える。
そんな部屋のほぼ中心に俺達は集まっていた、そして朝日達は俺より早く目覚めたのか、元々気絶していなかったのか。
何にしろ起きていたならこの部屋の中を探索しているはずだったので、そう聞いてみるが。
「分からん、いくつか扉も有るんだが開かないんだ」
「窓も無いんだよ、ただ扉の外に人の気配が有るんだよな?」
「ってか、あたし達にも訳が分からないのよ?
確かに学校の教室に居たはずなのにさ」
「それと星司さん、下を見てください。
見覚えないですか?」
「下?」
そう言われて初めて床を見る、そして思い出した。
「……これ、あの時の魔方陣か!?」
俺は岡山の言葉に気絶する前の事を思い出す。
「さてと、授業も終わったし帰るか!」
「あれ?星司もう帰るのか?
今日は皆で駅前の新しいカフェを見に行こうと話してたんだよ」
「ああ……あそこか……
悪い!今日は前から欲しかった本の新刊が出るんだよ、それを家でゆっくり読むつもりでさ」
「へー?お前が夢中になってるやつだよな?なんて本だったっけ?」
「ああ、転生したらスライムぽい生き物だった事って言う、俺がなろう系の小説にハマったヤツでな?
内容が―――」
「おいおい、本は良いのか?」
「そうだった!じゃあ先に帰るわ。
あ、香織先生、お疲れ様でした~」
俺が荷物をまとめてると、教室に香織姉が入ってきたので、挨拶すると香織姉は「もう!さようならでしょ?」っと言いながら朝日達の近くに有る教師用の机の側に行った瞬間だった。
「な、なんだこれ!?」
弘志の叫びを聞き、教室の扉を潜ろうとしていた俺が振り返ると、教室に魔方陣が現れていた。
「な!?」
そして凄まじい光に包まれると同時に、俺は頭に衝撃を受けて意識をうしなったのだった。
俺がここに居る理由を思い出すと共に、その事に違和感を感じた俺は思わず漏らす。
「……勇者召喚ってやつか?ってか、なんで俺までここに?」
俺のつぶやきに朝日と牧野が反応する。
「勇者召喚って、お前が読んでるラノベとかのか?
シチュエーションを考えると、分からんでもないが……本気か?」
「ってかさ?なに?あんた自分だけ助かりたかったの?幼馴染を見捨てて!?」
牧野が俺を睨み付けながら詰め寄ってくる、俺はその迫力に思わず昔の呼び方をしながら説明する。
「ま、円、違うって!
あの時の……魔方陣が現れた時の事を思い出してみてくれって!」
あの時、朝日達は日当たりの良い窓の側に居て、香織姉もそのすぐ側に有る教卓に居た。
そして魔方陣は明らかに朝日達を中心に現れていたのだ。
「……別に魔方陣が作れる訳じゃないけど、あの紋様とか見ると、お前らが中心ぽかっただろ?」
「そう言えば……」
梨花があの時の事を思い出してつぶやく、だが弘志が納得がいかない様で聞いてくる。
「だからって、なんで星司は自分が居るのがおかしいって思ったんだ?」
ちなみに円は「久しぶりに名前で呼んでくれた……」っと、訳が分からない事を言って、ボーっとしている。
「……思い出せよ?俺は教室の後ろの出入り口に居たんだぜ?
で、お前らと香織姉以外に、教室に誰も居なかったのか?」
「「「あ!」」」
そう、ホームルームは終わったばかりで、朝日達と俺の間にはまだ何人も生徒が居たのだ。
「こう言っちゃなんだが、香織姉がここに居るのは納得出来る、朝日達の側に居たから巻き込まれた。
それか、性格も能力も問題ないから選ばれた、じゃあ俺は?
朝日達から1番離れて居たのになんで?
能力的に選ばれたんなら他のやつは?俺みたいに選ばれても、おかしくないやつが何人か居たろ?」
俺の言葉に朝日達は、そう言えば変だと言い始める。
うちの学園は私立の進学校なので、お坊ちゃんお嬢ちゃん達か優秀な特進の人ばかりだ。
面接も厳しいので性格的にも問題ないやつがほとんどなのである、なのに俺と朝日達の間に居た奴等は居ない様で、弘志がすみずみまで見たからこの部屋には他に誰も居ないと言って、不思議そうに首をひねっている。
朝日達に巻き込まれたのなら俺が居るのはおかしい、能力なら俺以外が居ないのはおかしい。
その事が不思議で皆で首を傾げていると、ドアが突然開きその向こうから話しかけられたのだった。
「勇者様方、たいへんお待たせしました。
私達の召喚に応じてもらい、ありがとうございます。
私達が勇者様方を召喚させていただいた、フォルセクル王国の者です……」
そう言いながら部屋の中に入ってきたのは、まさに異世界の王女様と言う感じの、青い瞳に腰まで有るピンク色の髪の綺麗な美少女だった。




