ドライトのご褒美
遅れてすいません。
チャポン!
少し大きなと共に、焔の結晶が入った袋は湯船に沈んだ。
そしてキャロリン達は、何が起きたのか分からずにそれを見ていた。
「……え?」
「……嘘だろ?」
そして湯船は少し光り、袋が落ちた辺りでボコボコと泡が出るが、10秒も経たずにそれも収まる。
皆が呆然として見守るなか、キャロリンがフラフラと湯船に近づこうとしたが、ドライトがそれを遮った。
「キャロ、そんなことよりせっかくですから背中を流してください!
何度も洗ってるんですが、まだ汚れてる気がするんですよ?」
ドライトはキャロリンに背中を向けて、洗ってくれ言う。
「そんな―――こと?」
キャロリンは信じられないとドライトを見て、フルフルと怒りに震えている。
だがドライトはそれに気がつかずにまだ背を向けて、「早く早く!」っと背中を流すようにせがんでいる。
「―――ドライト様!」
それを見たキャロリンは思わず叫ぶ、だがドライトはその声に逆に威圧を混ぜて怒鳴った。
「キャロ!私は背中を洗えと言っているのですよ!?
なんで洗わないんですか!」
威圧を込められて怒鳴られたために、キャロリンも流石に何も言えなくなる。
「キャロさん……ドライト様のご命令よ、洗って差し上げて?」
「これが……運命なんだろ……」
ドライトのあまりの行動に動けなかったキャロリンの背中を押すように、クリスティーナとアッシャーが言う、その言葉に押されてキャロリンはポロポロと涙を流しながらドライトの背中を洗い始めた。
「キャロ様、私も、手伝います」
その姿にナタリーも手伝うと言って、手拭いを持ってドライトの背中を洗い始める。
「おお!ナタリーにも洗ってもらうと、2倍気持ちいいですよ!2倍です!」
そんなことを呑気に言うドライトの背中を、レイナ達や冒険者達だけてなく、エルナルナやシリカ達も殺気のこもった目で見始める。
「いや~、最初からキャロ達を呼べばよかったですね。
やっと綺麗に汚れが落ちた気が……あれ?」
キャロリンとナタリーかドライトの背中を洗い、湯で流すとドライトが何かに気がついたようにパタパタと飛びあがり、少女の像に近づいていく。
否―――それは像ではなく、フェルデーモンに凍らされた少女だった。
「あれは……あの婆さんの孫の……」
そう言って鉄腕のアーベルは悲しそうにする。
この少女こそダンジョンでアーベルが言っていた、毎日綺麗に孫を磨きに来ていて、綺麗になった孫を満足げに見ながら亡くなっていたお婆さんの孫娘だった。
「……豚コマ3キロ、キャベツ2玉、ピーマン20個に人参5本、麺50玉?」
少女のお腹の辺りを見てドライトはそんな事を言う。
少女のお腹にはマジックでそう書かれていたからだ。
「な!あの子は婆さんの意思を継いだ他の家族や、教会の者達が綺麗にしてたはずなのに!」
パドリックの叫びに冒険者達や教会関係者は困惑している、だがそんな叫びを無視してドライトが言う。
「な、なんで今晩の献立がここに!?
……あ、私が書いたんでした!
ちなみに夜は焼き肉です、この献立は締めの焼きそばのですよ!」
ドライトの言葉に冒険者達に教会の関係者、キャロリン達だけでなくシリカ達やエルナルナ達もさらに殺気だつ。
「……ドライト様?」
キャロリンが訪ねるように問うが、ドライトはそれを無視して少女の像に近づき、両手で持ち湯船に飛んでいく。
「チャーミーグリー……これ食器用の洗剤の歌でした!」
「ドライト様!」
ドライトは鼻唄を歌いながら少女を洗い始める、その光景を見てドライトを敬愛するキャロリンも、流石に怒気を込めてドライトを呼ぶ。
「なんですか?今ちょっと忙しいんですよ、ちょっと待っててください。
あと、あなたも暴れないでくださいよ、もう少しで綺麗になりますから!」
「ドライト様!こっちを……暴れる?」
冒険者達の中には武器に手をかける者まで出始める、そしてキャロリンが詰め寄ろうとした時だった。
「プハァ!何々!?あれ?あの化け物は!?そうだ、お婆ちゃんを迎えに行かないと!」
凍りついていた少女が復活した、そして今の状況に混乱しているようだ。
「な!?ど、どう言うことだ、何があったんだ!」
「あれ?アッシャー兄ちゃんに似たおじさんが居る。
あの、ここ何処ですか?もうすぐ夕飯だから、畑に居るお婆ちゃんを迎えに行かなきゃなんですよ?
そうだ、化け物が出たんですよ!でも居ないってことはおじさん達が倒してくれたんですか?」
「はは……おじさんか……俺だよアッシャーだよ、久しぶりだな!」
「え?アッシャー兄ちゃん?でも歳が……あれ?お婆ちゃん?私を綺麗にしてくれてて……あれ?綺麗になった。って言いながら、私の目の前で倒れて……私は助けようとしたけど、でも動けなかった……あれ!?」
少女はポロポロと涙を流す、そんな少女をアッシャーは優しく抱きしめる、他の冒険者達や教会の司祭やシスター達も集まり慰めている。
その光景をシリカ達やエルナルナ達が見守るなかでアンジュラがポツリと言った。
「……夫の出し汁……凄い」
その言葉にクリスティーナが反応した。
「あ!このお風呂、ドライト様のような力のある龍が入ったから、生命の泉になってるんだ!
……あら?でも生命の泉の水は別の所ので昔に試したような?」
クリスティーナの言葉にシリカが答える。
「これは……焔の結晶と反応したのね、魔法の泉になってるわ。
本来は焔の結晶を生命の泉に溶かす事により、凍らされた者を癒す薬になるんだけど……」
「夫の力でより強力になったのですわね、これでかなりの人数助けられますわ」
「流石ダーリンだな……ん?ありゃドライト大将か?」
カーネリアが見つけたのは何時もの飾り羽の着いた帽子を被ったドライト大将だった、服などの装備は脱いでいて手拭い片手に湯船に入っていく。
「くうぅぅぅ……良いお湯です!
総統、どうしたんですかこのお風呂!凄く気持ちよくなってますよ!?」
「ん?……焔の結晶が良い反応したみたいですね、なら、こうです!
ガオォォン!」
ドライトが一鳴きすると、風呂の四角に像が現れる。
羽を雄々しく広げるヤンバル、恥ずかしそうに羽で顔を隠すヤンバル、何かに驚き身をよじるヤンバル、無の心境で立つヤンバルの4つの像が現れたのだ!
何故ヤンバルクイナのヤンバルの像なのかは分からないが、すべての像の口からはお湯がコンコンと湧きだしており、すべての像が赤い水晶で出来ていた。
「どうですか?この像はすべて焔の結晶で出来ています!
しかもどっかの誰かが作った2級品と違い、1級品ですよ!だから効能はそのままで溶けません!」
「流石はドライト総統です!ここは銭湯にしましょう!」
ドライト大将がそう言うと、リティアがハッとして言う。
「ド、ドライト様!ここは私達も使っても構わないのですか!?」
「ダメです!」
「な!そ、そんな!?」
「こっちは男湯ですよ!?リティアは隣の女湯を使うのです!」
「へ?」
どうやらドライトは隣に女湯を造ったようだった、何にしろ使用許可は出たのでリティアは周りに指示を出す!
「み、皆様!凍った人達を湯船に浸けるのですわ!」
リティアの言葉に全員がハッとして、動き始めるのだった。
「……エマ」
「アッシャー……おじさんになっちゃって……」
皆が競う様に凍った人々を湯船に浸けていき、アッシャーの恋人だったエマも復活した。
「あなたって本当にバカなんだから……私なんか待たないで、誰か好い人と結婚すれば良かったのに……」
「……お前以上に……良い女に出逢えなかったんだよ」
「……バカ!」
アッシャーとエマは泣きながら抱き合い、熱いキスをする。
冒険者達もキャロリン達もそれを涙を流しながら見守っていると、セリオが近づいていき、1つの指輪を取り出した。
「アニキ、こいつは返しますぜ。
この指輪をはめて良いのは、1人しか居ませんからね?」
「これって……」
「エマ、こんなおっさんになっちまったが、受け取ってくれるか?」
「……バカ、本当にバカ!何時くれるのかって、ずっと思ってたんだから!」
「な、なんで知って!?」
「アッシャー、あなたその石の研磨とか、ギルドで頼んだでしょ?
それでさんざんからかわれたわ」
「う……」
「何にしろ、嬉しいよ?喜んで受け取らせてもらうわ!」
そう言うと、エマはムーンストーンの着いた指輪を受け取り、嬉しそうに自分の薬指に着けるのだった。
「ドライト様のおかけで皆が助かりましたね」
「ドライト様を怒鳴りつけようとした自分が恥ずかしいです……謝らなければ……」
「それで肝心のドライト様は何処に消えたんだろ?」
クリスティーナ、キャロリンが話していると、セイネが問いかけた、すると。
「あそこに居ますけど……揉めてるみたいですわ?」
リティアが少し離れたところ指差している、皆がそちらを見るとドライトが1人の男の子につきまとっていた。
「ください!ください!」
「やだやだ!あっち行け!」
ドライトは男の子の周りをうろちょろしながら、男の子がお腹の辺りで両手で隠すように持ってる何かを、欲しい欲しいと言い追いかけまわしていた。
だが男の子も余程大事な物なのか、必死に身を縮め隠しながらドライトから逃げようとしている、それを見ていたアーベルやパトリックが男の子を宥めて差し出すように言うが、男の子は絶対嫌だと言い張っている。
それを見たキャロリンとナタリーが慌てて駆け寄ると、ドライトをキャロリンが抱き抱えて捕まえた。
「ドライト様、こんなに小さい子を追いかけ回すなんて可哀想ですよ?」
「それに何が欲しいのですか?
私達が代わりに用意しますから、教えてください」
キャロリンとナタリーそう言われると、ドライトは手足をバタつかせながらリンゴが欲しいと言う。
「他のじゃ嫌です!その子が持ってるのが欲しいのですよ!
ください!ください!そのリンゴをください!」
ドライトはそう言って手を男の子に向けるが、それを見て男の子は騒ぎを聞き付けて近づいてきたアッシャーとエマの影に隠れる。
「アッシャー兄ちゃん、エマ姉ちゃん、助けて!
あのデブドラゴン、爺ちゃんが残してくれたリンゴを寄越せって言うんだ!」
その少年の祖父は、孫が元気に走ってる幻覚を見ながら亡くなった老人の孫だった。
そしてその老人は農家で、丹精込めて育てたリンゴの木が自慢だった、そして可愛い孫に毎年リンゴを与えては、孫が美味しい!美味しい!っと食べるのを見守るのが最高の幸せだった。
そしてそんな孫がフェルデーモンに凍らされたのは自分のせいだと苦悩し、リンゴを自慢していた自分に後悔し、最後は幻覚を見ながら亡くなったのだった。
何故か―――
家族全員で避難していたのに、何時の間にか孫が居なくなっていた、そして見つかった時には自宅の側で凍りついていたからだ。
その年の最後のリンゴの実を守るように抱えながら。
爺さんの息子や家族はあなたのせいじゃないっと言ったが、爺さんはリンゴなんか育てなければと後悔し、苦悩したのだ。
アッシャーは今でも昨日の様に思い出す。
爺さんの息子、男の子の父が葬儀の時に、父は最後には笑いながら逝けたと、泣き笑いながら言っていたのを。
「ドライト様、リンゴなら私が買ってきますので、このリンゴは諦めてください!」
「そうですよ!代わりにバナナをあげますから!」
キャロリンとナタリーにそう言われたドライトは、とうとう怒りだした。
「なんですか!なんですか!
私にもご褒美があったって良いじゃないですか!
泥の中を潜ったんですよ!
ついでに、たまたま近くに居たノーライフキングを討伐したんですよ!
少しは労ってくれても良いじゃないですか!プンプンです!」
そう言ってドライトはまたも手足をバタつかせる、すると男の子がやって来てドライトにリンゴを差し出した。
「……やるよ!」
男の子の後ろでアッシャーにエマ、ドライトに解凍された少女、ラダが居た。
どうやらそのラダが説得したようで、本人は納得してなさそうだがリンゴをドライトに差し出している。
「ラダが言うからやるんだからな!
特別だからな!」
そう言って男の子、マルコは泣きながらドライトにリンゴを差し出したのだった。
マルコがリンゴを差し出すと、ドライトはキャロリンの腕からスルリと抜け出して、マルコの前に行き口を開いて待つ。
マルコは憮然とその口の中にリンゴを放り込む。
ドライトはリンゴが口の中に入るとシャクシャクと食べ始めた。
「…………!………………!!」
するとドライトは目をキラキラと輝かせ、両手で頬を持つようにしながら声もなく食べてしまう。
「………………美味しかったです!
リンゴも1級品でしたが、なんと言ってもたくさんの想いがこもってました!」
そう言って満足げにマルコを見る、マルコは褒められて嬉しそうに言う。
「爺ちゃんのリンゴだからな!世界一だ!
もう食えないんだけどな……」
そう言って項垂れたマルコに、ドライトがニコニコしながら言う。
「そうですか……それは残念です。
ところでこんなに美味しいリンゴをいただいたんですから、ご褒美をあげないとですね?
私に出来る範囲の事なら叶えてあげます、あなたの願いを言ってみてください?」
ドライトの言葉に、マルコは何を言ってるんだと睨み付ける。
マルコから見ると、ドライトは灰色の1mほどの小さなドラゴンにしか見えないからだ、そんなのが願いを叶えてやる?子供だとバカにしてるのだろう。
そう思ってマルコは言い放つ。
「なら……なら爺ちゃんに会わせてくれよ!」
「構いませんよ?蘇生させれば良いのですか?
あなたのお爺さん“だけ”復活させれば良いのですね?」
ドライトはそう言ってラダ見る、最初は蘇生してあげると言いながらそんな反応を見せるドライトに、マルコは子供ながらに理解した。
自分より2歳歳上のラダも大好きな祖母を亡くしている、しかも目の前でだ。
動けなかったが、うっすらと意識が有ったのでラダはその時の事を覚えている、そんなラダだって祖母に会いたいだろうに、自分だけが会うのか?このデブドラゴンはそう言って自分を責めて、諦めさせるつもりなのだろうと。
だからマルコは言い換えた、絶対に叶えられないだろう願いに。
「みんなだ……みんなを助けてくれよ!
あの頃の……僕が凍らされる前の幸せな頃に、戻してくれよ!」
マルコがそう叫び、ドライトを見るとその姿に驚いた。
ドライトは先程までの小さなドラゴンの姿ではなく、20mを越える銀色に輝く本当の姿になっていた、そしてマルコだけでなくその場に居る者達を見て目を細めて聞く。
「その願いで良いのですね?」
「……え?」
「その願いで良いのかと聞いているんですよ?」
「で、出来るの?
なら……なら、お願いします!」
マルコがすがるように言うとドライトは力を解放しながら言い放つ。
「良いでしょう!
あなたの……あなた達の願いを叶えてあげましょう!」
銀龍ドライトの輝きが目を開けていられないほどになる、エルナルナが「ドライトさん、それは!」っと止める様に声を出すが、光は爆発した様に室内を満たし、全てが銀色の光に飲み込まれたのだった。
「ここが恩寵の泉です、先程も言いましたが20年ほど昔に討伐された、フェルデーモンに凍らされた人達を癒すために現れた泉です」
「クリスティーナ先生達がフェルデーモンを討伐する前から、在ったんでしたっけ?」
「ええ、一説によると、銀色の光と共に現れたと言われています……銀色?」
「泉というかお風呂の四角には、謎の鳥の像が……あれ?ヤンバル?」
クリスティーナが銀色の光と言ったあと、不思議そうにドライトを見て、アサミが謎の鳥の像を説明しようとしてステラに抱っこされた、ヤンバルクイナのヤンバルを見る。
「……ドライトさん、これは問題よ?……ほら来た!」
「ドライト!お主何をした!?」
「ユ、ユノガンド様……」
エルナルナが問題だと言うとのとほぼ同時に、ユノガンドが転移陣を使ってやって来てドライトを睨み付けて詰問してきた。
「おや?ユノガンド様ですか?
祖父ちゃんか祖母ちゃん達が来るかと思ったのですが」
「他の原始の神々や龍神達に、身内だからダメだと止められたのじゃ。
なんにしろドライトよ、言い分が有るならわらわが聞いてやろうぞ?」
「言い分ですか?こんなのでどうですかね?」
ドライトはそう言うと何かの本を取り出し、見たものを他の神々と共有出来るメルクルナに見せつけた。
「おぬしこの間もその本を取り出してなんとかしておったが、今回はそうはいかんぞ?」
ユノガンドがそう言うと、ドライトはさらに何冊かの本と何かの魔道具を取り出す。
「だから無駄じゃと、大人しく叱られに……赦す!?
なんか、うるさい奴らがこぞって赦すと言っとるし、中には祝電を送っておる奴も居るんじゃが!?」
「そうですか、問題なくなりましたね!」
「ちょっとドライトさん!本当に何を、どれだけつかんでるのよ!?」
「わらわに何冊か見せるのじゃ!」
エルナルナは完全に呆れながらそう言い、ユノガンドは見せろ!っと、飛びかかるがドライトは素早く自分の亜空間にしまってしまう。
「ドライトよ?せめて1冊ぐらい見せてたもれ」
「嫌ですよ、ユノガンド様はそれで脅す気満々でしょう?
他の方々に迷惑かけられません!」
「おぬしとて脅しておったではないか!」
ドライトとユノガンドがギャーギャー言い争いながら歩いて行く、キャロリン達はシリカ達やエルナルナ達に質問しながら着いていく。
「あの……ドライト様は何かされたんですか?」
「それに私達、何か大事な事を忘れているような気がするんですよ……」
「ナタリーちゃんも?アレナムにリティアちゃんもでしょ?
私もんなんだけどさ……」
「うん、あのヤンバルの像、前にも見た気がするのよ……」
「そうなんですわ……でもどこで見たのかが思い出せなくって……」
「アレナムさんとリティアさんは、以前にお兄さんの関係で来たことが有るからかもしれませんが、私も見た気がするんですよね……」
「流石キャロちゃん達ね?ドライトの力でも、押さえられずに気がつき始めてるわね……」
シリカは質問に答えずに、そんなことを言いながら階段を上がっていく、先頭にはやたらと機嫌の良いメルクルナがドライトを頭に乗せて歩いていく。
そして階段を上りきり教会の礼拝所に上がってくると、丁度近隣の村の子供が祝福を受けていた。
「うーん?ドライト様、何か重要な事が、あれ?」
「キャロ様、どうかしたんですか?」
「……あの人、見覚えがある気がする」
「ん?……本当だ、私もするわ」
そう言ってキャロリン達が見つめたのは……アッシャーだった。
「あれはアッシャーさんですね、奥様と後輩の夫婦とで、Aランクになった有名なパーティー、ムーンストーンのリーダーですよ?」
「昔に学園長がフェルデーモンを討伐した時にも、活躍したんですよね?」
「ええ、故郷の村を守るために身を挺して……あら?ブレスを防いだのは銀色の龍の羽……あら!?」
クリスティーナが討伐した時の頃を思い出していると、不思議そうにドライトを見始めると、
「……早く外に行くのです!帰って夕飯の焼き肉と焼きそばの用意をしなければなのですからね!」
ドライトは誤魔化すように急かし始めた、だがそんなドライト達に立ち塞がる者が居た。
「……ドライト様、ドライト様ですね?」
「マルコ、あなた何をしているの?」
「父ちゃん、どうしたんだよ?」
立ち塞がったのはマルコだった、その姿は子供ではなく、20代半ば過ぎだった。
隣には妻だろうか、同じ年頃の女性が立っていて、右手に赤ちゃんを抱っこしていて左手には7~8歳の男の子を連れている。
その女性はラダと周りに呼ばれていた。
「どうしたんだ、マルコ?
……嬢ちゃん達?」
「あなた方は確か龍の踊り手の……前にも会ったことあったかしら?」
そこにアッシャーとエマもやって来る、2人も数人の子供を連れているがどうやら孫のようで、子供達に爺ちゃんや婆ちゃんと言われている。
だがそんななかでマルコはドライトとメルクルナの前に行くと膝まづき、リンゴを差し出した。
「父ちゃん!そのリンゴは今年の1番のデキのじゃないか!」
「マルコ、毎年1番良い物を残して助けてくれた神に捧げないと、っと言っていたのにどうしたんた!?」
マルコの息子と父が驚いているが、マルコはそれを無視して片膝をついてリンゴを捧げ持ち言った。
「私達を助けてくれた神よ、あの時のリンゴに及ぶか分かりませんが、このリンゴを捧げます……」
その言葉にドライトは軽く目を見開き問いかける。
「……覚えているのですか?」
「……私を、皆を家族と再開させてくれたのに、忘れる事が出来るでしょうか?」
そう答えたマルコをドライトは目を細めて見ている、するとユノガンドが言う。
「……人の想いの強さは、時に我等の想像を超えるのう」
ユノガンドのその言葉にアッシャー達も何かを思い出したように膝付き始める。
「そうだ、エマを助けようと……ドライト様が……!」
「私は凍っていて、アッシャーはおじさんに……指輪をくれて……!」
「鉄腕の親父達が凍って、俺の腕も……恩寵の泉が……腕も偶然見つけたエリクサーが……偶然?」
「ラダを綺麗していて倒れて……綺麗な銀色の光が……」
「孫は……マルコは元気に走り回って……玄孫まで……」
そう言って教会に居た人々はドライトな向かって次々と膝まづき、祈り始めている。
そんな人々を、マルコを見ながらドライトは言う。
「リンゴのご褒美だったんですが……アッシャーさん達にはキャロ達もお世話になりましたしね……
なんにしろ、また私に捧げてくれると言うなら、ありがたくいただきましょう……ご褒美はもうありませんがね?」
ドライトはそう言って、いたずらっ子の様な笑みを浮かべながら、リンゴに手を伸ばす。
そして―――
リンゴを受けとるのだった―――
メルクルナが!
「シャクシャク……美味い!本当に美味しいわ、これ!」
「………………何してくれやがりますか!?」
[ドガアァァン!]
「アンギャアァァァ!?」
メルクルナがシャクシャクとリンゴを食べるのを呆然として見て居たドライトだったが、正気に戻ると激怒してメルクルナの頭にシッペを叩き込む!
メルクルナが死ぬとリンゴはメルクルナの手を放れるが、それをユノガンドが素早くキャッチする。
「シャクシャク!おお!確かに美味い!
リンゴも1級品だし、想いもこもっとる……特にメルクルナが食べたところが極上じゃ!……ん?「そりゃあ!」ギャアァァ!?」
そしてワザワザ、メルクルナが食べたところに噛りつくと美味いと褒めていたが、チエナルナが7色に輝く液体の入った注射を射そうとすると慌てて回避する!
「チ、チエナルナ!なんじゃそのヤバそうな薬は!禿げ薬か?原始の神にも効く禿げ薬なのか!?」
「ロリババア!そのリンゴを寄越せ!」
「マリルルナもか!?
だがおぬしらが食べたいところはもう残っとらんぞ?」
ユノガンドがそう言ってリンゴをマリルルナとチエナルナに見せる、するとメルクルナが口をつけたところはユノガンド綺麗に食べていた。
「「ババア!」」
「せめてロリはつけい!ん?……殺気!?」
流石は腐っても原始の神であるユノガンド、背後に迫っていたドライトに気がつき攻撃を回避する!
「ふん!その様に殺気を漏らし……お、おぬしその青竜刀はなんじゃ!?」
ドライトはハァハァ言いながら、青竜刀を持ってユノガンドにジリジリ迫る。
「……リンゴの皮を向くための物です……ハァハァ!」
「な、ならなんで息が荒いんじゃ!?」
「……皮を向くのは初めてですからね……皮を!」
「リンゴじゃよな!リンゴの皮じゃよな!?」
「ドライトさん、手伝うわ!」
「頭皮は諦めろ!」
「……撤退じゃ!」
「「「待て!」」」
ユノガンドは壁をぶち抜き逃げ出す、それを怒りに燃えたドライトとマリルルナとチエナルナが追いかける。
「上司としてあなたが責任を取りなさい!」
「1番食いたいところを独り占めしやがって!」
「ユノガンド様!効くかどうか分かりませんから!
可能性は9割ですから!禿げるのは!」
「く、来るでないわ!特にチエナルナはその注射器を捨てるのじゃ!」
突然始まった追い駆けっこ、その後をシリカ達やエルナルナ達がため息をつきながら追いかける。
「お、お待ちください!」
「ドライト様!何があったのか教えてください、大分思い出しましたが!」
その後をキャロリン達やクリスティーナ達が追う。
外は夕日に照らされて赤く染まりつつあった、そのなかを駆けていくドライト達に向かって、アッシャーもエマ達冒険者も、マルコにラダ達村人達も頭を垂れて何時までも感謝を捧げるのだった。
「……あれ!?焼き肉と焼きそばわ!?」
ちなみにメルクルナが目覚めたのは、焼き肉と焼きそばが食い尽くされてからだったそうな。
色々悩んだんですが、この章はこんな感じで終わりにしたいと思います。




