ダンジョン最深部へ
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↑に登場人物の設定などがあります。
キャロリン達は深緑のダンジョンに入って2週間目には45層まで来ていた、中級者向けのダンジョンとは言えその速度は異常だった。
アッシャーは何度も急ぎすぎだ!っと注意していたし、最初は宿星の絆達も付き合いきれないと言っていたのだが……
「ヌンウゥゥン!」
「オラァ!?」
「嬢ちゃん達は右を頼む!」
「かしこまりました!」
「ナタリーとレイナは壁になってて!」
「私とキャロの魔法で一気に殲滅しますわ!」
2、3日もすると一緒に奮戦していた、アッシャーはオーバーワークになると怒っていたのだが、今は苦笑してモンスター部屋のモンスターを殲滅している2つのパーティを眺めている。
Aランク間近と言われ期待の若手である宿星の絆、銀龍ドライトの子飼いで、それぞれが龍の祝福を受けている龍の踊り手。
その実力は深緑のダンジョンに湧くモンスターを、歯牙にもかけなかったのだ。
「あーあー、トロルも相手にならんか、オークが約30にオーガが3、トロルが4体居たが5分ともたなかったな……」
だが、アッシャーはモンスターを倒し終わったメンバー達がキョロキョロと周りを見ているのを見て眉をひそめた。
そして注意しようとした時。
「セイネちゃん、宝箱!」
「ギルバート!こっちにもだ!」
「よっし!……うん、開いたよ!」
「ホイきた!……罠無し、開いたぜ!?」
セイネとギルバートが早速宝箱に取りつくとアッという間に開ける、それを見ていたアッシャーは怒ろうと口を開くが―――
「2人共、こっちにもだ!」
「ナタリーちゃん、頼んだ!」
「ジョナサン、確認しといてくれ!」
セイネとギルバートは宝箱を開けた後、確認もせずにもう1つの宝箱に向かってダッシュしたのだった。
「てめえらバカか!?それとも死にてえのか!」
アッシャーはカンカンになって、次の階層に向かおうとする2つのパーティを怒鳴りつけていた。
アッシャーは最初、この2つのパーティがダンジョンの走破速度を競っているのかと考えていた。
だが40層目に入った辺りから2つのパーティの動きが一変した、モンスターを手当たり次第に倒して宝箱は全て開けはじめたのだ。
下に降りるスピードはもちろん落ちる、なので走破速度を競っていたわけではない事に気がついたのだが、今度は根こそぎ宝箱を開けだしたのだ。
もちろん冒険者なのだから宝箱を見つけて開けるのは当たり前である。
だがベテランのアッシャーに言わせれば、無視する宝箱や放置した方が良い宝箱も有るのだ、そして開ける時の姿勢もアッシャーは問題視していた。
「モンスターの残党が居ないか確認はしない、開けてる奴のカバーはしない、極めつけは2人で罠のチェックをしないで他のやつに開けさせる!
お前ら何を考えていやがるんだ!?」
もし1つのパーティに解錠や罠の探知スキル持ちが複数いたら、その全員で宝箱の罠の有無を調べるのが常識だ。
だが宿星の絆も龍の踊り手達も、1人が調べるだけで開けるのも他の人間に任せるという非常識な事ばかりしていた。
「こんなんじゃ死にに行くようなもんだ!
1度ギルドに戻って「アッシャーさん!」……なんだ?」
「約束……しましたよね?」
「!……忘れてねぇよ!
ッチ!何だってあんな約束をしちまったんだ俺は……」
キャロリン達は10層を出る日にアッシャーと、とある約束をしていた。
それはと言うと―――
「このダンジョンを攻略するまで、必ず一緒に居て欲しい?」
「……はい、私達にはアッシャーさんの経験が必要なんです。
だから……このダンジョンを攻略するまでは、必ず一緒に行動すると約束をして欲しいんです」
「変な約束だな……まぁ良いぜ?頼られるのは嬉しいからな」
「アッシャーさん、顔が赤いですぜ?」
「パトリック!アホなこと言ってないでキャンプの片付けしとけ!」
これがセリオからアッシャーの話を聞いた翌日の事で、その5日後には、
「アッシャーさん、俺達とも約束をしてくれねえか?」
「ん?なにをだ?」
「嬢ちゃん達と約束をしてたじゃないか、あれを俺達とも約束してもらいたいんだ」
「……ああ!必ず一緒に攻略するってやつか!
なんだ?お前らまでなんでそんなことを言い出すんだ?」
「……いや、嬢ちゃん達に負けてられねぇって思い始めたんだ、頼むよアニキ!」
「わ、分かったから拝むな!
まったく、なんだってんだ……」
宿星の絆とも、約束をさせられたのだ。
その後は階層を強行突破していき、40層からは徹底的に探索をしてからでないと降りなくなったのだ。
『こいつら何を考えるんだ?
パトリックはもちろんキャロの嬢ちゃんも慎重派なのに、無理な強行突破をしたかと思えば徹底的に宝箱を漁る。
しかもいい値で売れる物やレア物が出ても、全然嬉しがらねぇ……まさか、あれを探して……いや、まさかな』
アッシャーはモンスターを殲滅して進む、2つのPTの背中を首を傾げながら追いかけるのだった。
「ここが最下層ですか……」
「ああ、で、この奥にボスが居るはずだ……」
「ここのボスって確か……」
「ミスリルゴーレムだな、俺達なら問題ないが……」
「時間が、かかっちゃうよね……」
あれからさらに5日経った、キャロリン達は1日に1層と言う驚異的な速度で各層の探索をして、宝箱を漁るだけ漁って最下層のボス部屋の前まで到着していた。
「パトリック!こいつはどう言うことなんだ!」
「……何がですか?」
「こいつの、こいつ等の事だ!」
アッシャーは頭を抱えながら周りの者たちを指差す!
「なんでぇ、アッシャーはなんか文句あるのか?」
「煩いわね、これからミスリルゴーレムとの戦いがあるってのに」
「アニキ、お疲れなんじゃないですかい?」
「こ、こいつら!?」
アッシャーを中心に冒険者達が50人ほど立っていた、しかもその全てがAランクとBランクばかりだった、キャロリン達が46層に入ってから1つ、また1つとやって来ては宿星の絆と龍の踊り手に合流して、各階層を突破したのだ。
「セリオ!てめえもなんで居る!しかもチェレステまで連れてだ!?」
「い、いやそれがですね?」
「私が頼んだです、理由は……」
「もういいチェレステ、アッシャー、この面子を見りゃ皆が何しに来たか分かるだろう?」
そう言ってアッシャーの前に立ったのは、右腕が付け根から無い男だった、その雰囲気から歴戦の冒険者だと言うのがよく分かる男を見て、アッシャーはポツリと言った。
「鉄腕のアーベルか……久しぶりだな?」
「ボケっちまったのか?先月会っただろ?」
そう言いながら鉄腕のアーベルと呼ばれた男は義手を自分で着けていき、アッシャーに文句を言う。
「おい、アッシャーよ、おめえ俺を殴ったのを忘れた訳じゃねぇだろうな?」
「ありゃ、おめえが……」
「そうだ、俺を逃がしてくれた先代の鉄腕のアニキ、いや親父だな。
その先代の鉄腕の親父のお嬢さんが、右腕を無くして仲間も親父も失って荒れてた俺を、献身的に支えてくれて結婚してくれた、そんで子供が生まれて幸せな家庭をつくれた。
見せかけだけの……な、お嬢は、女房は、何時か俺が、俺達が親父を助けてくれるって信じてた。
それができねぇ俺はまた荒れに荒れたろ?」
「アーベル……」
「ああ、それでお前に殴られたんだ、お前に殴られた顔を女房に見せたら女房は笑いながら、泣きながら言ったよ、子供を、孫を見せてやれなかったのは心残りだ。
だけど冒険者の娘なんだからとっくに覚悟は決めてた。
でも父さんは最後に最高のものを残してくれた。
最高の夫を、ってな?
そんできっつい一発を俺にくれやがった、エマの事も考えろ、バカ夫!てな」
「………………」
「は!よーするに俺は自分で自分を追いこんで、諦めてたんだ!
俺にはまだ仲間が居た!愛してくれる女房が居る!子供達だって居るんだ!
そんな俺が諦める?
凍った孫を毎日綺麗に拭いてて死んでた婆さんは?
孫が元気に走ってると言いながら、笑いながら死んだ爺さんは!?
俺は恵まれ過ぎてるだろ!?
そんな俺が勝手に自滅して、諦めた!それを助けてくれたのは誰だ!?殴ってくれたおめえじゃねえか!」
「………………」
「アッシャーよ、鉄腕の親父と会ってきたよ、女房にガキ共を連れてな。
親父に孫だって見せたら、嬉しそうな表情してたぜ?もうすぐ死ぬなんて思えないほどにな!
……足掻こうぜ?足掻こうぜ、アッシャー!
1番足掻いてたお前が諦めるなんて、諦めた俺の目を覚ましてくれたお前が諦めるなんて!
……そんな寂しいこと言うなよな?」
「アーベル……おめえ……」
「アニキ、俺はこれでもBランクなんだぜ?
アニキから見たらまだまだなんだろうけど……Bランクなんだ、足掻けるんだ!」
「子供達は実家にあずけました、ここで受けた恩を返さないと、利息だけで怖いことになりますからね、絶対に着いていきます!」
「……姉貴がよ、ますます綺麗になったんだ、親父とお袋は見れなかったけど、俺は姉貴の結婚式を見るぜ!」
「はん!うちの兄さんと付き合ってたからって、結婚するかは分からないだろ?
まぁ2人でかばいあって、抱き合いながら凍ってるんだもんな……」
「おめえら……バカだな、本当にバカだ……俺は……本当にバカ野郎だ!」
アッシャーはそう言うと、ワンワンと泣き始めた。
冒険者達もアッシャーを囲んで一緒に泣き始める、そんな光景をポロポロと涙を流しながらキャロリン達は見つめる、そんなキャロリン達にアッシャーが語りかけてくる。
「嬢ちゃん達、走破するまでは絶対着いてきてくれって約束は……」
「アッシャーさん、頑張りましょう!」
「私達も足掻けるだけ足掻きます!」
「私の感は鋭いって、よく言われるんですよ?
その感が告げてます、今度こそ出るって!」
「カーネリア様とメルクルナ様も、希望は捨てるなと言ってますよ?」
「焔のカケラ……出るまで帰りませんわ!」
「走破すれば、必ず出るはずです!」
キャロリン達がそう言ってアッシャーを励ますが、リティアが【焔のカケラ】と言う単語を言うとアッシャーはますます泣き始めて、
「焔のカケラ……そうか、知ってて……けど、違うんだ、違うんだよ!」
そう言って項垂れるのだった。
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