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お嬢さまと執事と…

お嬢さまと執事とリンゴ

ほんのちょっとだけむかしむかし、秋が過ぎ去った森の奥に とても可愛(かわい)いお(じょう)さまと顔の整った執事(しつじ)が、住んでいました。

お嬢さまと執事がくらすおうちは、それはそれは大きなお屋敷(やしき)で 本がたくさんあるお部屋(へや)立派(りっぱ)な お野菜(やさい)が育ってられる広い中庭(なかにわ)があります。


お嬢さまは、いつも本がたくさんあるお部屋で ご趣味(しゅみ)の本を読んでいる ある日のことです。

お嬢さまは、このまえ執事さんが買って来てくれた本を読んでいました。

その本のお話は、今までお嬢さまが読んだ本の中で一番か二番か三番くらいに面白い本でした。


本を読み()わるとお嬢さまは、あることを思い付きました。

とっても面白いことだったので、早速(さっそく)お嬢さまは執事がいるところへ向かいました。




中庭で執事がもう少なくなった落ち葉を()いているとお嬢さまが歩いてきました。


「執事さん執事さん!」


お嬢さまは、執事に言いました。


執事は応えて(たず)ねます。


「いかがなさいました?お嬢さま。お外着(そとぎ)着替(きが)えられて。」


お嬢さまは(こた)えてあげました。


「私は森をおさんぽに行ってくるのです。お留守番(るすばん)をお願いします。」


執事はそれを聞いて少し心配そうに言います。


「お散歩ですか。承知しました。お気を付けて行ってらっしゃいませ。」


「分かりました。気を付けて行ってきます。きっとお昼くらいには帰ってくるのです。」


お嬢さまは、(こた)えました。


それでも執事は少し心配そうに言いました。


「お昼ですね。時間をお忘れなきようご注意くださいませ。」


「はい。分かりました。行ってきます。」


お嬢さまは、はっきりと答えました。


「行ってらっしゃいませ。お嬢さま。」


そうして執事はお嬢さまを見送りました。




お嬢さまが、森にある一本道をテクテクと歩いていました。

森のところどころにある、実を結び終えた木々たちは、すっかり葉っぱを落として寒そうにしています。お嬢さまは、それをぼーっとした様子で(なが)めていました。


すると…


カサカサカサカサ


後ろのやぶの中から音がします。

お嬢さまは、そちらの方に目を向けました。でもそこには何も見当たりません。ですからお嬢さまは、安心して歩き出しました。


でも


カサカサカサカサ


またやぶの中から音がしました。

お嬢さまは、また音がした方を見ました。しかしその辺りにはなんにもありませんでした。お嬢さまは、気のせいかな と思って(ふたた)び歩き出しました。


しかし


ガサガサガサガサ


やぶの中から音がします。さっきより大きな音です。お嬢さまがまた同じ方を向くと…


「がおぉぉーーー!!」


やぶの中から大きなモノが現れて大声を出しました。


「キャーーーーーーーーー!!!」


お嬢さまは目をつむって悲鳴を上げてそして後ろに倒れてしまいました。そして逃げようとしました。が、さっきの大声は、どこかで聞いたことのある声です。お嬢さまは、恐る恐る閉じていた目をゆっくりゆっくり開きました。


お嬢さまが目を開くと そこには、森番さんがいました。

森番さんは、お嬢さまの住んでいる森の管理(かんり)をしている実に美しい女の人で、お嬢さまと執事の知り合いでもあります。


「こんにちは。お嬢ちゃん。」


森番は、あいさつしました。


「……。」


お嬢さまは、そのまま少し口を開けたまま森番を見つめています。


「ごめんね。おどろきすぎちゃったかな?」


森番さんは、お嬢さまの目の前で手を振ってみました。するとお嬢さまは、気が付いたようで


「こんにちは。森番さん。びっくりしちゃちました。」


と、応えました。


「あーよかったよかった。ごめんね。そんなにビックリするとは思わなかったから。」


森番さんは、わるいわるい と付け加えてお嬢さまに手を差し()べます。お嬢さまはその手を取って立ち上がりました。


「それでお嬢ちゃん、今日も また一人なの?」


森番さんが、尋ねます。


「はい。執事さんには一人でおさんぽするって言いました。」


お嬢さまは丁寧に言いました。


「一人でおさんぽ?危ないねぇ…本当に危ないねぇ…こんな森の中、一人で歩くもんじゃないんだけどねぇ…」


森番さんは、どこか遠い方を見てニヤニヤ笑いました。


「そうなんですか?執事さんは、心配そうでしたけれど行かせてくれました。」


お嬢さまは、ちょっと自慢気(じまんげ)に言いました。


「そりゃたまには外に出なくちゃ。と言ってもお庭だけじゃダメだぞ。」


森番さんは、今度はお嬢さまの方を見てニヤニヤ笑いました。


「森番さんは、言っていることがめちゃくちゃなのです。」


お嬢さまは、ちょっと不機嫌(ふきげん)そうに言いました。


「そんなものさ。さて、せっかくだしお茶を出してあげよう。さぁ私の小屋までかけっこだ!」


そういうと、森番は(いきお)いよく走り出しました!


「あ!ずるい!」


あわててお嬢さまも追いかけます!


「私に勝ったら、ごちそうをたくさんふるまってあげるぞ!」


走りながら森番さんが言います。


「ごちそう!?」


お嬢さまは、さらにスピードをぐんと上げて森番さんを追いかけます!


「わー!にっげろー!」


「まてー!」




それから数十分の時が過ぎてお嬢さまと森番さんは、小屋近くの(おか)到着(とうちゃく)しました。二人は、その丘で座っています。


「はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…」


お嬢さまは、すっかり息が上がってしまいました。


「よくついてこれたね〜。森番さんは感心しちゃったぞ。」


ぜんぜんつかれていない様子の森番さんは、ハンカチでお嬢さまのおでこをふいてさしあげました。


「でも追いつけなかったです。」


お嬢さまは、とてもくやしそうに言いました。


「そりゃ、私は大人(おとな)だもの。」


森番さんは、自慢気に言いました。


大人気(おとなげ)ないのです。」


お嬢さまは、森番さんのハンカチを受け取って自分で汗をふき始めました。


「お、お嬢ちゃん。鋭い言葉を覚えたね…」


森番さんは、冷や汗をかき始めました。


「執事さんが森番さんに負けたら使うようにって。」


「へぇ〜執事くんが。……まぁいいか。さぁさ、入って入って。冷たい麦茶を、入れてあげよう。」


森番さんは、立ち上がってぐぅ〜っと背伸びしました。


「やった!」


お嬢さまは無邪気に喜びます。


「それにお嬢ちゃん、がんばったから特別にごちそうもふるまってあげよう。」


「わーい!」


二人は、そそくさと小屋の中へ入りました。




ごちそうの準備が出来ました。小屋の中にある食卓は、とてもおいしそうな食べ物が並んでいます。


「森番さん。」


お嬢さまは、森番さんに声をかけました。


「どうしたの?お嬢ちゃん。」


「この季節(きせつ)にリンゴがたくさん()れるのは分かりますけれど…」


食卓に並べられているのは、


「本日のごちそうは、リンゴミートパイ、リンゴのサラダ、リンゴの甘辛焼き、リンゴゼリー、もちろん外せないのはリンゴジュースその他リンゴ料理たくさん。」


森番さんは、執事の真似をするように料理名を言いました。


「なんでリンゴばっかりなのですか?」


お嬢さまは、またちょっと不機嫌そうになって言いました。


「だって今日は、さんぽと言っておいてリンゴを食べに来たんだろう?」


でも森番さんには、お嬢さまが何をしに来たのかお見通しだったようです。


「いっこでよかったです。」


「こどもは、えんりょしない!ほら!食べた食べた!」


「むぅ…いただきます。」


お嬢さまは、不満(ふまん)そうにリンゴミートパイを一口食べてみました。


「どうさ?美味しいだろ。」


お嬢さまはよくかんでしっかり飲みこみました。


「よく分からない味ですけれど、おいしいです。」


「じゃあ、じゃんじゃん食べちゃってね!」


森番さんは、ごきげんになって言いました。




しばらくごちそうを食べてお嬢さまは、おなかがいっぱいになりました。


「もうおなかいっぱいです。ごちそうさまでした。ふわぁ…」


お嬢さまは、ちょっぴりよごれた口をふいてあくびをしました。


「おそまつさまでした。そこのベッドに座ってな。後片付けは、私がするからね。」


「は〜い…ふわぁ…」


お嬢さまは、またまたあくびをしてベッドに座ってぱたっと横になり そのままねむってしまいました。








「お早う御座います。お嬢さま。起きてください。ご夕食のお時間ですよ。」


執事の声が聞こえます。お嬢さまは、それを聞いていつもの朝の様に身体を起こしました。


「おはようございます。執事さん。」


「お嬢さま。何か仰るべきことがあるのではありませんか?」


執事さんは、しかるような口調でいいました。


「ふわぁあ〜。よく眠れました。」


お嬢さまは、まだ気付いていません。


「ご夕食のお時間ですよ。帰りましょう。」


執事は、優しく言いました。


「ディナータイム?」


お嬢さまは辺りを見渡しました。木で出来た壁、天井、床、机、椅子…ここは森番さんの小屋のようです。椅子には森番が座っていました。


「そうだったのですか。」


お嬢さまは、ようやく自分が昼寝をしていたことを思い出しました。


「はい。お嬢さまはディナータイムまでお昼寝をしておられました。」


「すみません。執事さん。お昼には戻ると言ったのに夕方になってしまいました。ごめんなさい。」


お嬢さまはあわてて謝りました。


「森番さんの小屋でお眠りになっていたから良いものの、もしお外でお昼寝されていたら今ごろはクマさんのお腹の中ですよ。」


「まぁまぁ執事くん。許してあげなよ。お嬢ちゃんも謝ってるんだからさ。」


「今回は良しとします。次から気を付けてください。」


「はい!」


「お返事よろしい!おっけー!さぁ!ごはんにしよう!もう真っ暗だ。うちで食べてな!」


森番が大きな声で言いました。


「そうしましょう。」


お嬢さまが元気良く言って


「ええ。そうしましょうか。」


執事もそう言いました。




月も出ない雲の下。暗く静かな森の中にある明るい小屋で、今夜は明るい笑い声が聞こえます。

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