果実酒作り
決められた型にはまることを許容し、しかしその枠から飛び出す勇気を持つものを料理人と呼ぶ。
お酒造りは私にとって一番の楽しみです。
ですがくじ引きの結果、私は世話役になってしまったため次回まで作るのは我慢しなければなりません。
でも世話役としてみんなのそばで作り方を見ていると、その子その子で違いがあって早く自分も作りたくなってウズウズしてしまいます。
たとえばレモンを採用した子でも、丸のまま漬ける子と綿と呼ばれる部分を丁寧に取り除いて漬ける子。
何種類もの果物を漬ける子や野菜や薬草香草を混ぜている子もいました。
私はそういった面倒なことが嫌いですし、やはりお酒と言えば葡萄でしょう。
葡萄だけで造られたあの風味に勝るものはありません。
とはいっても、色々な果物を混ぜたいわゆる混合酒も、あれはあれで味わいがあり楽しいものになります。
……あそこで木片を入れてる子のお酒は不安にはなりますが、『調理親書』のとりくむ時みたいに新しいことへ挑戦することが料理では大切です。
だって漬け込むことで香りが生まれる食材はたくさんありますもの。
それから強めのお酒を注いで全体になじませ、それから蜂蜜を加えます。
そこにこの前にみんなで作ったブドウのジュースを皮や種ごとドボドボと加えていきます。
この時のブドウジュースは腐ったような泡をたてていますが、気にせずこのままフタをします。
ブドウが高くて手に入らない時にはリンゴでも代用はできますが、リンゴは色がつきにくくてブドウよりいいんですよね。
そうしたら朝夕1回ずつ中身をかき混ぜ、10日もしたら漉しとります。
漉しとった具はよく絞ってから、残りは近所の村へと引き取ってもらいます。
こうしてできたお酒は時間が立つとお酢になるため、すぐに飲みきらないといけません。
いったい何をどれだけ使ったらどんな味ができるかは誰にも分かりませんし、同じ物を作ろうと挑戦してもその出来上がりは再現できません。
神のみぞ知る、という奴です。
「おっかさーん、チーズ入れてみていい?」
「私もベーコンを入れてみたい」
「……」
自由に、というのもちょっと問題があったかもしれません。
次が50話の補足回がひとまず最終話になりますが、投稿までにはちょっと時間をいただきます。