制服
「愚者は何を言ってるか分からない」
「賢者は何を言ってるか分からない」
「それでね、それでね、みんなの制服をお揃いにしたいの」
「ふむ」
現在、布は外部から購入して渡し、各自で服を作らせている。
そのため見た目は不ぞろいで、技術の差もあるためその作りに差がでてしまっている。
しかし外の職人を頼るには金がかかりすぎると悩んでいたところ、「服を作れる面白いメイドがいる」と言われて引きとったのが彼女だった。
確かに彼女が描いたという絵と服を幾つか手にいれ、住人に見せてみところ反応はさほど悪くはない。
職人として扱うつもりだったため、使用人としては全く役に立たないと承知の上で彼女を雇い入れたのだが、その使えなさは私が想像していたもの以上だった。
水を運ばせればこぼし、料理をさせれば足元に落とし、掃除をさせれば飽きて寝てしまう。
しかも仕事中に絵を描く始める癖があると聞いていたので本がある部屋には決して入らせないことにはしていたが、代わりに壁や床、着ている服に炭で描きはじめる始末。
前の屋敷では周りとあまり馴染めてはいなかったという報告を受けていたが、屋敷よりは幾分か緩いここでも同様の報告を受けていた。
しかし本人がそれを気にしていないのは一つの才能というか、欠陥というかは判断が難しいところだか。
「具体的に話を聞こうか」
私は読んでいた本を閉じ、彼女の方を向いてそう尋ねた。
「具体的?」
「いや、思ったことを言うといい」
「うん、みんな色々な言葉を話すでしょ、それでね」
彼女が言いたいことをまとめると、その使用人が話せる言語によって服の模様を変えるという案。
さらに複数の言語を話せるのであればの模様を組み合わせることができ、これまでみたいに話しかけても言葉が通じない事態が防げるとのことだった。
「できるのか?」
「たぶん?」
それは決して悪い案ではない。住人から言葉の壁について嘆かれ、雇用段階で言語統一を求められたことがあったが、彼女の案を採用すればその半分ほどは解決できる。
問題があるとするならば、彼女ひとりで使用人全員分の服を仕立てなければならず、その間は通常の業務などできるはずもない。
しかもそれが成功したならまだいい、できたものが受け入れられなければ彼女の居場所は完全になくなる。
「それとね、燃えにくい布があったらそれも欲しい。この前も裾が燃えちゃってビックリしちゃった」
脱ぎやすくしてあったから大事にはならなかった、といって脱ごうとしたのを止めると、
「たしか倉にあったはずだ。使用許可をとっておこう」
名前は忘れたが魔物から手に入れた糸で織られた布がある。あれは使用人業務で触れうる熱には耐えられたはずだ。
どうせ外には出せない代物だし、そのまま死蔵させては捨てるのと変わりがない。
「他には何かあるか」
「うーん、見てからのお楽しみ?」
「他に使えそうなものがあれば蔵から持ち出してかまわんからな」
エプロンへ描かれていたデザインを見ているためおおよその想像はできていた。しかしそれはあくまでも粗描のため細かい部分はわかってはいない。
「あぁそうだ」
伝えておかなければならないことを思い出し、回転しながら部屋を出て行こうとした彼女を呼び止めた。
「ほぇ?」
「機能性と……いや、動きやすくするのと、洗いやすくしておいてくれ」
その言葉に対して「はいさー」という声が返ってきた。