童話雑談
「世界には同じ顔を持つ他人が3人いるというが、結局は他人である」
「パン窯って入ってみたくなりますよね」
「でもそれって昔話的に閉じこめられて焼かれるよね」
「パン窯で焼かれて死んじゃう魔王って弱そうですよね」
「えっ、神でしょ」
パタンと窯の口を閉めながら答えます。
でも彼女的には違うらしく、仕方ないので話してあげました。
「……それで、妹のためにパンを焼いてあげようとして、中の温度を確認してたところを妹が抱きつこうとしたらパンシャベルごと中に入っちゃって、でも神の窯は所有者しか使えないから妹には開けられず、すっかり焼きあがってしまった。でしょ?」
「うん、やっぱり違うよ?うちだとその妹を食べてしまおうとした魔王が、逆に焼かれて食べられたって内容でした」
いやいや、いったいどこの魔王が女の子の体当たりに負けるんですか。
あ、いえ、そういえば窯に閉じこめられてしまう神様もどうなんでしょ?
でもここに来る魔王さんならそんな死に方をしてもおかしくはない気もしますが。
そんなくだらないことを考えていましたが、
「ちょっと待って、いま食べたって言わなかった?」
「はい、熱さを逃れようとパン生地に身を包んだまま焼かれてて、美味しそうだったからペロリと」
「……」
美味しそうだったからってついさっきまで親戚の姿をしていたそれを食べたくなるもんでしょうか?
「うちの地方じゃそれを元にしたパン料理もあるんですよ?」
それはそれで興味があるので今度作ってもらいましょう。
「でもさー、うちだと鍋で煮てたよ」
おっと、ここで新しい説が横から出てきました。
野菜を刻んでいた先輩がいうには殺されたのはやっぱり魔王で、「お風呂に入ろう」と誘ってきたのを突き飛ばして煮殺したのだとか。
と、話題に一度火がつけば次々に移っていき、あっという間に盛り上がってしまいます。
どうやら似たような話が各地にあるらしくて、そのまま星になったパターンや煙になって消えてしまったりなぜか卵になったり、体当たりするのも弟だったり娘息子だったり使用人だったりと、ですが言葉や地域が違っていても、体当たりする部分は変わらないみたいです。
ワイワイがやがやと盛り上がったところで、バンバンと何かを叩く音が聞こえました。
「ほら、いつまでも話してないで集中しなさい」
「はーい」
そんなマムの一言で私たちは気を引き締め、夕飯の準備のため意識を向けました。