テーラーメイド
客「挽き肉の方が手間がかかってるのに安いのはなぜなんだい?」
肉屋「手間をかける価値があるからだよ」
「おはろー」
「ずいぶんと遅いわね、また徹夜で描いてたの?」
「ううん、作ってたの」
ほら、と炭だらけのスカートの裾をを持ち上げました。
スカートの下からは人参のように白い足と、ぽっこりとしたお腹、それから局部を覆い隠す下着が見えました。
私たちが普段穿いているものとは形が違い、どちらかといえば切りつめられたらズボンでしょうか?
「いやん、みないで」
「見せたのそっちじゃん、いつものでいい?」
「うん」
彼女はぱっと手をはなし、そのまま机へ突っ伏して寝てしまいました。
私も食堂に残されていた食器を回収すると調理場へと戻り、食器を水に沈めておきます。
パンをザクザクと切って皿に並べ、その上から魚と豆のスープと静かに注ぎます。
それから念入りに空焚きした鍋に脂をいれて、全体になじませたらそのまま油壺へと捨て、残った余計な脂は布巾でさっとふき取ります。
塩抜きした溶かしバター、生クリーム、レーズンを卵とよくかき混ぜて、最初は近火で表面をさっと焼き、その上からチーズを削ってまぶし、チーズをを大ヘラを使って半円状にして包み込みます。
あとは遠火でじっくりと中まで火を通しますが、姉御みたいに上手にできればかっこいいのですが、焼きすぎて鍋とくっついてしまったり、焼きが不十分で持ち上げたところから切れ目が入ってばらばらになってしまいます。
そこで私はひらめきました。ヘラで端っこをちょっと持ち上げて、お皿を鍋と卵焼きの間へ滑り込ませればいいんです!
それに気が付きいざ実行してみますが、皿の縁に脂がたくさんついてしまい、しかもこすってしまったせいで焦げもついてしまいました。失敗です。
でも鍋には焦げもほとんど残ってませんでしたので、水でさっと洗って食器棚につるし上げて乾燥させます。
粗熱もほどよくとれたのでスープと卵焼き、それからエールをもって彼女の席へと向かいます。
案の定、彼女は机で寝ていましたが、前に起こして手痛い目にあったので起こしたりはしません。
彼女は名目上私と同じ使用人ですが、扱いはほとんど住人のそれとかわりません。
その裁縫に関するセンスを買われてここに来ることになったそうですが、住人としての入居料を支払えるわけではないため、申し訳程度の使用人業務が課せられてます。
いちおうは繕い物も彼女の仕事に入りますが、彼女自身はそれを仕事とは考えていないらしく、破れてしまった服を渡すとたいてい次の日には直って戻ってきます。
ただ仕事をそっちのけにしてデッサンを始めたりするため火の番や掃除を任せるわけにはいかず、今では殆ど住人と扱いがかわりありません。
そんな彼女の待遇をあまりよく思ってない後輩もちょこっといますが、彼女の仕立てた服はそれだけの価値があると私は思います。
しばらくして目が覚めたらしく、のそのそとスープ皿に手を伸ばしした。
スプーンも使わずに縁に口をあて、ズゾゾゾゾっと音をたてながら飲む姿を見てもそれほど驚かなくなったのは何度目ぐらいからでしたっけ?
私は今ではすっかりと見慣れてしまいましたが、他の子や住人の方がいるときにはあまり一緒にはできません。
卵焼きはフォークを使って食べてはいますが、まだ眠気が強いのかうつらうつらしていて、いつかフォークを頭に刺すんじゃないかと見ていてハラハラさせられました。
私は私の心の安静のためにナイフで切り分け、フォークで口元まで運んであげます。
すると彼女はヒヨコみたいにパクリと食べます。
今回の焼き方は好みだったのか飲み込むとすぐに口を開けて待ってました。
そうして共同作業な食事が終わると今度は作品の紹介が始まります。
「ほらほら、この輪ヒモをひいて、この輪をフックに引っ掛けるとキツさを自由に調整できるんだよ」
「へー、では仕事中に落ちてしまいそうになる事態は減りそうですね」
「生地に余分を持たせたから蒸れないのも売りかな」
確かに下着といえばヒモがほどけやすく、しかし固く結ぶと脱ぎにくくなります。 さらに身体に密着させているため走った時とか夏とかは気持ちが悪く、誰かに見られた時にも身体のラインがほぼわかってしまいます。
ですが彼女が作ったアレならそういった悩みはなくなります。
ただ、
「洗濯が大変そうですよね」
「うん、輪ヒモにゴミがスッゴい詰まるから、ランドリーのみんなには不評だろうねー」
ここにいると忘れてしまいそうですが、屋敷ではそんなことはお構いなしなんですよね。
「それじゃあ見せて来るね」
「行ってらっしゃい」
デザインと作ること、それから繕うことが彼女の仕事であるため、新しい何かができたときには管理人にそれを見せにいくそうです。
さすがに彼女でも、お爺ちゃんといってもいちおう男性にあんな感じに見せたりはしませんよね?
不安になってきました。