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ドゥーラ焼き食べたい

嘘をついた罪を裁くことはたやすいが、誤解させた罪を裁くことはむずかしい。

 料理書を読んでいたら気になる記述がありました。その料理書では各章ごとの間で料理にまつわる昔話や物語を紹介していましたが、ドゥーラ焼きというあまり聞き慣れない単語がでてきました。

 それによれば、ある英雄が冒険の途中によった街でドゥーラ焼きを食べていたく感動をした、とあります。しかしドゥーラという食べ物にはあまり心当たりはなく、幾つかの辞書をあたってはみますがドゥーラという単語は見つかりません。

 一度気になるとどうにももどかしくなってしまい、キッチンにいた子たちに聞いてみますが口を揃えて知らないと言います。ただ子供のドラゴンをダーラと呼ぶ物語を聴いたことがある子がいましたが、それならドラゴン料理と表記しているはずです。

 改めて本を読み返してみますが「その表面は茶色くて丸く、割ると黄色と黒色が層になった素材が見えるのが特徴である」と書いてありましたが、味や作り方については何も触れてはいません。

 ランドリーのみんなにも聞いてはみますがそんな食べ物は聞いたことがないが、再現できたら食べさせて欲しいと言われてしまいました。


……ちょっと嫌な予感がしますがハリスさんに聞いてみることにしました。いつものように夕飯を食べに降りてきたところを捕まえ、読書室でその記述を見せると、


「ドゥーラ焼きか?知ってるけどどうかしたかい?」


やっぱり知っているみたいで、相変わらず謎の多い人です。


「……いえ、他の子たちに作って欲しいと頼まれまして、しかしあの子たちに私が失敗してる姿を見せたくはないので、何かうまく作るためのコツをご存知ではありませんか?」


と嘘をつかないようにぼかして尋ねます。


「いや、流石にワシも作ったことはないからな」


断られてしまいました。簡単には教えてもらえないと思っていましたが、知らないというのはちょっと珍しい反応です。

 それでも食堂に向かうまでの間、ドゥーラ焼きについて幾つかの情報を聞き出します。なんでも古い時代の物で、今では作り方もすっかり途絶えてしまったそうです。当時も今も製法に関する内容の多くが口伝であるところが多く、ドゥーラ焼きもその製法に関する記録は見つかっていないみたいです。


+++++


 そんなことがあってしばらくして、意外なところから真実が出てきました。さすがにあの人に聞くわけにもいかず、収蔵品の鑑定と目録作りについての進捗状況を確認する、という名目で友人に話を聞いてもらうと、


「あぁ知ってるよ、というかここにあるよ」


当然とばかりに言われました。その言葉に思わず


「知ってる!?ある!?」


と、年甲斐もなく反応してしまいます。


「えっ、知ってて来たんじゃないの?」

「まさか」


 どうして骨董品の整理を業務にしている彼女がそんな古い料理を知っていると思いますか、そう言いたいのをこらえます。すると彼女は近くにいた住人に話しかけ、それから私の手を引いて倉庫の奥へと歩き出します。

 所狭しと並べられる棚には金銀財宝、武具から着物、農具や装飾品、それからよく分からない物まで本を除くありとあらゆる物が収納されていて、私にはそれがどのようなものか分かりませんが、おそらくは何かしらの秩序を持った分類をされていることは感覚的に分かります。

 放り込まれたように仕舞われていた頃は終わりがないと思っていましたが、今ではその終わりは近いとさえ思えます。

 しかしここに収められているドゥーラ焼きとは保存食なのでしょうか?適当につくった干し肉でさえ数年は持ちますし、きちんと処理と管理を行えば腐らない保存食も存在しているといいます。味は知りませんが。

 そういえばチーズにカビを生やして食べる地域があると聞きました。だとすれば、中はカビで黒くなり、表面を焼けばあの特徴を再現ができるのではないでしょうか?つまりドゥーラとは地域のことであり、ドゥーラ・チーズを焼いたものをドゥーラ焼きというのでは?


「あ、あの、ドゥーラって地名ですか?」

「なんだ、知ってんじゃん」


そういって彼女が棚から取り出したのは1枚の大皿でした。


「はい、これがティックドーラ陶器、通称ドゥーラ焼きだね」

「……え?」

「ティックドーラって国が昔あってさ、そこの陶器をドゥーラ焼きって呼ぶんだよ」

「で、ですが、私が読んでいた本では『ドゥーラ焼きを食べた』とありましたし」

「あぁそれはさ、文学的な表現で『ドゥーラ焼きを食べる』って『ティックドゥーラ陶器で食事をする』って意味なんだよ。

 これだけデカい皿に負けないほどに盛られた料理って意味が最初で、その意味はその時々で変わるんだよ」


いわく、相手がそれだけの歓待を受ける地位にあると持ち上げる表現と、そうするだけの宴会をひらけるほどに生活に余裕があるという意味があるらしく、そもそも『ティックドゥーラ陶器』を持っている時点で十分な富裕層となるため、それを強調しつつ相手を持ち上げる古い言い回しだそうです。


それをハリスさんに伝えたところ、『珍食大全』という本では一応、その器の食べ方も載ってはいるそうですが、さすがの私でもそんなあからさまな冗談に騙されません。


追記:さっき『ドゥーラ焼き食べたい』という演目をハリスさんが演じていた、死にたい。

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