番外編:屋敷の朝
「ふあぁっ……」
朝、夜明け前の鐘の音で少女は目を覚ました。太陽はまだ顔を出しておらず、夜明け前の街はその多くがまだ眠りにつているが気にすることなく着替えを始めた。寝間着を脱ぎ捨てるようにして肌着1枚になると、ベッドと布団の間に挟んでいた仕事着を取り出してさっと袖を通した。
それから同じベッドで寝ていた2人の少女を揺すってみるが起きる気配はなく、金髪の少女はいい夢でも見ているのか口元には笑みを浮かべている。
「はぁ」とため息をついて2人を起こすのを諦めたのか、曇りがちな姿見をみながら寝癖を櫛で整える。腰まで届くほどに長い黒髪は時折櫛を噛みつくが、何度も繰り返しすかれていくうちにそれを諦めて滑らかさを取り戻していく。髪の根元を紐で軽く縛り、それから馴れた手つきで三つ編みを作りながら窓に近づく。編み終えるとギシギシという音をたてながら窓を勢いよく開け、狭い部屋に冬の寒風が吹き注いだ。少女が窓から身を乗り出して新鮮な外の空気を感じているとそれまで寝ていた2人は抗議の声をあげた。
「ちょっとぉ、寒いじゃないですかぁ」
「そうですよ。せっかく楽しいゆめだったのに」
そんな抗議の声を無視して2人の毛布を引きはがすと、2人は彼女のことを恨むような視線を送ってみる。
しかしまだ寝ぼけているせいか迫力には欠けていた。2人も本気で彼女を恨んでいるわけでもなければ、当の本人も恨まれているとは思ってはいない。3人にとってそれは毎朝の恒例行事であり、これが夏になれば2人は布団や毛布で蒸し焼きにして起こされることになる。
「早く起きないとまたお小言もらうわよ」
その言葉でようやく2人はベッドが降りて仕事着へと着替えを始める。しかし少女と比べてその動きは緩慢としており、のそのそと寝間着の上に重ね着をしてから寝間着を脱いでいく。通常の寝間着であればそのような脱ぎ着は困難ではあるが、寝間着を仕立て直したことで胸部からスカートの裾までを大胆に裂き、しかしはだけてしまわないようにリボンで留めてあるが、それほどくだけで仕事着の下からでも脱ぐことができる。
しかし他の人がそんなつくりを見たら娼婦を連想することは想像できたため人前で着用することはできないが、寝間着であればそうそう問題にはならない。実際、深夜の急な呼び出しの時も上から仕事着を被ることで滞り無く仕事を行うことができた。とはいえ、彼女たちの上司や屋敷の主人たちに知られたらクビは免れられない。
隣で眠そうにしている2人を昔の自分と重ね合わせ、
「先輩、元気にしてるかな」
そんな仕立てをしてくれた友人のことを思い出していた。
それから足下に脱ぎ散らかされた着替えを拾い籠へと詰め込むと、木の扉をギイッと押し開く。すると寒風が一層、部屋の中身吹き込み2人の悲鳴があがった。
「さぁ、今日も頑張りますか」