あるキッチンメイドの願い
貴族「料理で一番難しいことはいったいなんだい?」
料理人「食べさせることですね」
ここで食事をとるには大まかにわけて二つの選択肢がある。
1つ目は食堂でとること。
食堂では私をはじめ、何人もの使用人が昼夜問わずいかなる時でも食事を提供できるように待機している。
その利用料はどれだけ食べて残しても無料と書くと驚かれるかも知れないが、彼らが毎日食事をとってもなお最初に納めた利用料の半分にも満たないらしい。
しかしそれは私たちの提供する料理が粗末であったり日持ちをする食べ物ばかりというわけではなく、季節に合わせた果物や野菜、塩漬けの魚、直ぐに傷んでしまうような牛乳や卵といったものまで用意することもある。
しかしそんな私たちの苦労とは裏腹に食堂を利用する住人は殆どいない。
では住人達がどうしているかと言えば、予め要望があった住人の部屋の前に干し肉とパンとチーズ、それから水を置いておく。
チーズと言っても丸太を切り出したように大きく石のように固いチーズだし、パンだって籾殻が大量に含まれているような粗末なパン。
そのパンは固ければ固いほどがいいとされて、その理由は枡形に焼くことで器としての機能を持たせることができるからだそうだ。
パンをナイフで成形していると自分がキッチンメイドなのか木工職人なのかわからなくなってくるのは悲しい。
干し肉にいたってはちょっとわけあり品。
塩味もきつく、カチカチになるまで乾燥されている。
スープのダシにしようとしても塩味がきつく、臭いもきつい。
彼らはそれをちびちびとかじり、飲んで食べて腹を満たしながら、本を読んでいるらしい。
私がここに勤めるよりも前には果物やワインなども提供されていたそうだけど、ワインやエールは零したり酔い潰れて本を汚損する恐れがある。
しかし水ならばその被害を最小限に抑えられる、そんな彼らとしては当然の配慮らしい。
しかし前冬にチーズが炉の熱で溶け、住人の1人が火傷を負った事件が発生したため、本の汚損を防止する名目で遠からずチーズがメニューから消えることになると私は考えている。
いつかこの食堂を毎日のように賑わせること、それが今の私の願い。