休み明け
その病の特徴は感染源が必ずしも感染・発症しているとは限らないこと。
そして感染者同士が一所に集まると、その症状が悪化することが確認されている。
私は最近働きすぎてたと思ってました。
体調が悪い友達を休みの間手伝ったり、つい早起きしてしまって水汲みを手伝ったり、眠れなからと夜警を同伴してみたり、ずいぶんと身体が悲鳴をあげていた。
でもそんな私はとても素晴らしい物を見つけたんです。
しかも友達が私の代わりに働くというので甘えさせてもらったら丸3日も休みになった!
これは運命に違いない、と夜勤が終わって朝食を誰よりも早く食べてしまいます。
「寝に行く」とだけ友達に告げると、私は外階段をズバーッと駆け上がります。
そして壁に隠した目印を見つけると、音が出ないよう優しく扉をひらきます。その先にあった小部屋を抜けれと部屋主がいない部屋が!
念のために声をかけてみますが返事はありません。
よし!と本に気をつけながら部屋にあるべき物を探します。
少し迷っちゃいましたがついに見つけました、フカフカのベッドに布団!
私たちがふだん使うような木の板のベッドと葉っぱの詰まった布団とは比べものにならない柔らかさ。
ちょっとホコリっぽい気もしましたが土臭さに比べれば気になりません。
それに枕だって砂じゃなくて綿がタップリ詰められてます、いえ、実際に使ったことないから自信ないけど多分綿です。
私はなんて素晴らしい発見をしたんだろい。柔らかな布団に包まれて眠りについたのです。
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「で、目が覚めて今にいたります」
「なるほどな」
幸せな気分で目覚めた私が最初にみたのは読書にいそしむお父さんでした。
お父さんは別に私を怒るわけでもなく笑うわけでもなく、ただ自主的に床に座る私の事の経緯の告白に耳を傾けていました。
お父さんの部屋はもっと上の部屋だということは知ってましたが、ここが運営者の部屋だとは知りませんでした。
誰かが正式に所有している部屋ならもちろん業務以外での立ち入りは固く制限されてます、しかし行方不明や死亡により所有者不在の部屋となればその限りではなかったりします。
虫除けを施したり新調したベッドで使用人の誰かが横になって馴染ませることも立派な業務だったりするからです。
この部屋も元は誰かの部屋だったそうですが、所有者が亡くなったのを確認したお父さんが運営者になってから公私を切り分けるため、運営者室という名目にて私物化していたとのこと。
そのため表向きには空室で実際は所有者がいて、でも所有権があるわけではないので空室という複雑な状態みたいでした。
ですが実際の業務はお父さんの部屋で殆ど片付けるためここはあまり使うことはないみたいです。
うん、よくわかんない。
それで会話が止まってからしばらくたち、お父さんは本をパタンと閉じました。考えがまとまったからか、キリのいいところまで読めたからかはわかりませんが、私は心の中で耳をふさぎました。
「まぁ、好きにするがいい」
「ほぇ」
「ここで誰が寝てたとしてもそれを罰する規則が存在しないし、それを作る予定もない」
「えっと、」
絶対に怒られると身構えていただけに、言葉に詰まってしまいました。
確かに規則にはなかったかも知れません。
でも主人扱いでこそありませんが住人の部屋を無断使用することはそれだけで済ませていいことではないと私も知ってます。
うん、知ってるけど柔らかい布団に負けてしまった自分がにくいです。
そんなことを考えていたら、
「そもそもワシの仕事ではないからな」
えっ、と言い掛けて自分の影にだれかの影が重なるのに気がつきました。
おそるおそる振り返るとそこには恐ろしいほどに笑みを浮かべたお母さんがいました。
「ハウスメイドの管理はハウシキーパーの勤めじゃ」
「い、いや、私はいまは休みでして。それにほら、もうすぐお昼だし。せめてあとちょっと布団のやわらかさを」
「勉強は休みに行うものですよ。あなたは暗黙の了解という物を学ぶ必要があります」
私はお母さんに引きずられるようにして部屋を出されます。
お父さんはそんな私たちを見てちょっと笑っているような気がしましたけど、きっと読んでた本がおかしかっただけだよね?