本の種類
「なぜ芸術家は模倣により技術を修得するのに、真似られることを強く嫌がるのですか?」
「越えられることが怖いからだよ」
本と一口にいっても様々な形態がある。
単純に紙に書かれた物から始まり、石に彫られた物、大きな葉っぱに書かれたもの、素材がなんであれそこに字なり絵なり書かれていれば本と読んでいる。
本の運搬とか整理とかをなぜかよくやらされる私が、これまでに扱ってきた本で困ったものを思い返してるとしよう。
まず一番悪目立ちするのは魔道具の類の本で動き回るタイプ。
アレは暴れたり噛みついて来たり吠えたり消えたり飛び回ったりする。
そのため他の本が傷つける恐れがあるため鎖や縄なんかで縛り上げたりするらしいけど、それだと擦過傷を与えてしまうので本に合わせたケースを拵えなくちゃいけない。
その動きは本ごとに決まっているから落ち着いて分析すれば簡単に捕まえられる。
ただ後期の作品になるにつれて行動パターンが増えるから、注意しなきゃいけない。あんな本を作った奴は死ねばいい。
次に石でできた本、あれは石版だったり壁画だったり様々ありるがとにかく運搬が大変。
落とせば当然割れるし、重いしかさばるし、意外と劣化する。最近じゃ壁画はその空間も読み解くための重要な要素だとかで持ち運ばれなくはなったけど、実際には邪魔なのと読みたがる人があまりからだと思ってる。
そしてやたら新しい本、雪白くて角を直角に切りそろえられた本がたまに流れてくる。
でもあれは扱いが非常に面倒。
その殆どが未知の言語で書かれているから興味を示す人がたくさんいるみたいだけど、その紙の特徴から買い取りを高くしないわけにはいかないし、でも内容が全く分からない以上は価値がわからない。そのため価格交渉が非常に面倒になる。
最近はそんなことをしたら自分たちの首を絞めるだけだと承知の上で、値切りすぎると紙の材料にすると脅してくるから困る。
古すぎた本、本は古ければ古いほどに価値が高くなるのは仕方ない。
その主な判断材料となるのはそれの書かれた時代を示す奥付と装丁や紙と墨の劣化具合。
しかし中には不心得者がいて古く見せるための加工をほどこしたり、逆に綺麗に仕上げて高く売りつけてくる奴がいる。
お願いだからそのままで入荷してほしい、じゃないと破れたページを修復したりかすれた文字を書き足したりされた怒りが全て私たちに向いてくる。
それに古い本は保管する環境に気を配らないとすぐに壊れてちまうから、持ち出しを強く制限しなきゃいけない。
写本、アレはアレで面倒だったりする。
そもそも写本はそれが原典にどれだけ近いか、誰が写したか、そんなくだらない要素が査定に関わってくる。
しかも住人の中には原典よりも特定の写本家に執着している方もいる始末、もう何がなんだか分からん!
しかも住人の多くは写本家が勝手に改行や校訂することを喜ばしく考えてないみたいだが、原典の多くは同じシリーズの本を並べると高さが不揃いだったり、同じ本の中でも紙のサイズがバラバラだったり、酷いのはページに何枚もページを貼り付けてるものもあるから、非常に見た目が酷くなる。それを見かねた写本家が体裁を整えたりするわけだし、それも本の成長だと受け入れる人もいるからわけわからない。
あー、あとそれから粘土板も持ち込まれたりする。あれは石版よりも壊れやすいため、専用の棚を用意して管理する必要がある。だけど輸送過程で割れることを恐れてか持ち込まれることはあまりない。あまりないだけで0ではない。
金属板、うん、これも困ります。利点といえば石版や粘土板と違って壊れにくいんだが、錆という大敵がいる。それに薄い物だとケガをすることもあるし、自分の重さで曲がった癖が残ることもある。「やはり金属の本が一番劣化しない、全ての本は金属で作るべし」などと戯言を吐くヤツもいるが、戦争の道具としてとかされる可能性があるだろ!とか突っ込みたい。。
木や動物の皮で作られた物もあるが、文字を削られたりするから評判はよくない。しかも加工がキチンとなされてないとカビが生えたり腐ったりする。でも私達はその加工をさせてもらえないからこっそり燃やしたい。目を離すとカビやローパーが生えてるときがあるから、こっそり取り除いておかないといけない。
手紙や書類なんかも私たちは本として扱う。神がしたためた手紙から知らない貴族の遺言書まで、とにかく真贋不明な物も多いから最近では一山いくらな扱いで引き取ることにした。恋文を未来永劫晒し者にされるとは思わなかっただろうに。
一番困るのは、ここにいた使用人の日誌だ。
なんせ読んでいてこっぱずかしくなる。私の日誌もいつかはこんな感じに誰かに読まれるのかも知れないが、その時はどうか燃やして欲しい。