雨期の悩み(中)
「人はなぜあぁも醜く生きようとあがくのでしょうか?」
「死を最大に楽しむためだよ」
あの日、アレを発見したのは不幸な事故がきっかけでした。
私は自分が担当の風除室に積み上げられていた洗濯物を回収し、たまたま出会ったハリスさんと謎かけを出し合いながら、暗い内階段を降りていました。
しかし暗かったことに加えて、謎かけに気をとられていたせいか、足元のアレに気がつかずにうっかりと踏んでしまい、ズルリと滑ってお尻を打ってしまいました。
幸か不幸か階段は広くはない螺旋階段だったため滑り落ちることはありませんでしたが、しっかりと守ったつもりの洗濯籠からは何枚か飛び出しています。
この後で洗う予定でしたし、足を捻ったわけではないのでそれ自体は問題はありません。
心配そうに見ていたハリスさんにも「大丈夫です」と苦笑いしながら答え、いったい何を踏んだのか確かめようと彼に預けていた灯りを受け取りました。
ネズミの糞か誰かが落とした洗濯物だろうなぁ、と思いながら灯りを近づけて見えたそれは黒い何かでした。
最初に思ったのは踏まれて延びてしまった葡萄です。妙にテカテカとした光沢とみずっぽい感じのそれは、葡萄踏みで見たような気がしますし、何より踏み心地もどことなく似ています。
ですがそれをさわるのは生理的に受け付けられず、どうしようかと悩んでいるとハリスさんがヒョイとつまみ上げ、ヒラヒラと振りながら何かを確認していました。
葡萄にしてはちょっと長いため、次に思ったのは湿った干し肉みたいという感想です。
だとすれば誰かの食べ残しを踏んだのか、飲み込まずに吐き捨てた無法者はいったい誰なんだか、などと考えてしまいちょっと嫌な気分になりました。
それに階段で滑ったことをハリスさんにしばらくからかわれるのも嫌でしたが、灯りを手にしていたら大事故になっていたかも知れないので、言葉にはしませんがそこだけは感謝します。
ですが、そんな気分はハリスさんの一言で吹き飛びました。
「ローパーだな」
私は悲鳴を上げました。