雨期の悩み(前)
「「大切なのは内面で見た目ではない」という英雄の言葉があるが、本当はこう言ったそうだ。
「大切なのは見た目ではなく実力だ。だがヤツは別だ」」
ついにあの季節がやってきてしまいました。
1月以上も続く雨、それに加えてうだるような暑さ!
食べ物も塩漬けなり酒漬けなりしないとすぐにカビが生えたり傷んだりしてしまう、冬と同じくらいに食べる物に困る季節。
そしてそんな食べ物を放置するとヤツらがどこからともなく現れてきます。
雨季になると私達は各々が効果的だと思う道具を手にし、朝夕合わせて2回、塔の下から上まで巡回を毎日行います。
普段は部屋の中まではあまり入ろうとはいたしませんが、雨期に限って私達は気にすることなく部屋へ立ち入ります。
なぜなら住人が死んでも誰も非難はしませんが、本が傷むようなことがあればどうなることか想像できません。
そもそも塔内は適度な環境を保つような作りをしているそうですが、ヤツらにとっては砂漠のように乾燥さえしていなければカビみたいにどっからともかく発生するという話です。
もちろん各住人には事前に連絡をいれておき、基本的には朝に室内を点検・清掃を行います。
しかし朝がどうしても都合が悪い場合には内階段と部屋の間の小部屋、風除室と呼ばれていますが、そちらに手ぬぐいなり手袋なりを置いてもらうことになっています。
部屋の中を確認し本にカビが生えていないか?食べ物が落ちてはいないか?虫やネズミのような小動物が湧いてはいないか?
そういった当たり前なことを普段以上に確認し、その存在が確認されればあらゆる手を尽くして根絶やしにします。
普段の仕事に加えて毎日巡回を行うのは手間でありますが、必要なことだそうです。
しかしヤツらが現れるのは食堂か食料庫で、1匹見つけたら10匹はいる、水とゴミで1年は生きる、なんて言われるほどに繁殖力と生命力が高いのです。
それに見た目も黒く、倉庫では灯りを良く照らさないと暗闇に紛れてしまい、しかも灯りを近づけると身を物陰に隠す習性があるため、慣れていないと見逃してしまいます。
危険を察すると襲いかかってくることもあり、成長すると酒樽よりも大きくなることがあるらしいです。
そのため倉庫の巡回には必ず2人以上、可能ならば4人で行うことが推奨されており、最悪の場合には倉庫に火を放つことも考えられています。
私たちの不始末で発生したため自身が火炙りになるのは仕方ないのかもしれませんが、幸いにもそこまでの事態に発生したことはないそうです。
……雨が早く上がらないかな