珍しい果物
我々が食の祈りを捧げるべきは神でも人でもない。
毒で死んでいった者に対してである。
今日は気味が悪いものを仕入れてしまいました。
その表面は焼けたように黒い緑色、ずっしりとした重さから瓜の仲間だと私は判断しました。
瓜と言えば匂いは青臭くて、味は殆どしない水そのもの。蜂蜜やジュースに入れて甘味とするか、スープの材料にしないと食べられたものじゃないはずです。
しかしいざ割ってみたら私は思わず小さく悲鳴を上げてしまいました。
硬い皮に守られていた実は赤く、まるで血を思わせるのです、悲鳴をあげても仕方ありません。
もしかして人喰い植物の実じゃないかと思うのは仕方ないと思います。
その匂いは甘く、いかにも動物を引きつけそうだし、白い種は歯のようにも見えて仕方ないでしょ。
でも包丁とまな板から滴る果汁の色は血というには薄く、もしかして美味しいんじゃ?とも思ってしまう私がいました。
でもみんなに食べさせようにも気味が悪すぎて食べたがらないでしょうし、彼らに食べさせようにもここまで水っぽいと部屋に持って行くわけにはいかない。
中には本に匂いがつくことを嫌う人だって多いため、食堂に誰か来たら食べて貰おうかと思っていた。
ただ、毒があったら目も当てられません。
ううむ、と悩んでいたところにやって来たのは運良くもハリスさん。
アレを半分に切り、中身を丸くくりぬいて器に仕立て、酒漬けにしていた果物やジュースの中に混ぜ込んで出してみたら美味しそうに食べていました。
それから詳しく話を聞くと、あれはやはり瓜の仲間のスイカといい、沢山の日差しを浴びて育つと黒くなる種類みたいです。
スイカは太陽の光を浴びすぎて本来の薄緑色が焦げて黒くなり、また赤い魔力が蓄積して色になる性質があるとのことで、別に血を吸ったりするわけではないとのこと。
山火事が原因で真っ赤になったという説もあるそうですが、山火事で燃え残らなかったとのことで嘘らしいです。
しかし種を飲み込むとおへそから芽を出すため、うっかり飲み込む子供にはあまり食べさせない方がいいと言われました。
そしてスイカは私が思っていた通りに吸血瓜や人喰い瓜なんても呼ばれ、買い手があまりつかない不人気な果物だそうです。
私が購入した費用はスイカとしての相場よりかは半値ほど割高でしたが、他の瓜に比べれば半値以下なので結果オーライだとハリスさんは笑ってました。
嘘蒔きハリスさんの言葉ですからあまりあてにはなりませんが、私手ずからに食べさせようとして嫌がらずに食べていましたし、少なくとも毒がないことだけは信じられはずです。
でも万が一ということもありますので、他の子たちの身に何かあってはコックとして示しがつかないので、まずは私が食べることにしました。
えぇ、私が責任もって全て食べて、それでも問題がなければ来夏はみんなで食べることにしましょう。
あぁでも、私が食べているのを不安そうに見つめてくるみんなの視線が心苦しい。
書いていて思い出しましたが、もしかしたら種を飲み込んでしまったかもしれません。
ちょっとお腹が痛くなって来ました。
追記:芽が出てくるのは春だから気のせいだと言われました。
騙されてると信じたいです。